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zoom RSS 「理想の高校生」HAPPY BIRTHDAY 4/中潮

<<   作成日時 : 2007/10/28 23:35   >>

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photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

中潮
(やっべっ!)

 ペダルを漕ぎだした直毅は調節池の手前でくうっと腹部に差し込む痛みを覚えると急激にもよおした。さっきのピルクルの一気飲みがいけなかったらしい。彼はお腹が弱い。

 調節池の管理棟の壁にガシャンと投げ捨てるように自転車を止めると管理室に飛び込んだ。もう尻に手を当てるような格好だ。清掃中の札が掛かっていたけれどそんなの関係ねえ。





 ふう、とひと息ついて出てくると友蔵爺さん似の管理員に少々お小言を言われたけれど、そんなのも関係ねえ。「ああ、すいませんでした」と言って表に出た。まだ言い足りないのか友蔵が付いて来る。

 なんて気持ちの良い夕暮れの気配なんだろう。傾いた夕陽を背に藤棚の脇を通って階段を下りると、川面はもうキラキラと眩(まばゆ)いばかりに銀色に光っている。目の前を温厚そうな老夫婦が通り過ぎる。

「この時期ここにはシベリアからの渡り鳥もくるそうだよ」

「カルガモあたりですかね」

「ああ、ほらあれがホシハジロ、あそこにカワウやユリカモメもいる。鷺(さぎ)なんかも住みついているそうだ」

(ああ、ほんとだ。中州にシロサギ一匹とカルガモ三匹がいる)

 チガウ。佐藤さんとクソガキ三匹だった。

「ちょっとちょっとそれでアンタ聞いてる?」まだ友蔵いた。

「あっ!いつかの人!」「いつかの人!」

(誰だよ)

 傍(かたわ)らに、いつのまにかススキを振り回すクソガキがニ人。

「忘れちゃったの?」「忘れちゃったの?」

 涼しげな目元は誰かさんにそっくりだ。

「佐藤の弟?」

「オレ、洋平だよ」「オレ、耕平」双子だ。

「何年?」

「1年だよ」「1年だよ。あっ!ねえちゃ〜ん!ここだよーっ!」

「ああっ!」と、そちらを見る友蔵。

 無邪気に中洲に手を振る洋平と耕平。中州からこちらは逆光らしく手をかざして眩しそうに振り返す佐藤さん。直樹に気がつくとクルリと背を向けた。手には虫取り網、制服のスカートは下着にでも挟んでいるのだろうか、ちょうちんブルマーみたいになってる。白い脚があらわだ。頭隠して尻隠さずの見本。

「ちょおっとぉ!アンタたちぃ〜!そこ入っちゃだめでしょうがぁ〜!」

 友蔵は友軍を連れに管理棟に走る。

 ヒカルを含んだ三人のクソガキが川面をしきりと掻いて何かを手繰(たぐ)り寄せようとしている。川の中ほどには赤いゴムボール。満潮の時間を迎え下流でも上流へでもなくユラユラと漂っている。一人のガキが川に足を踏み入れるのを見て

「あっバカ!」

 舌打ちした直毅は錠の掛かった鉄柵に手をかけ、ひと息に飛び越えた。川原に下りる15段ほどの階段を3歩で駆け下りると、ズボンの裾をまくる。腰履きだから今どきの若者の定番らしく引きずって擦り切れた裾なのだが、だからといってちょうどの丈に上げをされたら腹がたつ。そんなこだわりで一応まくった。

「オレも行く!」「オレも!」

「来んな!」

 そう言って運動靴のままザブザブとボールに向かった。川の水は思ったよりかずっと冷たい。ボールまでたどりつくともう腰あたりまでの深さだった。まくった意味なかった。
拾い上げたボールは思ったよりずっと小ぶりで重さがあった。直毅はニコリとする。リフティングボールだ。
 あとは中州を目指す。濡れた衣服とこころもとない足元。川底は泥だか藻だか、でヌルヌルしていた。川の水を掻き分けるように進んで、ようよう中州に上がった。

