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zoom RSS 「理想の高校生」INTERBAL 1/スローイン

<<   作成日時 : 2007/11/08 00:04   >>

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photo by sports navi

スローイン
「ああっ!まただわ!」

 机の下から泥だらけのサッカーストッキングの片方。今日に限ったことではない。しかも片方。しかも先週の雨の試合に着用。雑巾かとオモタ。まともに洗濯物が洗濯用のカゴに入っていた例(ためし)がない。
 毎日の洗濯の他にこうして出る部活用の汚れ物。当然のように母親が洗うものだと思っている。何も頼んで部活動してもらってるわけじゃない。春からずっと言い続けている。弁当箱とストッキングの下洗い。
 もう今日はキレた。完全キレた。なにもしないと決めた。珈琲にミルクをたっぷり入れてTVの前のホットカーペットに陣取る。

「あ〜あ。理想のおにいちゃんならストッキング洗うんだろうなあ」

ひとりごちながら、さと子は妄想の世界にワープする。





「オッシャー!」

「パス!パス!」

「あがれよっ!」

「ナイッシュー!」

 20時。完備されたとはいえない夜間照明の下(もと)で、遅くまで練習に気合が入ってるサッカー部。
それもそのはず。都大会の二次トーナメントを勝ち抜いてる真っ最中だ。今、AブロックのBEST8だ。

 毎年正月に開催される全国高等学校サッカー選手権大会、通称“選手権”。

 国立競技場で行われるそれは、サッカー少年にとって野球で言えば甲子園、ラグビーで言えば花園に匹敵する憧れのステージだ。
 それに出場するためにはA・Bブロックに分けられた東京都大会で優勝しなくてはならない。つまり東京都代表は2校だ。
 夏の地方予選から始まって、秋から始まる一次トーナメント戦、トーナメント戦の通過校で争う4校一組のリーグ戦、そのリーグ戦の上位各2チームが勝ち進む二次トーナメント戦。

 ナンジャラホイ高校にとってココまでの道程(みちのり)は長かった。シード校でもなんでもない。ひとつずつひとつずつ、勝ちあがってきた。PK戦もあった、背水の陣で、ロスタイムにもぎ取った1点もあった。苦しい戦いばかりだった。明日勝てばBEST4。若い彼らの疲労感はワクワク感に取って代わる。

「集合っ!」

 ピッと笛が鳴って全員がコーチの前に集められる。部員は50数名。誰も無駄口を叩くものはいない。全員の気持ちが明日に向けられている。

「明日は8時グラウンド集合。11時 kick off 。状況によって午後はそのまま準決勝の相手校の試合観戦。体を休ませ早めの就寝を心がけること。以上。解散!」

 状況と言うのは勝った場合だ。
 監督は50代の社会科教諭、蔵間先生。日本のサッカー界の父と言われるデッドマール・クラマーにあやかって、生徒からはクラマー先生と呼ばれたい。だけど口の悪い部員はオヤマーとかアラマーとか陰で呼んでいる。このほかにコーチとして職員1名。OBの大学生1名。

 監督は思う。

(やれるっ!今年はやれるっ!)

 長いこと指導していてわかるものだ。10年に一度訪れるかどうかわからないチャンス。今年はいい選手が揃った。
 特に3年生だ。入部したての頃は争いが絶えなかった。誰もが自我を主張した。それぞれに持てる技術には目を見張るものがあったけれど、まとまらなかった。練習や試合を通して、繰り返し人と協調することを唱え続けてきた。
 そして2年生。じゅんぺいのように、個人プレイに秀(ひい)でた選手がチラホラといる。まとまりの意味では申し分ない。それは多分に2年責任者のニイケンの貢献度が大きい。そんな3年生と2年生で今のチームをつくってきた。奥さんの反対を押し切って選手送迎用のマイクロバスも購入した。
 やっとここまでのチームになった。感無量だ。




