ハキダメにつる

アクセスカウンタ

zoom RSS 「理想の高校生」文化祭15/T LOVE YOU

<<   作成日時 : 2007/10/06 14:20   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 4

画像








photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

T LOVE YOU
「直毅! こっちこっち。」

 店の奥からじゅんぺいが手招きする。呼ばれて直毅はフラフラと席についた。

 打ち上げは少し前から始まったようだ。すでに盛りあがってる。それは男女交互の席順のせいばかりじゃなかった。文化祭の後の高揚感だ。

 向かいの列のテーブルでは、赤いリボンのついたカチューシャをつけた大川君と王子役の宮川君が、ひとしきり座の笑いをとっている。午前中の劇の再演、例のラブシーンだ。

 その横を、足りないグラスを持って林さんが通る。彼女のドスドスした足取りに合わせて、大川君たちがピョンピョン飛び跳ねる仕草をした。少し調子に乗ってるようだ。林さんが大きなギョロ目で一瞥(いちべつ)をくれると彼らは苦笑いだ。

 林さんの後ろからピザが運ばれてくる。新しいピザに大げさな歓声が上がった。
 そのピザのトッピングがパイナップルだったから、頬にキティちゃんの絆創膏をした長谷川君が立ち上がって言った。

「聞こえる。ピザに乗ったパイナップルが叫んでいる! ここは俺の居場所じゃねえ! って」

 井上マーの物真似に、「わっ!」と笑い声が起きた。ふだんは真面目な優等生、だけどお笑いが好きな彼がたまに言うジョークは、いつだって滑らない。
 
 (なんかどうでもいい。オレの居場所ってどこなんだ)尾崎かよ。

 直毅はまるで芯を抜かれたパイナップル。後ろの壁にだらしなくもたれかかっている。
 目の前の出来事が他人事(ひとごと)だった。まるで対岸の火事。皆の声もプールの底で聞くように遠い。
 左手を見た。そこに掴んだ佐藤さんの腕があって、まだ手の平が熱い。脳内に「大嫌いなのっ!」が駆け回っている。

 人に嫌われるということがどういうことなのか。今ならわかる。こういうことだ。
 積極的に好かれようとは思わなかったけど、まさか嫌われてるとは思わなかった。そのことが重たい。

 痛ぇ、と顎を押さえてみるけれど違う。心が痛い。

 隣の席の林さんが、遅れて来た直毅の為に、グラスや紙ナプキンの世話を焼く。とうとうピザの取り分けなど始まって、向こうの席のじゅんぺいがからかった。

「なんだなんだ。おまえらできちゃってるわけ〜?」

「やだあ。なに言ってんの、伊藤君。やめてよ」

 直毅に否定される前に否定してみせる。

 林さんはわかっているみたいだった。自分が男子の興味から外れていることを。
 
 直毅が黙って下を向いていると、じゅんぺいは林さんを煽(あお)った。

「つき合っちゃう? つき合っちゃうか?」

「やぁだあ! もうほんとやめてよぉ! 松本君が困ってるじゃない。ねえ、松本君」

 林さんに言われて、直毅はようやく自分に話がふられているのだと気がついた。

「いいよ」

 林さんが黙った。誤解したらしい。

 もういい。もうなんでもいい。ほっといてくれ。直毅はそんな気持ちだった。

 彼が少しでもクラスで目立つ存在ならともかく、その真逆だったから返事に妙な信憑性があった。

「ハイ! カプール一組成立スマスタ!」

 じゅんぺいがおどけた。死ねよ。






 “DEATH NOTE”の前で2次会をどうするか、1組の皆で溜まっていた時だった。

 直毅の目に少し向こうの中華料理店の前で溜まる8組の輪が見えた。そこからスっと抜け出たカップルがいた。ヒューヒューという冷やかしを背に、2人は駅の改札に向かった。

 帰る女子を送ってく男子。ちょとだけ前を行く女子を、男子の背がカバーする。男子を見上げて何か言ってる横顔が、

 佐藤さんだった。

 ひび割れたメガネに彼女が歪(ゆが)む。いや、彼の心が歪んだからそう見えた。

 そばにいたじゅんぺいに、

「やっぱオレ帰るわ」

 直毅は集団から外れるように、二三歩後ずさりした。言いかけるじゅんぺい。それに「もう言い訳するのも億劫」というふうに背を向けると、改札口とは反対の方向へ早足になった。

