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zoom RSS 「理想の高校生」HAPPY BIRTHDAY5/Don't Stop Me Now

<<   作成日時 : 2007/10/30 18:40   >>

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photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

Don't Stop Me Now
「母さん。誕生日に何欲しい?」

“おうちご飯”が終わると直毅は聞いた。今日は茶碗蒸しと鮭のホイル焼き。母さんは笑っている。だって誕生日は半年も先だ。

「何で?」

「別に。何が欲しいのかなあと思って」

 少し考えて、

「そうねぇ。直毅が良いと思うものなら何でも良いんじゃないの」

 そう言うと、また笑った。お見通しのようだ。

「走りに行ってくる」

「自主練?」

「あと本屋に寄るかもしんねぇ」

「相手の親御さんに心配かけない時間に帰ってらっしゃい」

 そう言うと、もうこらえきれないようにクスクスと笑った。母さんはなんとなく最近の直樹を見ていてわかっている。好きな子がいるらしいこと。母親は敏感だ。

「直毅、ゴムいる?」珍しく家にいる弟の直人が言う。

「今日は、つかわねぇ」

「きゃ!」と母さん。二人にからかわれた。お返しだ。





 ピステを被(かぶ)ると家を出た。今日は佐藤さんの誕生日だ。いくら彼女の弟にお呼ばれしたからといって、それを真に受けるほど子どもじゃなかった。でも家にいる気もしなかったようだ。
 来週からの中間テストで昨日から部活もない。今サッカー部は地方予選を勝ち抜き一次トーナメントの真最中だ。部活で体がくたくたになればバタンQとなる。だけどくたくたにならない体を持て余すと脳ミソは考えないで済んでたことにフル稼働した。
 佐藤さんの弟たちとの約束。しなくちゃいけない勉強。林さんのこと。それに隠したミソパン。

「あ゛ーーーーーーーーーーーーっ! めんどくせっ!」

 第一に、彼は佐藤さんの家を知らない。お話にならない。

 もしかしたら迷っている“さみしん坊”同士が引き合ったのだろうか。

 あてもなく商店街を歩いていると、『オリオン座』の前に長谷川君がいた。デイバッグを肩に、看板を見るでもなく、つっ立っている。『オリオン座』は春夏のアニメや劇場公開落ちの二本抱き合わせ映画を上映する、ちょっとさびれた“町の映画館”だ。ここも、もうすぐ閉館する。

「古賀!」直毅が長谷川君を呼んだ。長谷川君は柔道が強いので、高校ではこう呼ばれている。

「ああ、松本」振り向いた長谷川君。直毅は高校では“松本”だ。小学校までの幼馴染は“直毅”と呼ぶ。

「なんだよ。こんなとこで。塾の帰りかよ」

「いや」歯切れが悪い。

「おまえケガしてる?」

 長谷川君の頬と目の間に殴られたような痣(あざ)がある。それに答えず、

「あのさ、時間ある?」と、直毅に言った。

「ああ、なんだよ」

「映画付き合ってくんね?」

「いいよ」佐藤さんのことは、もういいらしい。




 いまどき“燃えよ! ドラゴン!”と“死亡遊戯”の抱き合わせ。『アチョー!』に笑いが止まらない直毅が横を向くと長谷川君の視線はスクリーンをとらえていなかった。いったいどうしたんだと彼の横顔を見つめる直毅。長谷川君はひとつところを見てずっと何かを考えている様子だった。

 映画が終わると23時だった。空気が冷たい。
 直毅は映画館横の販売機で、温かい“つぶつぶコーン”を二つ買うとシャカシャカして、一つ長谷川君に渡した。二人は駐車場のネットの柵に寄りかかった。

「飲み干した缶の中でつぶつぶコーンが叫んでいる。『オレ、まだ、ここにいるんだぁ!』って」

 直毅が長谷川君の好きな井上マーの真似をして見せるが、彼は力なく笑うだけだった。

「オレ、家、出るかもしんない」長谷川君。

「えっっ!」

「松本、頼みがある」

「何?」

「……」

「言えよ」

 長谷川君は直毅の目をまっすぐ見ると、

「店の前を見て来てほしいんだ」と言った。

「店?」

「うん。リーの、彼女の親がやってる店」 

「何でだよ」『リーの』と言われて少しどぎまぎするように直毅が答える。(ああ、もう、そういう付き合いなんだ) 

