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zoom RSS 「理想の高校生」文化祭14/傷つけた人々へ

<<   作成日時 : 2007/10/03 20:09   >>

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photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

傷つけた人々へ
 慌しい1日だった。

 忙しい思いをしたのはナンジャラホイ高校に隣接するコンビニも例外ではない。レジは普段の売り上げの3倍の数字をたたきだしオフのアルバイトまで臨時に担ぎだされた。店長も注文の入力に追われた。しかしどうしてまた今日に限って女性物の下着ばかり売れたのだろうかと首を捻(ひね)る。倉庫のストックも底をついた。

 夕闇がせまるころ目的のメガネ男子を探し当てることもなく“花よりメガネ男子”のスタッフとローカルTV取材班は引き上げていった。失神を免れたかしましい娘っこたちもメガネ男子に取って代わるそれなりの収穫をおさめ帰途に着きはじめる。

 とにかくポンプ車以外ナンジャラホイ町の緊急配備体制は全て稼動した。
はしご消防車と警視庁の科学処理班まで動員された毒ガス疑惑も被害者が女性ばかりだったので集団ヒステリーの一種だろうということでひと段落しいよいよ後夜祭だ。


 後夜祭と言っても表彰式とファイヤーストームだけの地味なものである。
まるでおわらの“風の盆”のように静かに粛々(しゅくしゅく)と進められる。

 体育館では今年の文化祭の各部門ごとの優秀賞の発表があった。壇上で発表を読み上げるのはニ年一組の実行委員でもある生徒会副会長の林さんだ。その体躯も態度も威風堂々としている。


「それでは発表します。イベント部門第三位はニ年八組のお化け屋敷“ら・せ・ん”です」ホラー映画にちなんだらしい。

 わあっと歓声。好評だったようだ。2年8組の生徒は大喜びだ。

「第ニ位はニ年一組の劇“白雪男”です」雪男と電車男にかけたらしい。

 わっと歓声と笑い声が起きた。これも人気を博していたようだ。大川君たちの功績が大きい。

「そして栄(は)えある第一位はニ年ニ組のライブハウス“HERO”ことヒステリック・エコ・レンタル・オッパッピー!」あ・その略だったんだ。

 わああっとニ年ニ組からひと際大きな歓声があがり拍手と指笛。“OZAKI.com”はアクシデントがあったけれどそれ以外でもチアリーディングのグループが観客を動員してくれて票数が伸びた。
 それにしても一部門の上位三つをニ年生が占めるとは珍しいことだ。

 学校長賞はさすがに三年生が獲った。四組の“シエラレオネ〜忘れられた内戦”だった。
 各クラスの売上金はここを支援するNPO団体に寄付される。

 校長先生は表彰式を終え校長室に戻るとドスンと椅子にもたれ込んだ。それにしても今日はなんて慌(あわただ)しい一日だったんだろう。クタクタだ。あんなに楽しみにしていた明日の予定の「ナンジャラホイ町商店街組合創立七十周年記念有志寄贈厄除け地蔵杯ゴルフコンペ」をかなり本気で断ろうかと考えていた。お疲れさま。





 それから暮れ始めた校庭で地域の青年消防団に見守れながら伝統のファイヤーストームが始まった。

 昨今は焼却灰やダイオキシンの問題で気軽に焚き火や焼却炉の使用もままならないが今年も校長先生の地域への根回しで無事とり行うことができた。

 簡素に組み立てられた木枠に点火されるとワッと言う歓声と共に夕闇に太い火柱が立って、昼間の素っ気無い佇(たたず)まいがドラマチックに演出されファイヤーストームを囲む生徒の顔はオレンジに写しだされた。誰もが皆美しい。

 この炎の前で伝統のナンジャラホイ高校の踊りを先輩から引き継ぐ。いやそんな大袈裟(げさ)なもんじゃないのだが廃(すた)れさせるわけにはいかない。

 代々受け継がれているそれは農大の大根踊りのようなものなのだが水泳キャップをかぶって大根の代わりにさつま芋を持って踊る。男子全員大真面目で演じなければならない。だが女子は大笑いだ。その昔、今のグラウンドはさつま芋畑だったそうだ。