 ヒカルにボールを渡すと何か言いかける佐藤さんより早く、息が整わないまま吐き出した。

「なにやってんだ!満潮の時間だろう。大潮だったらどうするんだ」

 今日は中潮だ。直毅の父親は釣り好きで、居間のカレンダーは潮まわりが書いてあるものだ。毎年、釣り宿から常連客に配られる。
 でもそれを知っていることは特別なことじゃない。この辺(あた)りの子どもだったら誰でも皆知っていることだ。大潮の時の満潮は潮位が1m以上も違うこと、そしてもっと下流の河口付近では場所によって2mも上がること。いくら埋め立てで海岸線が昔よりずっと遠くなったとしても、この辺りの川の水位は満潮と干潮に影響される。大人たちはその恐さをよく知っている。小さい頃から繰り返し繰り返し言って聞かせて子どもを育ててきた。それを聞いて子どもは育ってきた。いくら安全対策がなされてきていても最後に自分の命を守るのは自分だ。それは河川のそばに住む子どもたちの宿命と言えるだろう。
 
 佐藤さんはぐうの音(ね)もでない。

「川の水だってきれいじゃないの知ってる筈だろ。小さい子の目にばい菌が入ったらどうすんだ」

 彼女は干潮小学校出身だ。満潮小学校も干潮小学校もナンジャラホイタウンの5年生は社会科見学で川の資料館と浄水場の見学に行く。そこで川のしくみや歴史を学ぶのだが、また同時に浄水場から川へ流される水が決してきれいなものではないことも知る。浄化した水とはいえ、リンや窒素を含んでいる。それらはやはり人体に害がある。

『どうすんだ、どうすんだ』と言われて佐藤さんだって少々シャクにさわった。なにせ長女。共働きの両親から留守を預かる長女。感謝されたり頼りにされたりすることはあっても頭ごなしに物を言われたり指図(さしず)を受ける覚えはない。言い返す。

「じゃどうすれば良かったって言うの。ヒカルが、お小遣いを貯めて楽しみにしてやっと買ったボールなん」

 聞いてない。川を見回す直毅。30mほど下流の橋の下にホッチキスの針みたいな形に打ち込まれたハシゴ段が見える。あそこまではもう水かさが増して無理だろう。20mほど上流のペンタゴンの置石を目指すしかなさそうだ。
 満潮の時刻がせまっている。のんびりなんてしていられない。直毅は年かさのいってそうな子どもに声を掛けた。

「おまえ、名前は?」

 目元が佐藤さんにそっくりな利発そうな少年だ。

「マモルです」

「何年?」

「6年です」

「おし。じゃマモルは佐藤と手を繋いで来い。できるよな?」頷くマモル。
 
「オレ、トオル。2年だよ」

「おしっ。つかまれ」

 そう言ってトオルを首に巻き、4年のヒカルを横に抱えて、慎重に足を川に踏み入れた。向かうはペンタゴン。しぶしぶ後に続く佐藤さん。

「キャッ!」

 川底に足を取られてバランスを崩しかけた彼女は小さな悲鳴を上げる。振り向いた直毅は手を差し出した。その左手に従う佐藤さん。イニシアチブはどうしたんだい。
 川の水かさはいっそう増して、たどりつくまでに、もう一度腰まで水につからなくてはならなかった。

 ペンタゴンの護岸の上では下流にある橋を廻り込んできたのだろう。洋平と耕平が興奮して大騒ぎだ。

「早く早くあがって!」「早く早く!管理員さんが怒ってこっちくるよォ」

 護岸の絶壁は傾斜角約80度。切り立ったコンクリートに上から丸刀をザクザクと刻んだような取っ掛かりがついていた。それを足掛かりに蔦やアイビーの茎を伝って這い登れそうだ。小学生の三人は子猿のようにいとも簡単に登っていく。きまりが悪かったのだろう。慌てて佐藤さんも直毅に先んじて登りはじめた。ブチッと音がして上を見上げた直毅のメガネ君にちょうちんブルマーが降ってきた。





 濡れた衣服に風が冷たい。だけど小学生は元気だ。奇跡の生還を果たした下痢気味の高校生に容赦なくリフティングを要求する。友軍を連れた友蔵の文句を佐藤さんが引き受けている間に直毅は救助したボールでリフティングをして見せる。50回もしないうちに子どもたちは歓声を上げる。大喜びだ。何も話さなくとも男子は子どもの心をがっちり掴む。振り返る佐藤さんはちょっぴり羨ましい。
 ヒカルがしきりと「プールのライフセーバーの人」と言うので他の四人も「ライフセーバーの人」「ライフセーバーの人」と言い出した。閉口して「オレはライフセーバーじゃねえ。」と言うと「じゃあ誰?」と言うので

「オレはプールの」

「プールの?」「プールの?」

「プールのかっこいいおにいちゃんだ」

「さぶっ!」佐藤さんが言った。濡れたブルマーをスカートに変身させている。

「わあ!自分でかっこいいだって!」「かっこいいって自分で言ってるし!」もう大騒ぎ。

(佐藤にはこのジョークが“さぶかった”のだろうか)

