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zoom RSS 「理想の高校生」ドッペルゲンガー

<<   作成日時 : 2007/10/09 11:19   >>

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photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

ドッペルゲンガー
「うわあ!遅刻!遅刻!」

パンクの自転車をあきらめて佐藤さんはサブバッグを肩にバス停に走った。

7時35分のバスに間に合うだろうか。その次の46分だと1時間目の地理の授業で使う地図を資料室から運ぶのに時間が足りないのだ。彼女は地理係だ。
走った甲斐があってバス停には30分には着きそうだ。

「あれおかしいな。」

30分だというのにバス停からいままさにバスが発車するところだった。

「まってェ!ちょっと乗ります乗りまぁ〜っす!」

慌てて乗り込んだバスでひと息つきながら首を傾げた。35分のバスの前は24分だ。
始発から3つ目の停留所のバス停はほぼ時刻どおりにバスが来る。滅多なことでもない限り定刻通りに運行される。24分のバスが遅れたのかしらん。まあなんにしても予定より早いバスに乗り込めて佐藤さんはほっとした。

「つぎは〜ナンジャラホイ高校、ナンジャラホイ商店街組合創立70周年記念有志寄贈厄除け地蔵尊前で〜す。」

テープの声に促されてステップの前に立った時だ。開いたドアに向かってドンと佐藤さんを突き飛ばすように降りていった女子がいた。

(なんなのよ〜失礼しちゃう。)

その子に続くようにバス停に降りたって前を見てビックリした。

(なんか見たことある後ろ姿だなあ。)

それもそのはず、ロングヘアをはらはらとなびかせて金目鯛のキューピーのキーホルダー付きサブバッグを肩紐をひとつだけ左肩に掛けて小走りで駆けて行くSKECHERSの運動靴の女子はまさしく自分だった。

「うそ!」

夢でも見ているのかしらんとロングヘアをひとつに束ねた佐藤さんも小走りに彼女の後を追った。
彼女はもうひとりの佐藤さんに後を付けられているとも知らず社会科資料室に飛び込むとひと抱えもある巻いた地図を小脇にダッシュで2年8組に向かった。
教室に着くと黒板の下にそれらを立てかけ自分の席へと戻るとサブバッグの中から授業の教科書を取り出した。
そうしていつも彼女がするように不機嫌そうに自転車置場の見える校庭へと目をやるのだった。不機嫌なのは朝食抜きだからだろう。空腹だと顔がブウたれる。

(うそおーー。)

座る席がない。
というより後ろの出入り口に途方に暮れて佇む佐藤さんをクラスメイトは見えないのだろうか。いやそんな筈はない。人が出たり入ったりするたびにぶつかりもするし中には『おはよう。』などと声をかける者もいる。
思考が混乱するなか

(そうだ!京都に図書室に行こう!)

と思いついた。取りあえずそこでゆっくり考えてみよう。

図書室には選択科目を取っていない生徒がちらほらと席についていた。これなら授業中に抜けだしていても怪訝(けげん)に思われないだろう。ほっとする。

さていったいどういうことなんだろうか。
佐藤さんは本棚の片っ端から科学・物理・推理小説などありとあらゆるジャンルの本を漁(あさ)った。それらをパラパラとめくりながらある推理をした。

(まず乗ろうとした自転車がパンクしていたんだったわ。それからバス・・そう!乗ろうとした35分のバスより早いバスに乗ったんだった。もしあのバスが35分でも24分のバスでもないとしたらあるはずもないバスに乗ったわたしは時間軸のずれた場所に着いてしまったんじゃないかしら。)

わたしたちが時間という電車に乗って未来へ運ばれているとしたらその1分前1分後または1時間前1時間後に同じような電車が走っている。佐藤さんは元の電車からどうかした拍子に違う電車に乗ってしまったようだった。

(いったいこの時間軸のわたしはどんなわたしなんだろう。そしてこれからどうしたらいいんだろう。)

考えあぐねているうちにいつのまにか机に突っ伏して眠ってしまった。起きたのは4時間目の終了を告げる鐘の音が聞こえた時だった。
中間テストの一週間前で今日から部活が無い。午後は学校説明会のため4時間授業だった。

(とにかく家に帰ろう。)

いつものくせで自転車置場に来てしまった。直毅の自転車の隣の隣の隣が彼女の定位置だ。せめて朝練の彼が置く自転車のそばに自転車を置きたい。あからさまに隣にしないところが女心だ。
自分の自転車がないのを見て今更ながらパンクで家に置いてきたことに気がついた。
何気にそこから昇降口に目をやるとちょうどジャージ姿の直毅と佐藤さんが並んで出てくるところだった。

(うそうそうそうそ、うそったらウソでしょう?)