 踊り終わった後、男子はさつま芋を持って好きな子の所へまっしぐら。逆バレンタインデーだ。この時ばかりは一斉に校庭が華やぐ。ナンジャラホイ高校のビッグイベントだ。

 ひとしきり笑って告ったり告られたりした後は文化祭で使った廃材や紙などを火にくべてお炊き上げする。

 小一時間ほどだろうか。クラスのそれぞれから持ち出されたそれらを替わりばんこに火に投じながら、ひたすら黙々と燃やす。それだけだ。
その間それぞれが火の周りであったり校庭の片隅だったりその炎を映す体育館の前だったりと思い思いの場所に陣取りファイヤーストームを見守る。

 ただそれだけのことなのに卒業生の誰もがその夜のことを思い起こす時、懐かしさとともに闇の中にしっかりと立ち上る火柱の原風景が浮かぶ。
 ゴォーッと太く闇に立ちのぼる炎は決してぶれることなく、大人になった彼らの心にいつまでも火を燃やし続ける。
 それを思うときどんな困難にも立ち向かっていけそうな勇気が湧いてくるのだ。

 体育館の入り口の三段目に腰掛けた佐藤さんの脇には小山のさつま芋。浮かない顔で体育座りの膝に頬づえをして火を見ている。






「あ・オレ。もう着くとこ。うん、じゃ」

 携帯を仕舞うと駅に通じる階段を駆け上った。

 じゅんぺいから打ち上げの連絡を受けた直毅は今日ばかりは頭を打って救急車で搬送されたんだからと渋い顔をする母さんの声を後に駅ビルの2Fにある飲食店街に向かっている。
 場所はニ時間ワンドリンク付き食べ放題で¥1,580のピザハウス“DEATH NOTE”だ。

 広いエレベーターホールを通り抜け不衛生で有名な中華料理店の前を通りかかるとちょうど中から人が出てくるところだった。

(ヤバッ!佐藤だ。)別にヤバくなんてない。

 目の前を携帯電話しながら横切る佐藤さん。立ちすくむ直毅。すでに無表情。
ニ年八組はここで打ち上げをやっているらしい。清潔とはいえない椅子やテーブルクロスのその店はとにかく安い。味がまあまあなので学生でいつも混雑している。

「うん、うん。わかった。だから泣かない。泣かないの。うん、すぐ帰るから。そう。ケンカしないで。わかった?」

 そう言って険しい顔でパタンと携帯を閉じくるりと振り向くと直毅の真正面だった。ふわりと佐藤さんの髪からいい匂いがした。
 近い!じつに近すぎる!何も言わずにすれ違えという方が不自然な距離。

 嗚呼、この二人に話題なんてあるのか。しかも互いに親の敵にでも出くわしたかのような表情。

「あ」

 と言ったきり彼女は左手の携帯を握りしめて立っている。

 話の口火が切れぬままザワザワと行き交う人込みの中で見つめ合って動けないでいる。『白雪姫見たよ。面白かったよ。イベント部門ニ位だったね。残念。それにしても今日の文化祭は盛り上がったね』いくらでも話すことはあるだろう。

 佐藤さんは『来い』とも言われない1組の白雪姫を黙って見に行ったことを知られたくなかった。だから打った頭のことも救急車のことも聞けないでいる。

「ファイヤーストームの時いなかったね。あっ」自滅だ。これじゃまるで探したんだよと言わんばかりだ。

 実際彼女は伝統のナンジャラ踊りの時、炎の灯りを頼りに直毅の姿を探した。どんなに目を凝らしてもその姿を見つけることができなかった。

「ああ、病院だったし」

『病院でどうだった?頭打ったから心配してたんだ。大丈夫だったの?検査はしたの?もう出歩いても平気なの?』聞きたいことは山ほどある。でも、ただの元クラスメイトにそんなこと聞かれたってどうなんだろう。考え過ぎて何ひとつ口にできないでいる。