「ねえねえ。今日うちンちにおいでよ」「おいでよ」

『おいで』って言われても、もう高校生だ。額面どおりに受け取れなくて直毅は曖昧な笑みを浮かべた。

「今日パーティーなんだ。ねーちゃんの誕生日」

「ヒカル!余計なこと言わない!」佐藤さんがぴしゃりと言った。

「きっと来てね。約束だよ」「来てね。男の約束だよ」苦笑する直毅。

「プレゼント持って来てね」佐藤さんに拳固をくらうトオル。彼女の唇は真っ青だった。

 何か言いかけた佐藤さんに、直毅はブレザーを脱ぐと彼女に放り投げた。

「オレ帰るわ。腹痛ぇから」

「腹痛いんだって」「腹が痛いんだってぇ」

「お腹痛くてウンコするんだ!」

「ウンコすんだ!」「ウンコ!」

ウンコでワッと盛り上がる小学生。やっぱクソガキ。

「うるせ〜よ。クソくらいすんだろが!」

「クソするおにいちゃんだあ!」「クソするにーちゃんだぁー!」

クソするニーチャン!=空飛ぶジュータン!の乗り。ワケワカメ。

 マモルが進みでて、

「ありがとうございました」

 と、言ったけれど、騒ぎに背を向けた直毅の耳に届いたかどうか。
 「クソするニーチャン」から逃れるように、直毅は自転車までダッシュで走る。だって管理棟はさっきのキンコンカン(5時)で閉鎖された。家までもたせる自信は 0

<つづく>







さと子とチャリバトルを繰り広げた「ちびまる子」の祖父友蔵のそっくりさんはここで管理員をしてたんですねぇ。知らんかった。それと素直になれない佐藤さん。でも佐藤家の6人にとって、この日のおにいちゃん(直毅)は正真正銘のHEROでした。きっと皆の心の中ではこんなBGMがガンガン流れていたと思いますよ。
歌詞はココ→爆竜戦隊アバレンジャー


年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。




10/30改稿「そう言って舌打ちすると直毅は川へ下りる15段ほどの階段手前にある錠の掛かった鉄柵に手をかけて飛び越えた。3歩で駆け下りて裾をまくる。 」→「舌打ちした直毅は錠の掛かった鉄柵に手をかけ、ひと息に飛び越えた。川原に下りる15段ほどの階段を3歩で駆け下りると、ズボンの裾をまくる。」

↓やっぱり長男長女のカプールはだめねとオモタら
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コメント(12件)

内 容 ニックネーム/日時
でました、ワケワカメ。予備知識がなければワケわかんねえとこでした。昔、ベンのテーマというのがありましたが、(そんなの関けえネエ)、便意を堪えるのは辛いものです。平気かなあ。心配だあ。直毅君。
佐藤さんが寡黙になっている辺りが実にリアルですねえ。長女とはホントこういうイメージですね。どこかプチ母親的です。しっかりしていて、私などは長女の友人の前ではいつもかしこまっていました。
私に女性という性のことを学問として教えてくれたのも長女である友人でした。中一の自習の時間のことでした。私はオクテだったのですが、そんな私を笑ったりせずに図解説明をしてくれました。今でも感謝しています。万国の長女諸君、私のとこへ、来てちょ!
だっくす史人
2007/10/29 00:56
だっくす史人さん。
ほんとにねえ。佐藤さんの意固地にも困ったものです。親からできることを期待されちゃってますから、「できない」ってことは口が裂けても言えないんですよ。それに人にしてあげることばかりだから、逆にされた時に戸惑うんですね。まず「ありがとう」が言えない。だって「ありがとう」を言う機会が圧倒的に少ないですから言い慣れてないんです。人からそう言われることばかりで、もっと「ありがとう」が聞きたくて頑張りますねぇ。ちょいと不憫です。きっと、だっくすさんのお友だちも、そういう方だったんでしょう。掛け値なしに面倒見がいいんです。
びっくりしたのは自分から「誕生日だからなんか頂戴」と言える子がいたことです。あまりにも屈託がなくて、断られることを前提としてませんから、きっと幸せに育った子なんだろうと想像しました。ほんとうは、そうでなきゃけないのかもしれない。いろいろです。
万国の長女諸君がだっくすさんに集合したら言われっぱなしですよ。ええ。参ったと言うまでこてんぱんにやられます。きっと。それでもいいの?
つる
2007/10/29 01:45
突然のコメントで失礼いたします。
ブログを拝見させていただきまして、是非とも協力をして
いただきたくコメントという形で、ご連絡をいたしました。
当サイトは「ブログで繋がるコミュニケーション」をテーマに
参加していただくブロガーの皆様を幅広く募集をしています。
ランキングを楽しんだり、さまざまなブログを拝見したり、
ブログを持っている方々のコミュニケーションの、
一つの引き出しとして、その場を提供したいと考えています。
当サイトの検索バーの横にブログの登録フォームがあります。
お手数をおかけいたしますが、ご賛同いただいて、ブログの登録を
御願いできれば幸いでございます。
是非、御願いします。こちらのサイトです。
http://www.p-netbanking.jp
なお、こちらのミスで謝って、再度、ご連絡をした場合。
また、全く興味のない方は削除されてください。
magazinn55
2007/10/29 20:17
腹壊してて入水はキツイ(泣)
直毅が佐藤家の子供達を助けるシーンは
緊迫感があっていいすね!ハラハラしました。