どうやらこの時間軸の佐藤さんは直毅とつき合っているようだ。立ちどまって何か話したと思ったら右と左に分かれてしまった。

(ひゃあ。喧嘩しちゃったよ、わたし。)

自分でありながら自分にはありえないことをしている自分。まるで他人を見るようだ。

直毅がこちらへ向かって歩いてくるのが見てとれるや佐藤さんは慌ててトタンの囲いにしゃがみこんだ。

どうか見つかりませんようにと小さくなっていると

「びっくりしたァ!なんだよ。」

「(ひゃああ。)」

真上から直毅の声がした。

「なにしてんだよ。」

「ドモっ!」

と言って敬礼して元気良く立ち上がったら頭突きをくらわせたようだ。彼がのけぞっている。

「ってえ!」

「ごめん!ごめんね!それからこの前もごめんね!」

ついでにこの前の打ち上げの夜のアッパーカットのことも謝っといた。

「いいよ。べつに」

ぶっきらぼうに言う彼はそれでも許してくれたようだ。

「乗る?」

「へ?」

「自転車ないんだろ?」

「なんで知ってるの?」

「さっき言ってたし」

「さっき?」

は〜学校でもふつうに喋っちゃってるんだ。なんて羨(うらや)ましいんだろう。

「だから乗るか?って」

しかも 

(ふ・ふたり乗り。シェ〜〜〜っ!)

まさにシェ〜だ。頭がクラクラした。

「そ・そのママチャリにですか。い・いいです。」

せっかく自転車の二人乗りというチャンスの神様が前髪をフサフサさせて歩いてきたのに掴み損(そこ)ねた。長女は損だ。甘えるのが下手だ。

ふたりは黙って自転車を挟んで歩き出した。いったいどこへ行くというのか。
どこに行くとしても佐藤さんはいまにもクソガキのように駆けだしてしまいそうなくらい嬉しかった。でももう子どもじゃない。

女子は“ればたら”が大好きだ。
もし松本君とつき合うことになったらあれも話そうこれも話そうと思っていた。だがどうだろう。実際そうなってみると案外話すことなんてないみたいだ。
はたから見るとめくるめくような男女交際もそうしょっちゅう好きだ嫌いだ惚れた腫れたと言っているわけではない。
たまにすれ違ってひとことふたこと話ができるのが楽しみだった。会話量でいったら今までとそう変わらないんだろう。
じゃあその他になんか特典があるんだろうか。

(そうだ。こんなにそばにいるんだもの。どうせなら顔見ちゃおう。なあに、つき合っているんだもの、かまうもんか。)

メガネが変わったせいかずいぶんと大人っぽく見える。自分のせいでメガネが壊れたなんてこれっぽっちも思いもせず佐藤さんは直毅の顔をためつすがめつ観察する。

そんな佐藤さんの視線を避けるかのように前を見たまま直毅が言った。

「ゆみこってさ」

(ゆ・ゆ・ゆ・・・なんだって? ゆみこ? よ・呼び捨て?)

膝から崩れて腰が抜けた。地面に手をつく佐藤さん。

「ほら」

差し出された手に

「い・いいです。いいです。」

めっそうもないというふうに頭(かぶり)を振ってなんとか自力で立ち上がる。またもや手を繋ぐチャンスの神様の前髪をフサフサして歩いて来たのに掴み損ねた。長女は損だ。自立している。
だけどそろそろ遠慮もいい加減にしないと神様もそうそう歩いては来ない。

「大丈夫かよ。」

「大丈夫です。なんでしょうか?」

「古典やってある?」

古典の宿題は確かにでているしやってある。あの宿題でいいんだろうか。

「や・やってあります。」

「はは。さっきからへんなの。」

「へん?」

「へん!」

怪しまれた。キャラがわたしとは違うんだろうか。『松本君はやってないの?』と聞きかえそうとして、ふと思いついた。『ゆみこ』と呼ぶくらいなんだから、もしかしたらもしかしてもしかするとお互いに呼び捨てなんじゃないかと

「な・な・直毅はやってないの?」

思いきって言ってみた。心臓ばくばくだ。




「・・・」




直毅はそっぽを向いた。

(あっちが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜う!)

直毅はしきりと鼻に手の甲をやっている。照れているようだ。

「松本君はやってないの?」

「ああ、うん。だから見せてもらおうと思ってさ。」

『ゆみこ』と呼ばれるけど呼ぶ時は『松本君』なんだ。ちょっとわたしらしいじゃんと佐藤さんは思う。

それにしてもどこへ向かって歩いていくのだろうか。直毅の歩みには迷いがない。いつもこうして帰りは決まっているかのようだ。国道沿いの川に沿って歩いて行く。調節池を通り過ぎる時

「カメ、どうしたかな。」

と佐藤さんは言ってみた。

「いるんじゃね?この前もいたじゃん。」

「ああ、」

しょっちゅう来てるんだ。なんて羨ましいわたし。そのわたしはつき合っているカレシと簡単に喧嘩する。なんて贅沢なんだろう。このわたしはつき合うことも叶わないのにと泣けてくる。

「あ・そうだ。携帯貸してみ。」

「へ?」

「機種変して番号変わったから」

「機種変・・」

「トイレに落としたんだ。そう言ったじゃん。」

メルアド交換のチャンスの神様が前髪をフサフサさせて最後にスキップで通りかかった。佐藤さんは携帯を黙って彼に預けた。Yes!OH Yes!

直毅は憩いの場のもう葉ばかりの藤棚の下のベンチに座って右手に自分の携帯を利き手に佐藤さんのを持ち番号を入れはじめた。

「うう」

佐藤さんは幸せにむせび泣いた。その涙は機関銃のように発射する。

(わたし機種変しないから。絶対にしないから。松本君が触れた携帯たった今世界遺産に登録されました。)

佐藤さんの涙に困惑する直毅。



やがてカエル図書館が見えてきた。視力のいい佐藤さんは直毅より早く、入口の階段にもうひとりの佐藤さんが腰掛けているのが見えた。

(なんだ。心配して損した。ちゃんとやってけそうじゃんわたし。)

短い時間だけれど夢みたいに楽しかった。でもやはりここはわたしのいる場所じゃない。
もうひとりのわたしが頑張って創(つく)りあげた世界なんだ。楽しかったけれどもう帰らなければならない。まるでネバーランド。
鼻の奥が少しツンとした。

横にいる松本君は松本君だけどきっとわたしが好きな松本君じゃない。もうひとりのわたしが好きな松本君なんだ。


後ろからバスの気配がする。佐藤さんはSKECHERSの紐を結ぶふりをしてしゃがんで言った。

「先に行ってて。」

「おう。」

そう言って図書館の自転車置場に向かった直毅の後姿を確認すると心の中で『バイバイ。』と言ってバスのドアが閉まる直前に飛び乗った。車内からふたりの様子をうかがう。


直毅はうしろにいた筈の佐藤さんが前から現れてびっくりしたようだったがサプライズだとでも思ったのだろう。彼女に向かって歩いて行く。彼女は立ち上がって彼が来るのを待っている。


「発車致します。お立ちの方はバスのつり革や手すりにお掴まりください。」


駆け寄って直毅にひとことふたこと何か言った。彼はコンと彼女の頭を軽く叩くふりをして並んで図書館へ入っていく。


走り出したバスから佐藤さんは心の中でエールを送った。





「がんばれ!わたし!」 <おわり>






今日の彼女のイメージはスウィングガールズでしょうか。スクリーンの中の彼女たちの愛らしさといったらあの映画に涙したのはわたしだけ〜?