「親がいるかもしれない」直毅の視線をはずすと、呟(つぶや)くように長谷川君は言った。

「誰の?」

「……」

「おまえの?」

 頷く長谷川君。「何で」と言いかけて、何となく合点がいった。

「わかった」
 
 それから商店街の路地をいくつか折れて、駅へ続く通りに出た。この時間は車の往来が少ない片側ニ車線の道路。小さなビルとビルの路地に入ると、長谷川君はワンブロック先の向かいの角を目で示した。街灯の前の三階建てのビル。一階はスナック二階は麻雀屋だ。まばらな人の行き来で、ここからはよく見えない。

「行って来る。」直毅。

「悪いな」

「あ、そうだ。確か古賀って干潮小学校だったよな」

「ああ、それがどうした?」

「佐藤の家、教えてくんねえか?」

「青いブリッジの向こうだよ。道なりに団地の方へ右に行った先のタイル張りのビル。一階は“ニッコリマート”だ。そのニ階」

 そう言って片目をつむると、今日初めて彼らしい笑みを見せた。ウィンクは“GOOD LUCK”の意味だろう。長谷川君につられて直毅もはにかんだように笑った。

 それから直毅は、腰を落として路地を出ると、植え込み伝いに匍匐(ほふく)前進した。通行人が何事かと彼から大きく離れて歩いて過ぎた。見当をつけた辺りでそおっとツヅジの間から顔を出した。
 店の前に人影があった。中年の男女だが、果たしてそれが長谷川君の両親かどうかは、上からの街灯の明かりが陰になり、判別できなかった。
 目を凝らして見ていると、店のドアが開いて中から若い女性が出てきた。ケ麗君(デン・リージュン)さんだ。間違いない。ドアから漏れた明かりで中年の男女はやはり長谷川君の両親と知れた。
 何か事情があるんだろう。母親がリージュンさんに一言二言話しかけたと思ったら、いきなり彼女の腕を掴んだ。嫌がって身をよじるリージュンさん。直毅は慌ててへんな四つん這いのまま路地にとって返した。説明も終えないうちに長谷川君は路地を飛び出した。

「待てよ!古賀」

「リー!」

 長谷川君は植え込みをジャンプすると、車道を走った。斜め横断の彼を見つけて、リージュンさんもガードレールをまたいだ。

「誠っ!」あ・誠なんだ。

「長谷川君っ!」

「まこちゃんっ!」

「古賀っ!」

 あらゆる名称が飛び交う中、二人は車道の中ほどで一つの影になって、そのまま道の先に見える貯水タワーの方へ走って行った。手を携(たずさえ)えた、二つのシルエット。貯水タワーの突端の点滅が彼らの道案内をする。

 もう子どもじゃない。二人は小さな点になった。巣立ちの羽を広げた若鳥のように、たった今、親鳥の庇護から飛び立った。

 追いかけた父親もすぐあきらめて歩を止めた。母親は胸の前で手を重ね、いつまでもふたりの行き先を見つめている。やがて母親は父親に促されるように帰って行った。

(やるな〜。あいつ)

 たった今、目の前で起きたドラマのような展開に直毅はふうっと大きく溜息をついた。

(オレは何してんだ)

 携帯の時間を見ると23時30分。まだ間に合う。まだ今日だ。だから走った。
 もうね、おにいちゃんは豪(えら)い勢いで走った。こんなハードな自主練見たことねえ。

 運河にかかる青いブリッジ。長く緩やかな勾配を、まるで空駆ける天馬のように走り抜ける。はやる心。心はもう佐藤さんの下(もと)。

 だけど会ってどうするかなんて、考えてない。書いてるこっちも考えてない。

<つづく>






長谷川君にいったい何が起きたのでしょう。痛そうな痣に見てない映画、長谷川君は家を出ると口にしました。リージュンさんの親の店、張っていた長谷川君の両親、彼らはリージュンさんを問い詰めました。詳しくは明日また見てね。長谷川君とリージュンさんのことを妄想していると、こんな曲が浮かびました。どうかな?

