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zoom RSS 「理想の高校生」EAST SIDE STORY 8

<<   作成日時 : 2007/12/24 20:31   >>

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EAST SIDE STORY 8
 運河に沿って歩く二人。互いの白い吐息に包まれている。街灯を映した川面のキラキラだけが二人を囃(はや)したてる。

 ほんの二三時間。その時間と空間を共有したという連帯感。今まで接点がなさ過ぎた。
 からまった紐がいとも簡単に解(ほど)けていくような不思議を覚えながら取り留めのない話が続く。

「最後の曲良かったな」

「うん。あれビートルズの“Good Night” っていう曲なんだって」

「ジャズじゃないんだ」

「そうだよ。'68年に発表された“The Beatles”っていうアルバムがね、“ホワイト・アルバム”って言われてるらしいんだけど、そのラスト・ナンバーで作詞・作曲はジョン・レノン、ボーカルはリンゴ・スターなんだって。村上君のお父さんが言ってた」

「今聞いてもちっとも古くさくないよな」

「うん。やさしい気持ちになるよ」

「『やさしい』か。佐藤は弟にやさしいもんな」

「全然やさしくなんてないよ。怒ってばっかりだよ。昨日だってなかなか寝ないからプレゼント置くのに苦労したんだから。そうだ。ねえ、サンタクロース信じる?」

「ははっ! 信じてんだ」

「信じてるよ。あれって大人になっても来るね」

「そんな歌あったな。何だっけ?」

「“恋人がサンタクロース”だよ」

「サンタ違うし」

「恋人じゃなくても困った時にいつも来るよ」

「?」

「今日わたし会ったもの」

「ふ〜ん」

「ケーキ買いに来た」ドキッとした。

「そうか」

「ウン。どんなサンタだったと思う?」

(オ、オレ?)

「かっこよかったよ」

(誰だよ)

「それで」

「……」

「『佐藤はかわいい』って言った」

 いや、それを言うなら『佐藤なら売れんだろ。かっこ。ケーキが。かっことじ。かわいいから』だ。

 赤くなった直毅。街灯の真下で良かった。

「あ、思い出した。そう言えばオレんとこにも来た。女のサンタ」

「ウソだね」佐藤さんとしては面白くない。メガネを変えてから直毅の名を口にする子が八組にもいたからだ。

「ウソじゃねえし」

「女のサンタはいません」

「いました」

「かわいいの? そのサンタ」

「すっげーかわいかった」

「林さんとか」なワケないだろ。

「ちげ〜よ」

「な、何か言ったんだ」

「ああ、『松本君はメガネが似合うしチョーかっこいいわ』とか言ってた」

 今度は佐藤さんが次の街灯の真下で赤くなった。

「違うよ『もしかしてメガネ似合うね』って言っただけだよ」

「そっか」

「ごめん『もしかして』なかった」

「そっか」

「それに」

「もういいよ」

「松本君の言った通りでいいよ」

(うそぉー?)と思った。

 ゴオーッ。頭上のカーブをモノレールが傾いていく。
 遠のく音と入れ替わるように、直毅の頭ン中でサンタンドレ大聖堂の鐘の音が鳴り響いた。

「冗談で言っただけじゃんか。ウソだよ、ウソ。ウソつきました」

「ウソじゃないよ。球技大会の3ポイントシュートとか準々決勝のスライディング・タックルとか」

(見てたんだ)

「学食のおばちゃんに頼む大盛り定食とか」

(ナンダソレ)

「踏んでる上履きとか、詰め過ぎて閉まんないロッカーとか、へんなバック転とか、乗ってるママチャリとか、フツーにかっこいいよ」

(ド、ドンマイ! オレ)
 
 向こうから来たタクシーが真横で止まった。寿司折りを手におっさんが降りて来て「うえぇ」と言った。直毅は黙って彼女を川側へ押しやった。下を向いた彼女。それきりもう何も言わずに、運河沿いを歩いた。