「ちょ、待てよ」

 それを背中に聞いて駅ビルの階段を下りると、直毅は自然と走りだした。それから歓楽街を抜けて歩道のガードレールをハードルみたく飛び越えると車道を突っ切った。

「待てよ! 直毅っ! 直毅っ!」

 じゅんぺいの声にスピードが上がった。そんなもんだ。追われれば逃げたくなる。

 国道を走ると、ビルの合間に対岸の灯りが見えた。パチンコ屋を折れると訳もなく全力疾走だ。

 はぁっ! はぁっ! はぁっ!

 しまいに何で走っているのかわからなくなった。

 運河沿いの歩道から倉庫へ下りる階段で、ダダッとじゅんぺいに追いつかれた。彼を振りきろうなんて、どだい無理な話だった。肩を掴まれた。

「なんなんだよっ、いきなしいっ!? はぁっっはぁっっ!」

 今日はよく走った。2人共、もう膝がガクガクだ。

 運河べりのコンクリートに寝そべって何も話さない。直毅は自分の気持ちがわからない。走った理由がわからない。だから説明ができない。やがて、

「女ってメンドくせえなあ」じゅんぺいが言った。

「え?」

「なんかいちいちつまんないこと言いやがってよぉ。うっせーって感じ」

「へえ」

「今日だってよ。なんで知ったんだか夏の合コンのこと言ってきて――」

「ああ、あれ」苦笑する直毅。

「別に何でもなかったんだからいくねぇ?」

「はは」

「やきもちもさぁ。可愛くやくんならいいけど、いきなし怒られてもなぁ。知らねーての」

 やきもちなんだ。

「なんで女ってすぐ怒るん?」

「知らねー」

 自分はやきもちをやいている、と直毅は思った。

「女と喋ると怒るしさぁ。女、言ったら、お袋とか姉貴とかとも喋れねえっての」

「はは。ほんとだ」

( オレは心が狭いなあ)

 直毅は思う。直毅に直毅の世界があるように、佐藤さんにも佐藤さんの世界がある。当たり前のことだ。ましてや2人はつき合っているわけでもなんでもない。
 彼女がその世界で何をしようと、直毅には全く関係のないことだ。

( しかも嫌われてるし)

「ふう」

 大人びた溜息をつくじゅんぺいに直毅が聞いた。

「それでどうした?」

「それで? ああ、謝った」

「謝ったんだ」

「謝った。わかんねえけど、とりあえず謝った。それが一番いいんよ」

 なんだかんだ言ってもじゅんぺいはしおりちゃんとうまくやっていきたいようだ。

「おまえは偉いなあ」

 心からそう思う。少しだけ先を行く同級生に置いてきぼりをくった。

「偉かねぇよ。ちっとも」
 
「いや、スゲェ。スゲーよ」

「そうかあ」

「そうだよ」

 対岸の灯りが運河に揺れている。いつか4人で見た希望で輝いて見えたそれ。今夜は直毅の心持ちを映すように不安定だ。

 
 嫌われてわかった。嫌われてこんなに辛くてわかった。やきもちがやけてわかった。


( オレは佐藤が好きなんだ)オセ〜。





 ニイケンの歌が聞こえた。「I Love You 」だ。合コン未遂に終わったカラオケで聞いた、あのしっとりした歌声だ。力強くて、そして優しい響き。身に沁(し)みた。





