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zoom RSS 「理想の高校生」EAST SIDE STORY 2

<<   作成日時 : 2007/12/18 22:16   >>

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EAST SIDE STORY 2
『やっべっ! 佐藤だ』

 別にヤバくなんてない。
 ウンコのついた靴を洗おうと水道に行くと、ジャグに水を貯めている佐藤さんがいた。

「おう」努めて何気に言う。

「くさっ!」

 飛びのく佐藤さん。ジャーとこぼれる水。慌てて栓を閉める。

「ごめん。ウンコ踏んだ」

「ウンコて」

「み、見に来たんだ。試合」直毅がしゃがんで下の水道をジャーと開けた。

「うん。松本君は?」

「旗振り。じゅんぺいと」

「林さん――いないんだ」

「林? 何で林?」

「別に」

「関係ねえよ」

「ふーん」

 をまだ信じてる人がいた。
 気になるなら直接本人に確かめればいいことなのに、そんな簡単なことすらしないで、人っていう奴はいつも噂を一人歩きさせる。
 佐藤さんはジャグの蓋を閉めると、

「松本君。メガネ似合うね」直毅を見もしないで言った。

「え?」

「じゃ、試合あるから」

 そう言って大きなジャグを持って全速力で駆けて行った。なんというパワー。

 よっぽど臭かったんだ、と落ち込む直毅。まさに、



【めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半(よは)の月かな】紫式部(むらさきしきぶ)



 だね。





 今年から始まったクリスマス・カップ。S区の少年サッカー連盟主催の非公式試合だ。
 
 本部テントで主審と副審の二人が挨拶をする。主審は細くて頼りなさそうな“Mr.オクレ”タイプ。四級審判免許から三級になったばかりと言う。

「畑違いの卓球やってたんですが子どもがサッカー始めてからはもうこっちどっぷりですよ。ハハハ」こうしたボランティアに支えられている。

 ピーッ!

 干潮シーガルスと大波ブラックタイガースの試合が始まった。20分ハーフ40分のゲーム。
 じゅんぺいは左半面の向こうサイド、直毅は右半分のこちらサイドを走ってジャッジする。前半の目の前はシーガルスサイド。

 今は少子化だ。ご多分に漏れずシーガルスも四年生から六年生までの混合チーム。こういうチームはたいてい四年生五年生がFWで六年生がDFだ。

「ニーチャーン!」四年のヒカルが屈託なく直毅に手を振る。

「バカ! 試合中だぞ」

 六年のマモルがトラップと同時にもうキョロキョロとボールを出すスペースを探している。きっとあの赤いリフティングボールでたくさん練習を重ねたのだろう。

『上手くなるな。あいつ』ニッコリする直毅。

 バッ!

 直毅の旗が小気味いい音を立てた。彼の振る旗には、いつも迷いがない。ボールがタッチラインを割ってブラックタイガースのボール。

「おいおいおいおい!」はじまった。

 シーガルスに不利なジャッジに声を上げる。現役プレーヤーの振る旗に『おいおいおいおい』はないだろう。我慢我慢。

 B面コートに沿ってこんもりと盛られた芝の斜面の石垣。その前にずらっと並ぶシーガルスのギャラリー。直毅の後ろに“ケンドーコバヤシ”のようなおっさんが立っていた。

「あ〜あマジかよ」「ちゃんとみてんのかよ〜審判」「真面目にやってくれよ〜」「ヒロシ! 点入れなきゃ今日の飯ねえぞ!」「子どもが半袖で頑張ってんのによ〜審判はジャージかよ〜審判服くらい着ろつーの。なめてんのかぁ〜」

 本部から副審のジャージ着用は認められていた。何しろ非公式試合。我慢我慢。 

「おらおら壁3枚じゃ足りないだろ! 航(ワタル)! もっと右! 右! そう!」

 CK(コーナーキック)にとうとうケンドーコバヤシがゴールネットに張り付いて指示を始めた。我慢できずに直毅は言った。

「ゴール裏からのコーチングは止めてください。子どもが混乱します」

「ぁんだって〜?」

 こちらに歩いてくるケンドーコバヤシ。シーガルスのお母さんたちがパラパラと駆け寄って、このおっさんを『まあまあ』と、取り成した。

 2−2で迎えた後半。サイドが変わって直毅の前は大波ブラックタイガースのサイド。
 攻め上がるシーガルスの子どもたち。DFの出したボールにFWが飛び出した。
 バッと旗を揚げる直毅。オフサイドだ。ボールはそのままゴール。
 Mr.オクレは直樹の旗を見た。ピッ! ファールの笛が少し遅れた。見えにくい位置だったのだろう。
 ゴールに喜ぶシーガルスのギャラリー。
 主審のノーゴールのリアクションを見て、

「何だよ! オフサイドじゃねえだろう! 一度笛吹いといて取り消しかよ、このヤロ! 何考えてんだ!」タッチラインを踏んで主審に抗議した。

 いやゴールの笛はピッピーー! だから。

「オフサイドです」直毅が言うんだから間違いない。

「なんだとコルァ! てめぇさっきからシーガルスに恨みでもあんのか」目を上下して威嚇(いかく)する。

「ないです」

「じゃあ何だっていうんだコルァ! 言ってみろ!」胸ぐらを掴まれて手を払った。

「公平なジャッジをしただけです」

「あ? どこが。ふざけろ」

 キレタ。
 
『てめえがふざけろ!』喉下(のどもと)まで出かかってガシッと肩を掴まれた。走って来たMr.オクレだった。

「副審。ベンチ以外のコーチングと、外野の審判への抗議については私が本部に報告します。あとで連盟からチームに通達があると思うから君は定位置につくように。いいね?」

 ハッキリとした声だった。Mr.オクレはケンドーコバヤシに一瞥(いちべつ)もくれなかった。それを聞いて鼻白むケンドーコバヤシ。本部とか連盟とかそういうのにびびった。

「わかりました」直毅がそう言うとポンと肩を叩かれた。

 Mr.オクレは主審としては新米だったかもしれないが、企業人としては常識と分別を持った大人だった。相手と対峙することなく、いとも簡単にトラブルを葬り去った。

『すげえ! あの人すげえ』




「さっきはありがとうございました」

 試合後のテント。本部から配られる弁当を貰って直毅はMr.オクレに向かって挨拶した。

「いや僕の方こそジャッジが遅くなって迷惑かけました。まだまだだな」

 人の良さそうな笑顔。年下の直毅にも、相手を尊重して丁寧語で対応してくれる。

「おとーさん。まだあ?」

 テントの外から子どもに声を掛けられて

「おう。行くか。じゃここで失礼します。またお会いしましょう」

 と言ってデイバッグにボールを括(くく)りつけた子どもの頭に手を乗せると親子して笑顔になった。

「はい! またよろしくお願いします」

 楽しそうに帰って行く二人を見送る直毅。

『オレぜってーあんな親父になりたい!』いやその前に彼女だから。

『だから彼女つくる』マジで?

『マジで』がんばって!

『がんばる』で、もちろんあの人よね。

『……』そこ黙るんかい。

 何か思うところがあるんだろう。



<つづく>



 
■めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に  
雲がくれにし 夜半の月かな / 紫式部(むらさきしきぶ)

<口語訳>
めぐりあって見たのが、それかどうかもわからない短い間に、早くも雲に 隠れてしまった夜中の月のように、久しぶりに会ったのに、すぐに帰って しまったあなた。どうしてそんなにいそいで帰ってしまったの。参考
URL

Mr.オクレクリック

ケンドーコバヤシクリック


 笛の吹き方に種類があるのはご存知ですか?人によっても多少違いがでてくるそうです。吹く笛でお気に入りの審判が決まったりします。
  ピッ(ファール)
  ピッピー(ゴール)
  ピー(キックオフ)
  ピーピー(前半終了)
  ピーピーピーもしくはピーピーピピー(試合終了)

今日のBGM→「We Wish You a Merry Christmas」




コリーナさん好きでした。彼は侍だと思いますよ。
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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。
干潮シーガルスは気の毒なネーミングのような気がしますが、ええと、どっちが勝ったんだったかなあ。明日、も一度読まんといかんかも。
主審も副審も大変なお仕事だということがヨク分かりました。ボランティアに支えられている分野は多岐にわたるのですね。
笛の吹き方にも色んなのがある。これも初めて知りました。初めてだらけです。
紫式部は初めてではありません。あき子さんと寂聴さんと谷崎訳を読みました。もち源氏のことです。でも会ってみたいのは和泉式部ですけど。
>ご他聞。はたぶん、御多分だと思うのですが調べてね。違ってたらゴメンです。
だっくす史人
2007/12/19 01:03
だっくす史人さん。いつもありがとう。
干潮と大波の試合どっちが勝ったかって?書くの完全に忘れてます。同点なので試合に熱くなったってとこが肝心でそのあとの展開にあまり重要とも思えないのでこのままスルーしちゃいます。
>笛の吹き方
そう言ってもらうと書いてよかったわあ。
>紫式部
そんなに読んでるの?へたなこと書けないわ〜
>ご他聞
サンキュウです。さっそく訂正します。
つる
2007/12/19 01:28
こんばんは。オクレ兄さんフェアですねぇ(笑)ほんまケンコバみたいにウルサイ外野はぶっとばしてやりたくなります。どこの少年スポーツでもこういう父兄がいるらしいですね。困ったもんだ。ケンコバの表記がコバヤシと小林で分かれてますぜ^^
レイバック
URL
2007/12/20 00:51
レイバックさん、いつもありがとう。
>こういう父兄
うん。いる。だけどお話の中ではちょっとオーバーに書いちゃいました。嘘っぽくなってないかな。
今回大人を書いてみようかなって思ったんです。高校生の頃って横の繋がりばかりでしょう?あっても嫌な大人しか目につかないみたいだしね。彼らに少なからずいい影響を与える大人を登場させたかったんです。「文化祭」のシリーズで世界史の先生のことが上手く書けずに中途半端に終わったのも悔やまれてますんで。
>ケンコバの表記
いつもサンキュウです。さっそく手直しです。
そうそう次の回で関西人のおばちゃんのセリフがあるんです。かなりあやしい関西弁。チェックお願いします。この通り。
つる
2007/12/20 01:20
Mr.オクレ、ちょっとカッコいいですね。
ゴール、オフサイドのジャッジはプロでも難しいですしね。
直毅のうしろの台詞、誰と話してるのか気になります。天の声?、いや、鶴のひと声か。
銀河 系一朗
URL
2007/12/21 22:45
銀河 系一朗さん、いつもありがとう。
Mr.オクレ不自然じゃないですか。ダイジョブですか。
彼はね。わたしの友人の旦那さんがモデルです。アンダースローのピッチャーで補欠なのにキャプテンだったんですよ。人柄です。彼の中に本当の男を見ます。
>直毅のうしろの台詞
ごめん。少しふざけてますね。始めのころと文体が変わってきてます。いかんいかん。
「乗り」ってことで勘弁してくださいな。
つる
2007/12/22 00:43

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