 青いブリッジのところで、

「ここでいいよ」彼女は言った。

 向き合う二人。『おやすみ』それが言えない。言ったらそれでさよならだ。

(もう少し送りたい時は何て言うんだろう)直毅は黙ってつっ立っている。

 彼女の手袋がそっと彼の頬に伸びた。

 びっくりする直毅。

 佐藤さんの白い吐息。

 近い睫毛。

 直毅の口の端の痣(あざ)に当てられた毛糸のそれ。

 なぞる手袋から伝わる、やさしい指の感触。

「痛い?」 

 正直動けなかった。

「いてえ」

「ごめん」

 引っ込めようとする手袋を押さえた。

 頬に重なる佐藤さんの右手と直毅の左手。

 思い出した。お釣りを渡す彼女の手。母さんと同じ北風が吹くと“桃の花”が擦(す)り込まれるような痛そうな、それ。
 
「手」

「アカギレだって言うんでしょ」憎まれ口を言う。
 
 もう片方の手袋で自分の口を押えた佐藤さん。彼女の目から機関銃のように涙が発射された。あ〜あ泣かしちゃった。



【我が袖は 潮干(しほひ)に見えぬ  沖の石の 人こそ知らね  かわく間もなし】 二条院讃岐(にじょういんのさぬき)



 同年代よりずっと家事をする手。親から頼りにされる長女。そうは言っても毎日感謝の気持ちを聞くわけじゃない。誰かに認めてもらえるなんて思いもしなかった。佐藤さんは嬉しかったのだ。

 涙に戸惑う直毅。空いた右手で彼女の肩を抱くことも思いつかず、フウと息を吐いて空を仰ぐ。

 直毅の頬からぎこちなく外される手袋。ついて行くように下ろされた繋がれたままの手。それを見つめる二人。

「おやすみ」彼女が後退(あとずさ)りすると伸びた手が自然と離れた。

「おやすみ」濡れた睫毛から目をそらすように直毅が言うと駆け出した彼女。青いブリッジの上を白い帽子と白いコートが遠ざかって行く。

 強い佐藤さん。悔しがりの佐藤さん。意地悪な佐藤さん。素直な佐藤さん。心配してくれた佐藤さん。かっこいいと言ってくれた佐藤さん。そして泣いた佐藤さん。

 そのひとつひとつが直毅の胸に刻まれる。彼女のことなんて何ひとつ知らなかった。いったいそれまで何を見ていたんだろう。小さくなる白から目が離せないでいる。


 
【逢ひ見ての 後(のち)の心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり】 権中納言敦忠(ごんちゅなごんあつただ)



 「松本く〜ん」

 ブリッジの向こうから佐藤さんが呼んだ。よく聞こえなくて橋の中央に走る直毅。「今日はありがとー!」と言って大きく手を振る彼女に、挙げかけた手が気恥しくて鼻をこすった。

 ぐんと冷え込んだ大気。川面の水温との差に静かにガスが立ち上る。

「佐藤ーーーっ!」

 遠くから「ナニー?」と聞き返す声がした。

「好きだーーーーっ!」

 ゴオーッ。モノレールが羽田から最後の客を乗せて通り過ぎる。 

『あしたなー』また空耳。だから「ん〜! あしたねー!」彼女は大きな声で返した。明日冬休みだし。

 アーチのトップに仁王立ちになった直毅の黒いシルエットが浮かんだ。


 お互いにサンタだと認めたX’mas。プレゼントなしの、だけど忘れられない小さなX’mas。



<つづく>



■我が袖は 潮干(しほひ)に見えぬ  沖の石の 人こそ知らね  かわく間もなし / 二条院讃岐(にじょういんのさぬき)
<口語訳>
私の袖は、潮が引いたときも見えない海の底の石の ように、人には見えないでしょうけれども、あの人 を思う恋の涙に濡れて、わずかの間さえかわくひま がないのです。


■逢ひ見ての 後(のち)の心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり / 権中納言敦忠(ごんちゅなごんあつただ)
<口語訳>
ゆうべ、あなたとふたりきりでお会いしたあとの、今のこの苦しさとくらべたら、会いたい会いたいと思っていた頃の恋のつらさなんか、なにも物思いをしないのとおなじようなものでした。参考URL



Good Nightクリック

東京モノレールクリック
サイトの右下で走行音が楽しめます。鉄道マニア必聴(?)