年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

9/30のMy記事トップページに「お宝マーク銅」が貼られていました。今気づきました。良かったらご応募ください。当たるといいね。

10/09ジャージ姿の追記しました。
10/11書き漏れしました。チャンスの神様は前髪しかありません。すれ違ったら掴みそこねます。前からやって来たところをこう待ち構えて掴んでやるのです。




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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
つるさん、グッド、ベリーグーですよ。このテーマをすでに書きはじめられている作品の中になんの違和感もなく取り込んでしまうあたりは達人です。ショートショートなら簡単ですけど、こいつは一本取られたなあ。まいった。なぜか芥川の「河童」を思い出しました。朔太郎の「猫町」も。良い作品を読むと過去に読んだいろんな作品が甦って来ます。
松本君もある意味、ドッペル君だったのかなあ。こういう世界もあっていいですねえ。私が、つるさんの睫毛を見つめている。二人ははずかしそうに、でも見つめあう。つるさんが言う。「只で見てはダメ! 」。
まてよ、これはドッペルではないよなあ。せっかくカップルになって相合傘をしようと思ったのに、ザンネーン。
今日のつるさんに拍手。
だっくす史人
2007/10/09 16:47
わわ!だっくす史人さん。
なんてするどいんだろう!次記事で松本君のドッペルゲンガーを予定してました。とほほ。ネタバレじゃん。しかもあとで使おうと思ってたキーワード「相合傘」とか言ってるし、ホント勘弁してください。参りました。

脱力して青空文庫行って「河童」と「猫町」を読んできました。あの長さでブログに書けると、苦手な情景描写ももうちょっとは書いて説明できるのにやはりブログだと長文飽きちゃうんですよね。一度に読める量ってどれくらいが限度なんだろう。じゃ、こま切れにしたら最後までの流れのキープが難しいし、ほんと試行錯誤です。

いやぁしかしホッとしたことがひとつありました。アップしてから「先に行ってて」の台詞にだっくすさんからのツッコミがあるかとひやひやしました。「行って」ではなく「行ってて」にしたのがよかったんだなきっと。あ〜よかったよかった。おっともうコメ受け付けませんよ。
つる
2007/10/10 00:08
いいですねぇ。
上手く取り込みましたねぇ・・・
くやしいぃぃぃっ!(笑)
パラレルワールド。
現実とかなり距離の近い
パラレルワールドなのかな。
映像化してみたい雰囲気ですね。
直毅のアゴが心配だ〜〜^^;
レイバック
URL
2007/10/10 01:46
レイバックさんそう言ってくださってありがとう。パラレルワールドかもですね。きっと文化祭の夜佐藤さんの拳骨に蝿が止まらなかったヴァージョンだと思いますよ。映像といえば文字にする前に頭の中で色までついちゃってますから見せてあげたいくらいです。ははは。中目黒駅のそばにある目黒川沿いの舟入場跡地の調節池は下まで行くとほんとにイメージ湧きますよ。さびれた対岸のほうが好きですけどね。
つる
2007/10/11 18:33
前からこのドッペルゲンガーて文字が気になってたんすよ。
気になって気になってようやく到達した。
うん、素敵でした。普通、もう少し取り乱しそうですが
すぐ受け入れちゃうのは、つるさんの子だからかな(笑)
最後のところも後味いいですね〜!拍手!
銀河系一朗
URL
2007/11/20 00:40
銀河系一朗さん。
おお!気になりますか。ドッペルゲンガー。
これはだっくすさんと同じお題で書いたものです。物書きにはエラク刺激を受ける言語らしくいろんな作家が取り上げますよね。
人物設定とかメンドくさいので今連載中の高校生で書きました。だから珍しく読み切りです。コメディになっちゃってますね。
ドッペルゲンガーは動いたり喋ったりしないそうですよ。できたら10/10の読書感想文/ドッペルゲンガーも目を通していただけると嬉しいな。これを丸コピして苦し紛れに松本君側の視点で書いてます。
レイバックさんのご指摘通りたぶんドッペルではなくパラレルワールドかもしれない。そういう意味ではお題に沿ってないかもしれないです。
つる
2007/11/20 21:49

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