「なんか食おうぜ」FWじゅんぺい。

「オレ、パス」DF直毅の基本は“おうちご飯”。平気で断る。

「オレ、行く」下宿住まいのDFニイケンは賄(まかな)いが付いているのだが、高齢の下宿のおばあさんが用意してくれる夕飯は高校生にはちと物足りない。

「エアロスミ〜ス」押してみ。

 ナンジャラホイ高校の隣のコンビニに入った二人に店員が言う。新人らしい。見たことない。

「なんだよ。エアロスミスって」と、じゅんぺい。

「空耳だろ。おまえの」

 二人は\100の肉まんを二つずつ買う。本当は\200の角煮まんが食べたいところだが、そこは我慢。腹が減っているので一つより二つ。質より量だ。
 『少年ジャンプ』を立ち読みするニイケンの目の前のガラスに恨めしそうな酒井さんの顔が映った。忘れていた!待っててくれたのだ。慌てて店を飛び出す。

「アランドロン不在でした〜」

 ノリピー似の酒井さんはなんとも頼りなさそうな様子だった。

「遅くなるって言っただろ」

「だって」

 18時まではと思っていた。あと30分あと30分と待っているうち19時になった。その後も、あともう少しあともう少しと待ってるうち、こんな時間になった。

 横をじゅんぺいが通り過ぎる。やはり待ち合わせをしていたサッカー部女子マネのしおりちゃんと一緒だ。

「ヒューヒュー。お先」

「うるせえよ」

 立ち尽くす二人。ニイケンは戸惑った。フィールド上でゲームの流れは読めてもこういう流れは読めない。

 酒井さんも読めない。
 ニイケンから貰ったさつま芋。後夜祭の告白のアイテム。あれきりいつまでたっても彼から何も言ってこない。今では貰ったことさえ自分の妄想かと思う。
 従妹のお姉さんはイニシアチブを取るためには、始めが肝心と言った。だから待っていた。でも、もう待てない。干し芋みたいに萎(しお)れたさつま芋。このままじゃわたしも干し芋になっちゃうと彼女は思った。作戦変更。酒井さんは、お姉さんのアドバイスに従うのを止めた。
 そんな訳で、今日は思い切って言ってみた。「練習の後コンビニの前で待ってる」ニイケンは「遅くなる」と言ったけど食い下がった。「でも待ってる。」一緒に帰りたかった。帰ってみたかった。サッカー部の彼は忙しい。帰りに待ち伏せでもしなければ二人になれるチャンスなんてない。石川ひとみかい古っ!

 実際、部活は忙しかった。冬の“選手権”以外にも、関東高校サッカー選手権・高等学校総合体育大会東京都大会・新人選手権大会。朝夕の練習以外にも土日は練習もしくは遠征試合。

「送ってくよ」

「うん!」

 嬉しかった。もう暗い。二イケンはイギリスからの帰国子女。紳士の国からやって来たジェントルマン。意外な展開に小躍りしたくなる酒井さん。バス停まででも充分なのに、もっと長くだ。歩きながら二つの肉まんを一つずつ。そんな些細なことにも幸福を感じる。




「ただいまっ!」

 元気良く玄関に立つ娘の後ろに大きな男子。

「あらあらまあまあまあ」

 と言って、酒井さんのお母さんは目を丸くする。酒井家は女系だ。酒井さんの下に中三の妹がひとり。一緒に玄関に出迎えて靴を脱ぐ姉のわき腹を小突いている。お父さんは公務員。いつも、かしましい三人の女の中で小さくなっている。

( どうしたらこんなに大きくなるんだろう)と、物珍しそうにニイケンを眺めて

「お夕飯、食べていきませんか?」お母さんが言うと

「ご馳走になります!」ソッコーで元気な返事が戻ってきた。

 ニイケン、アウェイの酒井家にスローイン。

 食卓で発泡酒をチビチビやってるお父さん。そのお父さんを居間に追いやると、お母さんはお父さんの分の、今焼けたばかりのサンマをニイケンの前に並べた。揚げ焼売(しゅうまい)と煮物にサラダと、お体裁よく手短に用意された夕飯。「いただきます!」と、言って躊躇せず食べるニイケン。その食べっぷり。固まる女3人。
 酒井さんは確信する。家族の協力なしには、この恋が成就しないことを。工藤静香かい!

 玄関先での会話。

「明日の試合のあと会えるかな?」

「無理。仲間と一緒だから」

「じゃそのあと」

「何時になるかわかんねえ」

 まただ。自分のペースに持ち込めない酒井さん。改めて誓う。

( ホームで勝負!この恋、いただきます)

 イニシアチブのカードが捨て切れない。

 彼の帰ったダイニングテーブルで女3人は彼の話に花が咲く。酒井家の人々は酒井さんのように、ニイケンがいっぺんで好きになった。話の切れ間に、居間からお父さんがボソッと「俺の若い頃にそっくりで格好いいな」と言ったけれどスルーされた。当然だろう。




 夜のナンジャラホイ神社の境内にボールの音が響く。

 幼馴染のじゅんぺいと直毅だ。誘い合っての自主練。早めの就寝なんて無理。不安からなんかじゃない。期待で胸がいっぱいなのだ。気持ちが高ぶって眠れない。だから監督の言葉なんて知ったこっちゃない。二人ともベッドでじっとしていられなかった。
 夢を叶えるためには、できることからする。それだけだ。
 まずは西が丘行きの切符を手に入れること。国立はその先に見えてくる。

「オッシャー!」「もういっちょ!」

 冷たい空気に二人の息づかいだけが熱い。<つづく>






 「INTERBAL」試合と試合の休憩時間。ここでは準々決勝から準決勝までを挟んだお話ということで、こんな題名です。

どうしたら楽しんで読んでいただけるか。“つまらない”サッカーの連載小説。“つまる”ために、ニイケンと酒井さんの恋バナを絡めるという姑息な手段にでました。ナンジャラホイ高校のモデルは都立三鷹高校。いまBブロックの準決勝まで駒を進めていますよ。
施設も完備されてない。知名度もない。シード校でもない。私立の強豪校と違いハンディもあるけど夢もある。そんな夢を追う人と支える人。公立校の頑張りを書きます。
ない知恵絞って、サッカーの魅力を伝えるために奮闘中。(脂汗)

どうか気分だけでも味わってくださいまし。
あらあらナンジャライレブンがこんなところにいましたよ。(KOHEI Style



DF(ディフェンダー) 相手フォワードの攻撃を阻止する守備中心のプレーヤー。
FW(フォワード) 相手の守備陣を突破して得点をする役目の攻撃中心のプレーヤー。
ピッチ 試合を行う場所で芝生の生えているところ。フィールド。
スローイン ボールがタッチラインを越えた時、最後にボールに触わったプレーヤーの相手チームに与えられるゲームの再開方法。ボールがフィールドに入った瞬間にインプレーとなる。
両手でボールをつかみ、頭の後方から頭上を通して、フィールドに体の正面から投げ込む。両足が地面から離れてはならない。

以上参考URL
西が丘 国立西が丘競技場。東京都大会の準決勝と決勝が行われます。
アウェイ スポーツなどで対戦相手のホームグラウンド、地元で対戦する時のこと。
ホーム ホームゲーム。自チームの本拠地の球場・競技場で行う試合。


 
年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
オヤマー、お父さんが可哀想ですねえ。サンマは食われるは、話はスルーされるはですもんね。キビシー!
写真はああいうところでモロテくるんですなあ。お気に入りに入れときました。
阿部浩貴は私もテレビで見ていて笑い転げました。あのネタ考えるのは大変ですよね。すっげえ。
「ふり向くな君は美しい」。タイトルを初めて知りました。オパ、オパ、オパ、おっぱっぴー。動画でも写真でもいろんなサイトがあることに驚いています。労せずして知識を得ている私は幸せ者。まあしゅげえーなああだ。
こんばんは、つるさん、次回はインターバルではなく、試合本番ですか?それとも、もういっちょ、ヒネリガあるのかしら。
楽しみにしてますよ。またね。
だっくす史人
2007/11/08 00:55
うんうん。ほっと一息、
インターバルって感じですね。
僕もラグビー部やったから
母親は泣いてましたわ(笑)
最後の動画よく出来てますね!
かるく鳥肌立ちましたよ^^
文化祭とかで作ったのかな??

道なり→道のり?
即効→速攻?かな?
間違えてたらスンマセン^^;
レイバック
URL
2007/11/08 00:58
だっくす史人さん
さっそくコメありがとうございます励みになります。
動画・写真・音源はね、3日にいっぺんくらいの更新にしようかなと思ったら、けっこう探せるんですよ。楽しいです。
次は試合なんですけど軽めの方。試合は2つあるけど、1つ重めに書きたいから差をつけます。ってネタばらしてどうする。
つる
2007/11/08 01:13
わわ!レイバックさん、ありがとうございます。
>道なり→道のり?
道のりです。さっそく訂正します。
即効→速攻?
これ即効です。よく子どもが「ソッコーでやる」とか言ってます。あれ?違うかな。速攻か?ちょっとそこは調べて出直します。

ラグビー部って華ですよね〜わたしたちの頃はサッカー部とラグビー部はかっこいい男子がいたんで、可愛い女子しか女子マネになれませんでした。その2つの女子マネでいることがステータスでした。
レイバックさんもかっこ良かったんじゃない?そんな気がします。
最後の動画、見つけた時に感激しました。よくできてますよね。高校生の可能性を見た思いです。中に出ている子供たちも実に生き生きしています。
そうそう今日はレイバックさんを泣かせようとこんな動画を見つけました。どうかな?
→http://www.youtube.com/watch?v=y8OCgZGB0hA
つる
2007/11/08 01:29
こんばんは。調べました!ソッコーの漢字についてはずっと前から気になってたので(笑)ネットで見たりまわりに訊いたりしてみると結論は・・・即行と速攻が半々って感じでしたね^^;ただ個人的にはこの↓
http://okwave.jp/qa22547.html
一番上の答えの意見に賛成なのです。でもソッコーは片仮名が一番かも。
うちはサッカー部に一極集中でかなり悔しい思いしてましたよ!体育祭のクラブ対抗リレー、サッカー部にだけは絶対負けねー!って(笑)また〜〜そんな兄妹ネタはダメだってばよ!!(ノ_<。)
レイバック
URL
2007/11/09 00:54
試合の描写に四苦八苦してコンニャロメとbinちゃん1号(PC)をブチ投げようとしたところにレイバックさんからの情報提供。あざーす!
結局悩んでカタカナです。日本語もまだまだ発展途上なんですねえ。
わたし、最近つくづく思うんですが、コメントいただいてる方たちと記事作ってるような気がします。本文とコメのセットのブログみたいな。
>うちはサッカー部に一極集中でかなり悔しい思いしてましたよ!
うんうん。マスコミの扱いを見ていても、そんな感じしますね。ラグビーちょっと影薄くなってる。ここらへんでラグビー界からも王子が出てきてほしいところですね。
サッカーとラグビーに俊足が集中したら肝心の陸上部に良い選手が少なくなるやん。そこらへん、どないなっとんの。
そして兄妹ネタで泣け!泣け! ハハハ
つる
2007/11/09 01:24
ちょ、ちょっと!
Binたん治ったばっかじゃん!
うんうん、コメから閃いたり、
ヒントもらったりしますもんね。
僕もつるさんの所で沢山刺激を
受けてますよ♪
ありがとうございます〜^^
レイバック
URL
2007/11/10 01:20
え?アタイのとこから刺激を?そんなバカな。そんなにSEXYだったかしら。オカズにしないでね、レイバックさん。
つる
2007/11/10 01:51

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