サンタンドレ大聖堂の鐘クリック

桃の花クリック





担当編集者「何故聞こえなかったんです?せっかくの告白」

つる「LOVE STORYのセオリーだよ。知らないの?
   いいところになると踏切で電車がゴオーッとか通るじゃん」

担 「あ〜もお。これだから」

つる「いいんだよ、いいんだよ。これでいいんだよ」

担 「そうかなあ。そう言えば『好きだ』と言わせないでラブシーン書くとか
   言ってましたけど」

つる「へへ。X'masだから大サービスだよ」

担 「サービスて」
   

 今日のBGM→クリック君が好きだと叫びたい

 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。






↓ああ、なんとか間に合いました。長くてごめんなさい。次回からゆっくりの更新です。いつもありがとう。
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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
良かったなぁ、青臭くていいなぁ(笑)モノレールが、二人の感情の盛り上がりを表すメタファーのようですね。深読みしすぎか(笑) 今回は体言止めが多かったですね。そのせいかリズム感が出てたと思います。

>そのひとつひとつが胸に刻まれる直毅。

この文はちとおかしいか。
そのひとつひとつが直毅の胸に刻まれる。の方が良いかと。

レイバック
URL
2007/12/25 00:43
レイバックさん、連続コメありがとう。
もうね。青臭いのしか書けないかもしんないです。せかちゅーみたいにね。心が通じ合ってからの会話なんて想像できませんもん。しっとり系というかね、そういうの。たぶん書けたとしても、書いていて何も面白くないと思いますし、読んでもつまらないと思いますよ。そっち系は皆さんにお任せします。ただこの二人が十年後くらいに焼き鳥屋とかで再会するのは書きたいなあ。もう高校生じゃないから「理想の高校生」枠では書けないですけどね。その時は店名「ファイヤーバード」を是非貸してくださいな。お願いします。
>メタファー
検索しちまいました。あ〜深読みです。おつかいに行くと、ほんとうにモノレールが見えるんです。よくドラマで都合よく二人きりで邪魔も入らずに会話してますが、このへん真夜中だってムリ。とりあえずお邪魔虫にモノレール入れたけど、しまった!タクシーから降りた寿司折りぶらさげたおっさん入れるの忘れた。うう
>そのひとつひとつが胸に刻まれる直毅。
この訂正と一緒に付け加えてこよう。
いつもサンキュウです。


つる
2007/12/25 01:23
恋・・・。か・・・;;
僕も大好きなビートルズがクリスマスの孤独な夜を温めてくれるはず!(キモくてすいません)
もはや参考書感覚で恋の描写を読ませてもらってます。
ビートルズ大好き青年より
小屋
2007/12/25 11:46
小屋たん、いつもありがとう。
ビートルズ好きだったんですか。知らんかった。この曲知ってましたか?先月観に行った舞台「レインマン」で知りました。ちょっと幸せな気持ちで眠りにつけそうでしょう?
おばちゃんのお話はあまり参考にはならないと思うけど、素直な子が一番ですよ。やっぱり。
つる
2007/12/25 23:11
濃いなぁ。青春が煮詰まってるなぁ(=´Д`=)
いろんなとこが、くすぐったくなった。
イイ意味で(笑)

ビートルズかぁ、世代超えていいもんはいいからなぁ。
火群
2007/12/26 19:14
火群さん、来てくださってありがとう。
くすぐったくなった?成功成功。え〜これでギリギリです。汗でました。もう何もないです。

>ビートルズ
おお。みなさん共感してくださっているようです。よかったよかった。
モーツァルトがトマトの成育に良いように、きっとビートルズがわたしたちのどこかに、しっくりくるんだろうね。トマトかよ!
当時の大人が眉をひそめた彼らの音楽を、若者は支持したわけでしょう。だから若い人たちの感性ってバカにできないんだわ。
つる
2007/12/26 23:02
いいシーンですね。
キスぐらいしてほしかったけど。
ふたつめの和歌は好きなやつです。
モノレールといえば、大船〜江ノ島のやつ、騒音と揺れが最低。最近、直ったかな。
銀河系一朗
URL
2007/12/29 14:11
銀河系一朗さん、いつもありがとう。
やっとね、ここで二人がまともに話をするんですね。長かったよ、ここまで。
>キスぐらいしてほしかったけど。
ほんとにね、でもそれと朝帰りはなしっていうのが大前提で書き始めたんでなしなんです。長谷川君だけチラリありましたけど大汗でした。
>ふたつめの和歌は好きなやつです。
これいいですよね。短歌のようにはんなりとした伝え方が好きです。
>モノレールといえば、大船〜江ノ島のやつ、騒音と揺れが最低。
逆に乗ってみたくなっちゃいました。直ってないことを祈りたいです。
つる
2007/12/29 21:20

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