「そうなんだ」

 直毅は直毅で昼間、遠目に見た佐藤さんの“夕鶴のおつう”のような美しい白無垢姿と今、眼の前にいるボーイッシュな服装の彼女を重ね合わせている。
 ストレートジーンズに程よくフィットした白いTシャツ、胸元にはプラチナの小さなクロスが揺れてセンターパーツに分けた髪がさらさらと音をたてている。
 飾り気のないそれらは逆に彼女の女らしさを一層際立たせている。

「Gパン」ボソッと直毅が言う。

「え?」

「Gパンなんだ」

 チガウ。

『Gパン、なんだか似合うね』だ。そう言おうと思った。そう言ったつもりだった。慣れない言葉を口にするもんじゃない。佐藤さんに空耳アワーが訪れる。

『なんだ。Gパンか』

 それもチガウ。

「悪かったわね。Gパンで」

 わかっていた。自分の服が全然おしゃれじゃないってこと。

 後夜祭の後、佐藤さんは一旦家に帰り、弟のクソガキたちの夕飯と風呂の面倒をみてやった。それも人件費削減のために店へ出る母親の替わりにである。(→ココ
 汗をかいたのでシャワーを浴びてそのへんにあるものを着て慌てて集合場所に着いてみるとクラスの女子は皆あらん限りのオサレをして集まっていた。
 愛されキャミあり、もてワンピあり、佐藤さんは自分がひどくみすぼらしく思えた。

 いや、そういう流行の服を持っていないわけではなかった。彼女だって年頃の女の子だ。
でも時間がなかった。

 こんなところで会うなんてなんてタイミングが悪いんだろう。集合に少しくらい遅れたってどうしてこの前ショッピングセンターで買った“フワフワ透け感たっぷりアジアンなオサレチュニック今だけプライスダウン\3900彼のハートをGets!”を着てこなかっだと自分に腹がたった。
 それはマジで彼女に良く似合った。見立てた母も『いいね』と言ったし着て見せた父も目を細めてくれた。いつもは憎まれ口をきくクソガキたちも『姉ちゃん女みたいだ』と誉めてくれた。こういう時に着てこないでいつ着るというのだ。

 激しい航海の荒波に乗り出した、いや後悔の念に苛(さいな)まれた穏かならぬ心を静めようと伏目がちにしきりとTシャツの裾をつまむと引っぱったり伸ばしたり同じだよしている。

(睫毛長いんだ)

 と直毅は思った。佐藤さんが目を瞬(しばたた)かせるたびにその睫毛はバサバサと音をたてるかのように上下する。

 直毅に見つめられたまま佐藤さんの心臓は早鐘のように鼓動する。

(止まれ!心臓!)いや死ぬから

 相手にこのバクバクが聞こえるんじゃないかと気が気でない彼女は左手に携帯を握りしめたまま心臓の辺りをぎゅうと押さえた。そのとき目の前の中華料理店から信じられないくらい大きな蝿が飛んできたかと思うと彼女の左手の拳固の上に止まった。

「いやあああっ!!!!」

 物凄い勢いで下から突き上げられたそれは“力石徹”もどきのアッパーカットとなって直毅の顎にヒットした。



 のけぞる直毅。吹っ飛ぶメガネ。突き上げられた拳。静止画像。



 拳を戻そうとする佐藤さんと返す拳でまた殴られるのかと思った直毅。彼は彼女の腕を利き手で掴んだ。

「いってぇ〜」

「ち・ちがっ!」

「なに?」

 親友のメガネ君が忘却の彼方に去った今、直毅の目に飛びたった蝿が映ろう筈もない。

「いや・・だから」

「だから、なに?」

「き・嫌いなのよっ!」

「へ?」

 いきなり嫌いと言われて面食らった。

「大嫌いなのっ!」

「オレ?」

『そうよあなたよ!』というように直毅を見上げる佐藤さんの顔の周りをぶんぶんと飛ぶ蝿。彼女はいやいやをするように腕を掴まれたままロングヘアの頭を強く振った。

「いやっ!痛い!離して!」

 まるで痴話喧嘩の修羅場。通りすがる人も物珍しそうに振り返る。力を入れたわけではないが男子に腕を掴まれて痛かったのだろう。
 バッと直毅の手を振り払うのと直毅が手を離すのが合わさって佐藤さんはどうっと床に投げだされた。掴まれていた左手を右手で胸の辺りに庇(かば)う格好だ。『お願い許して!』状態。

