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zoom RSS 「理想の高校生」EAST SIDE STORY 6

<<   作成日時 : 2007/12/22 22:12   >>

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EAST SIDE STORY 6
「こっちだよ」

 隣のビルの路地から声がした。ニイケンと酒井さんの顔が見える。

 路地の突き当たりに蔦のへばりついたコンクリートのオンボロビルがあった。プリザベーション・ホールを模して作られた外観の扉を開けると、そこはもうジャズのメッカ、ニューオリンズだった。
 入口の大きなクリスマス・ツリー。軽快なBGM。お喋りに興じる声。グラスのかち合う音。隅に置かれたビリヤード台。
 それらにすっかり背伸びした気分の四人。

 帽子を取った佐藤さんの髪には三つ編みのエクステ。コートの下は白のオフタートルのセーターに赤と緑の格子柄のミニスカートにGパン。彼女が歩く度に小さな飾りのついたエクステとお尻の上のボックスプリーツが揺れる。
 酒井さんは赤いモヘアのミニワンピース。木こりのようなブーツからは黒のニーソックスがちょこんと覗いている。
 二人ともクリスマス・カラーを思いきり意識して、お洒落していた。

「どうしたんだよ。その顔」

 マフラーを取った直毅の顔を見てニイケンが言った。

「へへ転んだ」

 顔を見合わせる佐藤さんと酒井さん。時間が経(た)った直毅のそれは紫色に変色していた。ニイケンはそれ以上何も言わなかった。

 カウンターの村上君のお父さんとマスターに挨拶すると

「おーい。こっちこっち」村上君がテーブルで呼んでいる。「飲み物はカウンターで貰って。食べ物はあっちからセルフサービス。あれっ!松本、ドシタ?その顔」また言われた。

「へへっ」直毅は笑ってごまかす。

 銘々に飲み物と山盛りの皿を持ちテーブルにつくと、

「こんばんは。お揃いね」 後ろのテーブルから声が掛かった。村上君のお母さんとお姉さんと妹さんだ。「こんばんは」「こんばんはです」「こんばんは」「こんばんは。はじめまして」

 さて、と見合わせた五人の顔がほころんだ。もと一年一組のクラスメイト。いくらでも話はある。数学の石戸谷先生の話にひとしきり笑った。

「ジャズって難しそう。確かこんなだよね、拍子が」ノリピー似の酒井さんが愛らしい仕草でやって見せた。

「よく知ってるね」村上君。

「だってオリオン座で“スィングガールズ”見たことあるもの、ね?」佐藤さんを見る。頷く佐藤さん。

「あ、TVで見た。主人公の女の子可愛いいよな。誰だっけ」ニイケン。

「上野樹里だよ。それにそんなに可愛くないよ」睨む酒井さん。

「確か東北の高校の女子がビッグバンドジャズやる話だよね。あっちの高校ってさ、スカート長くない?」ニイケン、冷や汗。

「そう言えば佐藤さんてさ、スカート長めだよね」村上君が言った。

 恥(はずか)しそうな佐藤さん。確かに彼女の制服は同級生のそれより長い。

「それあたしも気になってたんだよ。なんで?」酒井さん。

「カルタをね。取る時に膝にタコができちゃうんだよ。だからきれいな膝小僧の人にはちょっとコンプレックス」

「佐藤さんでもそんなことあるんだ」村上君。

「コンプレックスばっかりだよ」

 一同「へええ」だ。彼女ほどの美人にコンプレックスがあるなんて思いもしなかった。

(だからいつもGパンなのか)直毅。

「だけど去年の高校生クィーンじゃんか」ニイケン。「そうだよ。すごいよ」酒井さん。

「それだけだよ」

「取るコツ教えてよ。俺たち二組、カルタ大会優勝目指してんだよ。文化祭以来クラス盛り上がっちゃってさ。一組はどう?」直樹を見る村上君。

「ああ、そういえば林が張り切ってたっけ」

 直毅の口から林さんの名前が出て、佐藤さんは猛然とやけ食いを始めた。いやその食うこと食うこと。



【うかりける 人を初瀬の 山おろし はげしかれとは 祈らぬものを】源俊頼朝臣(みなもとのとしよりあそん )



「あっ俺もうステージが始まるから行くね」「おう、ガンバレ」「頑張って」

「こんばんは。閑古鳥のねぐら“スタンダード”にようこそ。皆様の勇気に感謝します。今夜はたくさんの美人を目の前にしてドキがムネムネです」

 サックス奏者のつまらない前フリに店内がワッと沸いてスタンダードなナンバーが始まった。今日ばかりは一般客を意識して、いつものマニア向けの演目とは少し違うようだ。

 村上君がドラム。ピアノは村上君のお父さん。それにアルトサックス、テナーサックス、トランペット、トロンボーン、コントラバス。

 “take the "a" train (A列車で行こう)”“caravan (キャラバン)”“take five”“you'd be so nice to come home to ”いつのまにか店中がスウィングしていた。

 “stella by starlight(星影のステラ)”で村上君のお父さんの指が鍵盤で踊った。

「すげえ」直毅が嘆息すると「君はバド・パウエルを知っているかな」隣のテーブルから妙齢の老人が声を掛けてきた。「いいえ」

「躁うつ病を患って早世した天才だよ。彼は実に素晴らしいジャズピアニストだったよ、君」「はあ」
 
 聞けばマスターのお父さんで、この店のオーナーだった。ジャズに精通していて特にバド・パウエルがお気に入りらしい。
 後ろのテーブルの村上君のお母さんが、直毅の肩をにトントンとつついた。オーナーにつかまると話が長くなるのだ。『ほどほどにしておきなさいよ』とでも言うふうに目配せをした。

 客席から管楽器を抱えた何人かがステージに加わると、村上君が左手のスティックをクルクルと回して、それまでのレギュラーグリップからアメリカンに持ち替えた。

“sing sing sing”だ。

 彼は、また一段と上手くなった。ドラムソロのところで、大きな音で叩いている筈なのにちっともうるさく感じない。正確なリズム。 左足をビートの倍テンポで踏んでいるから、時々入る倍リズムの細かいオカズがビシッと決まる。「すげえ」と、また直毅。

 オーナーが立ち上がってタップを踏み出した。「わあ」と言って拍手をする佐藤さん。
 ニイケンも立ち上がって酒井さんに手を差し伸べた。ツリーの横へエスコートすると、ワン・ツー・スリーワン・ツー・スリーとステップを踏んで教えている。たどたどしいが微笑ましいチャールストン。

 それを横目に食べ続ける直毅と佐藤さん。演奏が終わるまでに、あらかた食べ終えてしまった。
 村上君と彼のお父さんと仲間がやって来た。席を詰める。

「君はパウエルの何が好きなんだっけね」オーナー。

「ああ、BudPowellだったら『BudInParis』の『HowHighTheMoon』とか『DearOldStockholm』ですかね」とお父さん。

「'59年から'64年までのパリ滞在時代の代表作だね。だけども晩年の作品より'51年くらいまでの絶頂期『Jazz Giant』の『Tempus Fugue-it』や『Sweet Georgia Brown』の迫力には敵わないだろう」オーナー。

「いやその頃だったら逆に『I'll Keep Loving You』や『Yesterdays』なんかのバラード演奏のほうが僕は好きですね。実に情感に満ちてますよ」

「よく言うよ。情感とか言ってる奴が“autumn leaves(枯葉)”でマイナをメジャーにするか。ヤケクソで明るい?みたいな」お父さんの仲間。

「ああ、あれね。Cm7・F7・Bb・Eb→C7・F7・Bb7・Eb7にして、ついでに次のAm7b5もA7でいいやって。A7がEb7と同じ感じでヤだったから早めにD7にしちゃった。あと適当」

「アドリブが煮詰まるとこれだよ」「言えてる」「ははは」「ははっ」

 楽しそうな仲間同士の会話。直毅はちんぷんかんぷんだ。肩をすくめる村上君。
 いつのまにか佐藤さんがいなくなっていた。酒井さんが慌てて走って来る。

「ゆみこ(佐藤さん)帰るってよ」だからどうすんの? って目が言ってる。

「……」

「帰るって! ゆみこが!」だからお願い! って目が言ってる。

「え? オレ?」

「そう!」

「あ〜」 

『うんうん』と言うふうに頷(うなづ)く酒井さん。

「オレ――」 

『うんうん』頷く酒井さん。

「トイレ!」

 ゴン!

 電灯の傘に酒井さんがおでこをぶつけた。




<つづく>


■うかりける 人を初瀬の 山おろし はげしかれとは 祈らぬものを/源俊頼朝臣(みなもとのとしよりあそん )
<口語訳>
私に冷たかった人がなびいてくれるよう、初瀬の観音にお祈りしたのだが、初瀬の山おろしの風よ…。
おまえのように あの人の冷たさがいっそう激しくなれとは祈らなかったも のを。参考URL


プリザベーション・ホールクリック

エクステ(ヘアエクステンション)クリック

バド・パウエルクリック

レギュラーグリップからアメリカン(グリップ)クリック

チャールストンのステップクリック


 
 今日の動画→「sing sing sing」
 お!↑指揮者のおっさん、かなり気に入りました。

 あ!村上君が練習してる!なんちって。→クリック
この子スナップ強そう。みんなこうして目に見えないところで努力しているんですねえ。


 年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。



↓やっぱジャズは敷居が高いわ。
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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
sing sing sing は映像も音も最高でした。
いやあ、ずい分と勉強されましたねえ。私のセンセです。
バッド・パウウェルは村上春樹の他にも大江健三郎がエッセイで取り上げています。サルトルに会いに行った時に場末のクラブでパウエルに会ったという内容だった(かも)と記憶しています。「バッドパウエルの芸術」は何度も聞きました。
「ユビソ」といったらヘレン・メリルですね。20代で夭逝したクリフォード・ブラウンがプロドュースしたアルバムは絶品です。ヘレンは生の歌声を聴いたことがあります。これ自慢です。映像のドラムもいいですねえ。ドラムといえばマックス・ローチ。これも小さなホールでライブを聞きました。(また自慢かよ。そょ)。
今回の記事はめちゃくちゃヨカッタでエス。
うれしいー。
こんばんは、を忘れてた。
だっくす史人
2007/12/23 01:49
>煮詰まる。
これは最近の使い方を意識して敢えて使っているのですね。
だとしたら、このコメは削除。
だっくす史人
2007/12/23 01:54
だっくす史人さん、いつもありがとう。
ジャズのお好きな方から見て不都合はありませんでしたか。付け焼刃なのでちょっと心配。
ジャズって五木寛之もそうだけど男性を魅了する何かがあるんでしょうね。大江健三郎が取り上げてるとは知りませんでした。
「ユビソ」って何かわからずに検索かけました。「you'd be so nice to come home to 」の略なんですね。通ですねえ。ヘレン・メリル。今度聴いてみます。
ドラムはね。好きなんですよ。曲はなんでもいいんです。アップテンポの曲が好きなんです。あ!村上君の練習風景を入れるの忘れてました。遅ればせながら動画を入れておこう。これで3回も「singsingsing」を聴くことになってしまうけれどご容赦願います。
>煮詰まる
はね。現役のジャズピアノ弾きさんのブログに
「アドリブに煮詰まったらこんなんでもいいじゃん」みたいなこと書いてあったのでパクリました。生きた言葉かなと。
ドラムもね。ドラマーさんのつぶやきをチラリと。
以上ネタバラシでした。<つづく>
つる
2007/12/23 14:15
<つづき>
わたしはわかりやすいジャズしかだめだわ。女脳だと思う。「女の脳 男の脳」そんな本ありましたね。
つる
2007/12/23 14:16
バドパウエルは素晴らしいですよね♪強いタッチ、陽性のトーン、あの唸り声がまたタマランのです(笑)
レイバック
2007/12/24 23:33
レイバックさん、いつもありがとう。
>バドパウエル
知ってるんだ、やっぱり。つくづくバドパウエルに焦点絞って良かったわあ。

ニューオリンズの名を出しておいてカトリーナの被害に触れない自分の無神経さを恥じてます。
つる
2007/12/25 00:50
つるさん、ジャズも好きなんですね。
そういえば女性のジャズファン男性よりかなり少ないかも。
上野樹里はファンです。「のだめカンタービレ」が正月にあるので楽しみにしてます。
ニューオリンズの住宅復興、ブラッドピットが自腹で5億円出すそうですな、ビル・ゲイツよ、どかんと出さんかい。
銀河 系一朗
URL
2007/12/28 00:28
銀河 系一朗さん、いつもありがとう。
ジャズは映画の「スィングガールズ」を見てから、良さがわかりましたね。主役の上野樹里さんね。かわいいですよ。彼女は女性に嫌われないタイプの女優さんですね。彼女のファンと仰るからには、一朗さんはお若い方なのでしょう。
そうそう、この記事を書くにあたって、ジャズがお好きなだっくす史人さんにいろいろ教えていただきました。どうやら一朗さんにはネタばらしをしてしまう癖がついたようです。
>ニューオリンズの住宅復興、ブラッドピットが自腹で5億円出すそうですな、
ブラピでました。ちょっとクラッときました。失礼。彼は世界で一番セクシーな男優に選ばれたことありますよね。5億円かァ。すごいなあ。ますます彼のファンになりました。日本のアンジェリーナ・ジョリーことつるより
つる
2007/12/28 01:21

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