年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。



ミソパンビチグソのついたパンツ/味噌みたいですもんねえ(ヒトゴト)
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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
ちょっ!なんですかこのドラマ仕立ての展開は!
僕は的外れながら、尾崎豊の15の夜を浮かべてしまった・・・。
陳謝!
小屋
2007/10/30 21:41
えっ!ドラマじゃなくてお笑いと思ってたとか?
小屋たん、こんばんは。
う〜ん、これはね。仕方ないことなんです。
おにいちゃん(直毅)って、小屋たんのように、とても「のびしろ」のある男子なんです。だけど、やはり見たり聞いたり経験しないと、その成長も望めないんですね。こういう刺激を受けて大人になっていきます。でも友人たちはとっくに彼の良さには気づいてます。そんな感じです。
佐藤さんだってダサいメガネ君の時から、すでに気づいてました。それ大事なとこです。
でも今日の大事なところは元気のない長谷川君を気遣って、つぶつぶコーンの缶を渡して、はしゃいでみせるところなんです。ええ、やさしいです。ぶっきらぼうな物言いのわりにメッサやさすぃ〜です。うちの子にホスィ。
15の夜ではなく17の夜になっちゃいました。
つる
2007/10/30 22:12
ドラマティックですやん。
次回が楽しみです。
あらゆる名称を組み合わせると
某政治家の名が!(・・)


レイバック
URL
2007/10/31 01:18
出ました、井上マー。最高の登場の仕方です。直毅は優しいなあ。優しすぎるくらいだ。傷つかなきゃいいんだけど。でも、とにかく走るしかないのです。青春は走る。足よりも、体よりも、心が先に走っている。直毅の心はもうすでに佐藤さんの元に届いているはずです。
筈です? ホントか否。ん、本当かいな。
つるさん、こんばんは。今日だけは、つるさんをお怨み申し上げます。
ここで〈つづく〉はセッショウですよお。直毅のみそぱんでも眠れなかったけど、今日のはさらに辛い終わり方。先が気になりますよ。
ああ、落ち葉に埋もれて子猫のように眠るしかないのか? ヤサシサを持ち寄って欲しいなあ。
なんてなあ。この間、叱られたから、ツイツイ。言ってみた、です。
ミュージックもグー。夜はグー、が理想の……。
だっくす史人
2007/10/31 01:26
や・やだ。ほんとだ。おかしいな。政治家だ。
するどい指摘をありがとう。レイバックさん。
新潟アルビレックスに長谷川誠っていうバスケの選手いますよね。長谷川君の長谷川は実際の落研部員から、誠は「愛と誠」の誠です。以上裏話でした。
次回でおわり。だけど楽しみと言ってくださっても、知ってるでしょう?わたしの話は最後いつもショボくなるのを。
つる
2007/10/31 01:58
だっくす史人さん
青春は走らないと、お話になりません。
この前、久しぶりにどこかの中学校の部活の様子をベンチからストーカーしました。走るフォームがきれいです。見惚れました。いつかの運動会で保護者競技で走ったわたしのVとは大違いでした。ええ、わたし忍びの者のように摺り足で走ってました。大腿筋が上がってません。もうすぐ家の中で敷居につまずいて大腿骨骨折予定。
やさしさは実際に示されると嬉しいけど照れますね。しかも嘘くさい。(屈折してます。こころが)やさしさが内蔵されているだけでいいです。
次回?つまんないですよ。だからゆっくり眠ってくださいな。
つる
2007/10/31 02:11
うわー、カッコよすぎだなー。
私はもう無理。
「次の電柱まで、次の電柱まで」とか「もう走れません」と言ったのはマラソンの君原でしたか。
いえ、生で見てはないですよ、スポーツ回顧の特番みたいなので言葉が印象的で。
刺激されたか、直毅も佐藤さんの家にダッシュか、いいですね〜。
銀河系一朗
URL
2007/11/29 00:35
銀河系一朗さん。いつもありがとう。
現実から離れすぎないように書きたいけれど、たまにはお話の中で遊びたいですよね。まさに演歌の「連れて〜に〜げてよお〜」です。演歌嫌いだけど。
君原選手かぁ。根性論の頃ですね。最近のスポーツはいいですね。全部がそうでないとしても、やらされてる感がないのがいいです。見ていて気持ちがいいですもん。
高校生ってすごいです。まだそんな元気でるんだと思います。うちは体育館ではないので極力消耗して帰ってきて欲しいです。
つる
2007/11/29 08:31

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