「わるい」

 殴られたのに謝った。

「おい佐藤!幹事が呼んでんぞ!」

「今行く!」

 中華料理店の中から声がして、パッと立ちあがると佐藤さんは声のする方へと小走りに消えていった。

 ガクリト膝が折れる直毅。

 人から面と向かって『大嫌い』と言われたのは生まれてはじめてのことだった。それほど幸せに育った子だと言えるだろう。

 いつのまにか直毅の周りに人だかりが出来ていた。

 そりゃそうだ。女に近づいたと思ったら殴られた男、男に腕を捻(ひね)りあげられた女、女に罵(ののし)られる男、男の腕を振り払う女、女を突き飛ばしておいて許しを請う男、男から逃れる女、女に取り残されて途方にくれる男。



 ポカ〜ン  だ。



(痛ぇ)

 床に右手をついたまま動けない。置かれている状況を把握できない。
 ジンジンとした顎の痛みと、左手に残った今掴んだばかりの佐藤さんの腕の感触。じっと手を見る。啄木かい

 彼女の腕はなんて細いんだろう。



(つーかメガネどこ?)<終わんないんすけどつづく>








傷つけた人々へBGMでお楽しみ下さい

おわら風の盆富山県のお祭りです

電車男ほんとに伊藤淳史くんにはワラカしてもらいました

らせんホラー映画“リング”の続編

HERO(ひーろー)久利生公平かっこいいです

DEATH NOTE(デス・ノート)実写版映画はコチラ

お炊き上げ←クリック

白無垢(1)和服で、上着・下着・小物がすべて白である服装。また、表・裏ともに白で仕立てた衣服。婚礼衣装のほか神官・僧侶が用いる。(2)染めてない、白い反物。主に絹についていう。(三省堂「大辞林 第二版」より)

オサレおしゃれ

キャミキャミソールの略

ワンピワンピースの略

チュニックパンツの上に重ねるミニワンピースのようなもの

力石徹漫画「あしたのジョー」の主人公矢吹丈の宿敵/ジョーと闘うため階級を落として臨んだ試合でアッパーカットつかいましたね〜/書いたらまた読みたくなってきました







説明も野暮なんですが年齢を問わず読んでもらいたくて補足します。またお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名も付けます。



↓カワイソすぎたら
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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
佐藤さんと重なるように力石の姿が。
のけぞりながらスローに身体を浮かす直毅が。
しかと見えました(笑)
女の子のまつ毛って
俯いた時、目立つんですよねー^^
ついつい見ちゃいます。
レイバック
URL
2007/10/03 22:03
なるほど、うつむいた時の女子の睫毛。んー、するどい。そういうトコ観察せんとアカンのですね。
よし、今夜は、おとら小母さんとつるさんの睫毛の夢を見ながら寝ることにしよっと。(変なとこばっか見てちゃダメ、ネー)。失礼。
だっくす史人
2007/10/04 01:01
レイバックさん

>しかと見えました(笑)

見えましたか?良かった。
それからまつ毛見ますか?よかったよかった。見ないと言われたらそれまでですもん。しょせん作り話なんですがあまり現実感ないと違和感あるんですよね。そのくせ偶然に出会う機会が多すぎるドラマの嘘っぽさには気がつかないもんです。
ホントこういうふうに感想いただけると参考になります。
いつもありがとう。
つる
2007/10/04 02:30
だっくす史人さん
まつ毛見ない派ですか?じゃどこ見ます?(ここで取材してどうする)

わたしのまつ毛がだっくすさんの夢にでてきたら出演料いただきます。払えないなら見ないでね。

>ダメ・ネー

かなり気に入っちゃいました。なんかつかえそう。reつる(リトルに聞こえるし)にしてもそうだけど言葉の使い方のセンスにはいつも脱帽です。
ほんとにいつもありがとう。
つる
2007/10/04 02:38

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