「あっ!そうだ!おまえ林とつき合うの?」

「?」

「いいよって言ったじゃん」

「言ったのか?」

「たぶん」

「ウソ……」

 左手にまだ佐藤さんの腕があった。いまにも細くて折れそうな、すべすべした白い腕。直毅の手の平はそれを覚えている。
 その左手を閉じたり開いたりして、途方に暮れた。

「どうすんの?」

 と、じゅんぺい。

「わかんねえ」
 
 ほんとうにわからなかった。

(オレは林とつき合うのか……)






 さてと、
 文化祭の最後の夜は更(ふ)けていく。

 一次会の後、二イケンは新しい“OZAKI.com(おざきどっとこむ)”のメンバーと朝までカラオケで歌った。

 そして、
 長谷川君はベランダにもたれて星を見ている。
 後夜祭で彼は、渡り廊下の柱にもたれたオレンジの頬の女子とキスをした。
 First Kiss だった。






     
「飯、何?」

 頭上で子どもの声がした。

 妄想の果てに、いつのまにか昼寝してしまったようだ。すっかり日も短くなりまだ5時過ぎだというのに薄暗い。
『ごめんごめん』と言いながらエプロンの裾で涎(よだれ)を拭うと冷蔵庫の中をのぞく。

「わるい。おつかいしてないや。」

「ふざけんなよっ!」


 ただでさえやる気のないところにもってきて、この怒号。
 もう今日は絶対に夕飯の仕度はしない。心に決めて布団をかぶるさと子。<おわり>









TLOVE YOUお時間ありましたらご覧下さい




年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。


↓林さんとつき合うのもありだなとか思えても思えなくとも
人気blogランキングへ

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
いやー、全く嘘のような話ですが、この時間はいつもNHKのFMでジャズを聴いているんですが、今晩に限ってMDでオムニバスを聴いとりまして、その最後の曲が尾崎の「I love You」だったんです。記事を読んでいると背中の方からこの曲が聴こえて来た時はのけぞりました。つるさんのドッペルゲンガーかと思いました。(いやあ、コワカッタア)。
最後の、キッスと夕飯の支度をしないと決意したさと子さん、のアンバランスに笑ってしまいました。
だっくす史人
2007/10/07 01:07
へえ、そんなこともあるんですね。
きっとソウルメイトですよ。コワがってはいけません。
こんにちは。だっくす史人さん。

キスじゃなくキッスていうんだ。
てゆーかキスシーン書くのもこっぱずかしいですよ。「おかあさんそんなこと考えてんのキモ」とか言われかねない。発狂しそうです。

狙ったところでなかなか笑いがとれないのも辛いのですがそれでもウけてくださるところがあってよかったです。

「ドッペルゲンガー」チャレンジ中。つぎのつぎくらいでアップしたいなあ。
つる
2007/10/07 11:36
祭りの後の火照りが冷めてゆく感じ、
ゆるーい感じがいいですね。
達成感であったり脱力感であったり、
人によって感じるものは違うのでしょうが、
祭りの後には独特の空気が流れますよね。
上手く言葉には出来ませんが・・・(笑)
そういう感覚をサウダージと言うのかな??
要するにそういう感じがよく伝わってきました^^
(支離滅裂でスミマセン・・・)
レイバック
URL
2007/10/08 18:25
へええ。サウダージっていうんだ。
知りませんでした。ありがとう、レイバックさん。

最後しょぼい話になってしまったんですが目指すのが痛痒いほろ苦感というかチャップリンみたいなペーソスなんで、そう言ってくださって嬉しいです。
もっと上手くなって書き込み過ぎないで伝わるといいのだけれど書かないと誤解があったり書き過ぎて感の良い方にはうっとうしい文章になります。
自分スタイルができて読み手を引っ張りこめればそれにこしたことはないです。今は何に照準を合わせるかですね。万人受けするものは書けそうにないです。ほんと悩みます。
つる
2007/10/09 01:36

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ 人気blogランキングへ
「理想の高校生」文化祭15/T LOVE YOU ハキダメにつる/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる