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zoom RSS 「理想の高校生」HAPPY BIRTHDAY6/Tonight

<<   作成日時 : 2007/11/02 20:49   >>

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画像








photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

Tonight
 運河を越えた東に、沖へと伸び続ける埋立地。新興住宅が建ち並び、整備された緑地公園が点在する。その入口にあたる道路沿いの、いくつかのビルのひとつに“ニッコリマート”があった。
 低層四階建ての一階は店舗、ニ階から上は住宅仕様。今どきポストやドアに表札を掲げている家は少ない。それに、もう人を訪ねる時間じゃない。
 裏手に回った。まばらに明かりの漏れるベランダ。ニ階のどこが佐藤さんの家なのだろう。申し訳程度の共有地にブランコと滑り台。グルッと金網のフェンスが張り巡らせてある。23時50分。

「佐藤っ!」

 金網越しに叫んだ。ど・どうしちゃったの、おにいちゃん。
 静寂を破壊する声は佐藤さん以外の住民には「アチョー!」と聞こえる。
 アチョーを三回叫ぶと、さすがに明かりが点く窓、あちこちでカラカラとサッシを開ける音。
 息を詰めて見つめる直毅。ニ階の右からニ番めの窓のカーテンが揺れてロングへアの影がベランダに映った。佐藤さんだ。

 その途端、ガシャンと金網に飛びついた。よじ登る。高速道路の下にあるようなフェンス。てっぺんを乗り越える時にピステを引っ掛けた。飛び降りようとしてビリッと裂け地面に転がり落ちた。顔を覆う佐藤さん。肩を押さえて202を目指す。それを見て203の木村さんは下着泥棒かと慌てて洗濯物を中に取り込んだ。ニ軒ほどピシャリと履きだし窓を閉める音。301の剛司(つよし)さんはmixiの手を止めた。“電車男”が大好き。304の楠さんは夫を呼びに部屋に戻った。新婚さんだ。405の遠藤さんのオバサンは110番通報。

 敷地を横切って滑り台を逆送。てっぺんからニ階を見上げた。乱れた息。見つめ合う二人。

「佐藤、オレ」

( や・やだっ!なにっ?!)

「おまえんちがわかんなかった」

 肘が滑る佐藤さん。

「そう」

「・・・」

「・・・」

 あとが続かない。
 
 ベランダから少し身を乗り出す彼女の瞳はキラキラと輝いている。映画のワンシーンだ。いつか“オリオン座”で観た抱き合わせの“WEST SIDE STORY”と“ロミオとジュリエット”。
 目の前のジュリエットはスウェットの上下でロミオの次の言葉を待っている。

 304の楠さん、夫と一緒に覗き込んで「いや〜ん、いいとこなのに、よく聞こえない」「バカ。見りゃわかるだろ『さっきはゴメン』『知らない!』って言ってるに決まってんじゃないか」二人は少し前の自分たちを思い出し、若い二人が微笑ましくて、顔を見合わせる。301の剛司さんは指笛を鳴らした。23時55分。はやくはやく。

「でも」

「でも、来たんだ」と、佐藤さん。

 頷く直毅。

「約束だもんね。男の」

「・・・」

 チガウ。それだけじゃない。それが言えない。

「言っとくから」

「?」

「来たって。クソするニーチャンが」

 苦笑する直毅。ああ、そうだ。

「佐藤、オレ」

( やだっ!こんど、なにっ?!)

「『好きだ』『嫌いよ』『スキダスキダ』『キライキライキライ』」304の楠さんの夫は実況中継が楽しくって仕方がない。奥さんが『聞こえないから黙って』というふうに横腹に軽く肘鉄。

「プレゼントがねえ」
 
 降ってくるスリッパ。23時58分。

「いいよ。そんなの」

 遠くからサイレンの音。運河を越えて近づいてくるパトカー。今夜は湾岸の暴走族が疾走する爆音もない。暇だったんだろう。通報から8分で駆けつける模様。サイレンに振り返る直毅。不安そうにそちらを見る佐藤さん。

 もう一度見つめ合う二人。どちらも視線を外せない。やがてサイレンがひときわ大きく響いて、止(や)んだ。表通りに横付けされたらしい。

「逃げて!」

 直毅は佐藤さんの視線を断ち切るように、滑り台からストンと飛び降りた。

 「あ、そうだ」あ・そうだの多い奴。


「たんじょうび、おめでとう!」


 ポ〜ンと闇に放り投げられた言葉に、ピンクのリボンが掛かって佐藤さんの胸にストンと落ちた。
 誕生日が終わる直前の滑り込みセーフなプレゼント。それは金網をよじ登って届けられた。佐藤さんは、後にも先にも、これに勝(まさ)るプレゼントを貰ったことはない。決して色褪(あ)せることのないリボンで結ばれたそれは、大人になっても彼女の勇気の隣に鎮座する。

 どこかの部屋から0時を告げるラジオの音。戻る静寂。
 フェンスを乗り越えて遠ざかる彼。どうか捕まりませんようにと、両手を固く握りしめ胸の前でかき抱く。
 とうに見えなくなった姿を瞼に映し、佐藤さんは、いつまでも動けないでいた。



「誕生日おめでとう」そう言って304の楠さんの夫は奥さんの頬にキスをする。くすぐったそうに肩をすくめる奥さん。彼女も誕生日だった。やさしく肩を抱かれて部屋に入る。301の剛司さんはmixiを閉じて、たったいま目にした感動巨編をマイ・ブログにアップし始めた。405の遠藤さんのオバサンはパトの到着に安堵する。




 走りながら青いブリッジの上で、来たばかりの方を振り返る。ガスが出て、ぼんやりと浮かぶ埋立地はまるでワンダーランド。佐藤さんの住む街。「おめでとう」は直毅にとってイコール告白。今できる精一杯。本人に悔いなし。

「アチョーーーーーッ!!」

 つって、橋の上で飛び上がる彼は、きっとブルース・リーより高く飛んだだろう。遠くの沖を光だけの貿易船が行く。





 翌朝のことだ。一組の前に佐藤さん。教室には日直の林さんがひとり。

「なに?」

「あの、松本君に」

「彼になに?」

『彼』と言う足払いを掛けられてクラッときた。うっかり忘れていた。松本君と林さんがつき合っているという事実。いや噂。
 ジロジロと佐藤さんを見る林さんの視線に、身を固くした。自分に自信がある人とはこうなのだろうと思った。林さんは生徒会で会長を盛りたてる副会長だ。先日の英語の校内弁論大会でも三年生を制して堂々の1位だった。 

 佐藤さんは自分の価値がまだわからない。青春にありがちの、“自分がちっぽけで皆が優れて見える病”だ。彼女には充分魅力が備わっている。それを見い出せない。とてもじゃないが、林さんに敵(かな)わないと思った。

( なに調子こいてたんだろう。わたし、バカだ。大バカだ)

「これ・・・渡してあげて」

 そう言って、昨日直毅が投げて寄こしたブレザーを差し出した。佐藤さんは不倫が嫌いだ。だから横恋慕するつもりもない。不審がる林さんに、

「し・昇降口のところに落ちてたから。ネーム入ってたし」

 押しつけるように渡すと、走った。走りながら、手作りクッキーの入った小袋を握り潰(つぶ)した。

( バカだ。バカだ。バカだ。バカだ。バカだ。バカだ。
わたしってバカだーーーーーーーーーーーーーーーーーー!)

 廊下の向こうに親友の酒井さんの姿を見つけるとワッと抱きついて、天地がひっくり返るほど泣いた。





 登校してきた直毅に林さんがブレザーを渡す。

「なんか、昇降口に落ちてたらしいよ」

 黙って受け取ると、なんとなくわかった。

( これが佐藤の返事なんだ)

 もういいや。もう考えない。考えるのを止めよう。そう思った。
 ブレザーからかすかに、いつかの佐藤さんの髪の香りがしたような気がした。



 それきり、もうホントそれっきり冬休みまで二人は口を利(き)くこともなかった。



<おわり>









 オリビア・ハッセーはきれいでしたねえ。
さて、このお話は、プレゼントのないお誕生日も「あり」なんじゃないかと思いついたことから始まりました。高価なものを贈りあう風潮に反旗を翻(ひるがえ)し、携帯でもなくメールでもなく、会って伝える気持ち、それだけが書きたくて2回が6回の連載になってしまいました。いまどき恋に障害なんて滅多にありませんから、エピソードに困りました。伏線も全て回収できたかな?
ところが連載で味しめました。状況設定や人物描写が省けるメリット。ただ、シリーズの途中からでも読めるように、かぶる表現があったら常連さんにはゴメンナサイです。
BGMはなぜかWEST SIDE STORYのTonight


年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。


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コメント(9件)

内 容 ニックネーム/日時
長くなっても、それだけに、
骨太なエピソードになったのではないでしょうか。
――会って伝える気持ち。大切ですね。
勇気や恥しさと同梱パックですけど。

>青春にありがちの“自分がちっぽけで皆が優れて見える病”
……僕はまだ治らーん(笑)
火群
2007/11/03 02:48
書き出しの数行から、
すげぇいい感じ^^
今回は落ち着いた描写が
過去一番のデキじゃないですか?
映像的に短いカットが
切り替わってゆくシーンもいいし。
つるさんの底力を見た気がします^^
レイバック
URL
2007/11/03 08:52
やっぱり我慢できない。コメを書かずにおこうと思っとったのにおもしろすぎて。このド迫力はなんじゃあ。最高の出来バイですばい。(じゃ、これまでは、どうだったのよお、おいコラ! ひえエ、そこはほれ穏便に、ね。なにが、ねジャイ。びしっ! )
いやー、気持ちいいなあ。ぶん殴られたってかまわない。最高だ。いいものはいいのだ。
>ぽーんと闇に放り投げられた言葉に、ピンクのリボンが掛かって……。
ここなんかホントすごい。このフレーズ貰った。(だめ! )
だめ! と言われるのが、好き。
手作りクッキー、おいらにくれれば良かったのに。
つるさん、私は、ハッピーです。
だっくす史人
2007/11/03 14:27
火群さん、来てくださってありがとう。
病はともかく、書いてらっしゃるものを見る限り、火群さんは間違いなく青春されてると思います。
繊細なのに湿っぽくない。けど、大胆。そんな文章を書きますよね。
あ、こういうことは、そちらに伺ってカキコするべきでした。
勇気と恥しさを同胞パックされた火群さんの記事をいつも楽しみにしています。
つる
2007/11/03 22:58
レイバックさん、こんばんは。
例えば、伊東美咲のような美人さんを「美人ですね」と褒めても「ありがとう」と言います。オカチメンコを「美人ですね」と言ったら「やだっ!何言ってんですかぁ。やだなあっ!何にもでませんよおォォ。もおっ、調いいんだからあぁ!」つって褒められたことないもんだから、過剰反応です。
・・・
や・やだっ!レイバックさんたら何言ってるんだろ。こんなシナリオのト書きみたいな文章、へんじゃないですかあぁっ!流れもブツブツ切れてますシィ。やだなぁ、ほんと困りますってば。何もでないですよおっ!

クルクルッ(嬉しくて回っちゃってます)!
同じジャンルの方から、そう言っていただけて、大はしゃぎです。
つる
2007/11/03 23:10
わ〜い、だっくす史人さんだ。
もうお見えにならないかもと仰っていたので寂しく思っていました。
だっくすさんのメッセを参考にわたしも少し記事にストックを作って寝かせてみましたよ。1日だけど。
今まで、だいたいのプロットは決めてあっても、詳細にカキコするのはその日で、推敲はするけど嬉しくて当日アップしてました。これからは日にちが空いても、貯めたストックを見直しながら、ひとつひとつ丁寧にアップしていくつもりです。

記事良かったと言ってくださって嬉しいです。佐藤さん夜中の3じまでかかってクッキー焼きました。
つる
2007/11/03 23:34
あ・そうだ。ひとつわかりました。来てくださる皆さんはきっとロマンチストです。夢を破るようで申し訳ない。こんな女子いるわけないんですよ。理想です。彼の前では言いますよ。「ありがとう」って。でも女友だちの前では「もっと他になんかなかったのかしらねえ」なんて言ってたりします。だってわたし、27の時にバッタモンの3本\1000のネックレス貰ったことありました。駅の構内で「あと3名様分しかない」というところで3人目に並んで買えたそうです。ええ。17じゃありませんでしたから、ブチ切れました。わたし\1000の価値なんだってね。友人なんかティファニーとかですよ。悔しくて泣きましたね。捨てました。今ならわかりますよ、相手の気持ち。お金がないんですもん。並んだのだって恥しかったでしょう。でも泣いたわたしのことを、感激して泣いたと、相手は誤解したと思います。そんなオバサンがこんなの書いてます。これからも宜しくです。
そうそうリサーチによると、今どきのカプールは相手に欲しいものを聞いてからあげるそうですね。開ける楽しみがないやん。
つる
2007/11/04 09:29
うおー、いけるいけると思ったら、最後林さんに渡すって。それじゃあクッキー焼いた意味がないじゃない。そういうのがヘタ恋なんでしょうね。
それでつもりつもった、ヘタ恋エネルギーがいつかヤケになって、ものすごいエネルギッシュな告白に至るんだろうなあ!
うーん、青春ですね。
バッタモンの3名様、笑えます。あの手の客はほぼ桜ですよ。
この前見ました。人の流れがなくなったところで、露天のおっさん、熱心に見ていた客に「じゃあ、飯にするか」と呼びかけ、店じまい。
仲良く飯食べに消えてゆきました。
これが真実。
銀河系一朗
URL
2007/11/29 23:05
銀河系一朗さん。ここまで来てくださってありがとう。一朗さんの辛抱強さに乾杯!
この二人ね。うまくいかないんですよ。それもう連載する前からつるセンセ言っちゃってますから。うまくいかないのがギャグになっちまってます。
>バッタモン
本当ですか?なら怒ってよかったんだ。
寅さん側からみると面白い世界ですが騙された側としては面白くないですよね。こっちもうまいこと騙されてやってんだぞという遊び心が必要なのかもしれない。シャレの世界ですね。
それにしてもまた改めて思い出されて昨日のことのように悔しい。
つる
2007/11/30 09:22

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