今日は生意気に、一文を取り挙げて、
僕ならこう書くかも。
って感じで書いてみました。

>そう言って舌打ちすると直毅は川へ下りる15段ほどの階段手前にある錠の掛かった鉄柵に手をかけて飛び越えた。3歩で駆け下りて裾をまくる。

>舌打ちした直毅は、川原へ下りる階段手前の鉄柵に手をかけ、一気に飛び越えた。10段ほどの段差を3歩で駆け下り、裾をまくる。

どっちがいい悪いじゃなくて、
同じシーンでも個性の違いが出て
面白いっすよね^^
レイバック
URL
2007/10/29 21:16
magazinn55さん。
来てくださってありがとう。
でも記事について何も触れていただけなくて残念です。
つる
2007/10/29 23:18
ちょーっと、レイバックさん。それ、いただきます。
実はその文、二つに分けるか悩んだんです。何故なら「柵越え」がこの記事のいち押しの部分だったからです。詳しくは0時過ぎアップの新記事を見てね。
レイバックさんの文章は無駄がなくてハードボイルド系。わたしのは、書き手が女性だという匂いがしますね。
鉄柵に錠が掛かっていたから飛び越えたという必然が欲しかったので、そこを省略しないで、もう一度推敲してみます。ほんと助かる。ありがとう。
いつもお薦めのシーンをひとつ入れるようにしてるんだけど、今回はもうひとつ入ってるんです。そう!わかった?「さぶっ!」です。
つる
2007/10/29 23:33
つるさん、今日はブログ村からやって来ました。マイページに加えさせて戴きました。イメージ画像もどうぞ登録してください。
ランキング、上がるよう頑張りまっせ。(どこのヒト? )。
祝・入村!
だっくす史人
2007/10/30 00:43
だっくす史人さん
どうもお手数をおかけします。
イメージ画像わかんないので週末にでも、ゆっくりtryしてみます。
ランキング上がったら嬉しいかもだけど、実力が伴わないので不安です。
つる
2007/10/30 01:23
なるほど、佐藤さんのテンションが↑って
かわいいシーンですよね(笑)
冒頭の夕暮れの情景描写も好きっす^^
レイバック
URL
2007/10/31 00:52
レイバックさん
冒頭の夕暮れ?情景描写?
トコトコあんどリタ〜ン。
きゃあっ!こんな、とってつけたようなシーンで、や・やめてくださいまし。
低い鼻を高いと言われるくらい恥ずかしい。
つる
2007/10/31 01:22
腹をこわして、尻を押さえる状態はまず洩らしてるような気がしますが、大丈夫だったのか。
中州から佐藤姉弟を救出して、ちょっとポイント稼いで、佐藤さんの誕生パーティ。
絶好のチャンスなのに、またまた腹が痛いと
行かないつもりですか。
もう少し進展しろ〜と、歯痒いところですね。
銀河系一朗
URL
2007/11/26 21:53
大丈夫じゃなかったみたいですよ。銀河系一朗さん。いつもありがとう。
もうね。こうなるとコメディですよ。そもそもそんなかっこいい子ばかりが主役じゃねえってとこから始まってるんで、もともとショボイ話なんです。たぶん誰の期待にも添えないと思います。
HAPPY BIRTHDAYはあと2回で終わりです。もうひとふんばり見てください。
つる
2007/11/26 23:11

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