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zoom RSS 「理想の高校生」HAPPY BIRTHDAY 2/都落ち

<<   作成日時 : 2007/10/16 18:33   >>

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photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

HAPPY BIRTHDAY 2/都落ち
 朝からナンジャラホイ高校は最新号のフリーペーパーの話で持ちきりだった。古典の授業の合間にこっそりと、やり取りされる地域限定の無料小冊子“花よりメガネ男子”。行く先行く先に小さなざわめきを起こしながらクラス回覧されている。
 

 直毅のところにも後ろから回ってきた。付箋(ふせん)の貼られたページには<あなたの街のメガネ君>にニ年一組の小人6役の鈴木君と鏡役の佐々木君の写真が、<ビバ!メガネフリーク!メガネ大好きカワイコちゃん>にニ年八組の佐藤さんの写真が大きく掲載されている。校長先生も<今週の地域イベント情報>の<ナンジャラホイ高校文化祭催される>に小さく写真入りで紹介されている。

 冊子の閲覧を終えた順番から皆鈴木君と佐々木君の方をちらりちらりと見ている。二人共ちょっと恥ずかしそうだ。鈴木君は文化祭の日(→ココ、佐々木君の話を聞いて、ロッカーに眠る親友のメガネ君と久しぶりにご対面した。そして廊下で二人でふざけっこをしている時に取材を受けたのだ。楽しそうに笑う彼らはなんて学生らしくさわやかなんだろう。

 直毅は佐藤さんのページで息を呑んだ。動けない。
 カメラに向かって少しはにかむように微笑む彼女はすごくきれいだ。実物の佐藤さんも、もちろんきれいだがこうして小冊子に載った着物姿の彼女は、夕鶴のおつうを演じる女優さんの卵みたいだ。もう手の届かない遠い世界の人のように思える。もともと手なんて届くはずがない。だけど彼女のこんな素敵な笑顔を見るためならオレはきっと宇宙の果てまでだって冒険の旅にでるだろうと思った。それがどんな過酷な旅になろうとも、だ。穴が開くほど見つめるそれは彼の体の中に勇気を呼び起こす。
 どれほど息を詰めて見ていたんだろう。やがて直毅は、「はぁーーーーーーっ」と大きな溜息をついた。

「はい!そこ!溜息つかない!今読んだとこ訳す!」

 教師が直樹を指した。小冊子の回覧のせいとは知らず、先程からザワザワと落ち着かないクラスの様子に少々苛(いら)立っていたようだ。もともと意地のよろしくない性格のようで、当てた生徒が答えられないと平気で立たせておくようなところがある。年は30代半(なか)ばくらいであろうか。名は加納という。人気は全くない。

「今読んだとこってどこですか」

 と、言って直毅が立ち上がると、すかさず隣の席の林さんが教科書の該当部分を示した。
<薩摩守忠度(さつまのかみただのり)は、いづくよりや帰られたりけん、侍五騎、童一人、わが身ともに七騎取つて返し、五条の三位俊成偕(しゅんぜきょう)の宿所におはして見給へば、門戸を閉ぢて開かず>のところだ。「ああ」と頷(うなず)いて

「そのまんまです」 と言った。

「いま何て言った」

 教師は顔色を変えた。

「だからそのまんまです。訳すほどのことではありません」 

 冷静を装って教師は言った。

「訳すほどのことはないと言うのなら『いづくよりや帰られたりけん』の助動詞は何だ。説明しろ!はい!」

 語尾に『はい!』がつくのであだ名は“HiHiHi(ハイハイハイ)”
文法は苦手だ。口ごもっていると長谷川君が助け舟を出した。

「<られ>の<れ>が尊敬、<たり>は完了、<けん>は過去の或る時点を推量する過去推量という意味の助動詞!」

 教師はその声に振り向きもしないで直毅に近づくと

「訳さないでもわかると言うんなら、さぞこの物語には詳しいんだろうねェ」

 と、嫌味を言った。クラスはいつのまにかざわめきが消え、事の成り行きを見守る雰囲気になった。直毅は言う。

「『忠度の都落ち』は軍記物語のジャンルにはいる平家物語の中では珍しく合戦とは程遠い場面を描いたものです。平家一門稀代(きだい)の歌詠みとして名を馳せた平清盛の末弟である薩摩守忠度の都落ちの段は西海の地へ都落ちする忠度が京の都の藤原俊成偕の邸宅に」

 なんだか面倒くさくなった。途中でふぅと溜息をついた。

「邸宅になんだ。言ってみろ!はい!」

 こんな時まで『はい!』がつくのでひとり誰かがプッと吹きだした。

「要するに忠度は歌詠みの先生のところに行って『俺はもう死ぬかもしれませんが先生が歌集を作る時には俺の歌を入れてね』ってお願いしに行ったわけです」

 先生は鼻白む。仕方ない。だって直毅はすでに本で読んでいた。現代語訳ではあったが思いを寄せる佐藤さんが百人一首同好会ということもあって平家物語の中でも歌人の忠度のエピソードを描いたこの部分は興味を惹(ひ)いた。
 <千載集>に載っている<さざなみや志賀の都は荒れにしを昔ながらの山桜かな>という句は天皇のお咎(とが)めを受けた忠度を不憫に思った俊成偕が詠み人知らずとして載せたものだ。詠み人知らずの中にはそういう背景をもった句もあるということである。

「じゃ次のところ佐々木、訳す。はい!」

 何事もなかったかのように踵(きびす)を返すとつぎつぎに容赦なく当てていく。

「わかりません」「わかりません」「わかりません」「わかりません」

 つぎつぎに立ってゆく生徒。指された全員が「わかりません」と言って抵抗する。生徒を立たせたまま一人で授業を進めていく教師。ほんとに厭な奴だ。

 先に知識を得たからといって偉いわけでもなんでもない。例えば三才の子が国旗を丸暗記したからといってそれが何なのだろう。いずれ覚えればいいことだ。必要があって覚える。必要に迫られて覚える。それを生かすか生かさないかだ。
 この学期、直毅は中間・期末テスト共に平均点を上回ったにもかかわらず、10段階評価の評点は4だった。そんな教師もいる。

 この教師には、あとでじゅんぺいが敵を取ってくれている。
 制服のズボンを大げさに四角く膨らませてタバコの箱が入っているように見せかけ、生活指導のこの教師に引きずられて職員室に行ったのだ。そこで『出せ』『出さない』とさんざんゴネて見せた。周囲の教師に向かって鬼の首でも獲ったかのようにじゅんぺいのズボンからその教師が取り出したのは、ボックス型のチョコレートだったという顛末(てんまつ)だ。
 その手柄話をするじゅんぺいに、日頃からこの教師に不満を持つクラスの皆は、大いに溜飲(りゅういん)を下げたものだった。

 座った直毅はもう今週の特集<メガネ君の前髪考〜ハラリが決め手>も目に入らない。前の席の宮川君からの回せ回せのリアクションに、教師から見えぬよう、そっと小冊子を横から差し入れた。

(佐藤はどうしているだろう)




 5時限目が終わって直毅は廊下の個人ロッカーから詰め込んであった部活の練習着や体操服を引っ張り出した。来週から中間テストなので部活も昨日から休みだ。洗濯のために持って帰る。しばらく放り込んであったせいか汗臭いどころか饐(す)えた匂いさえする。母さんの渋い顔が眼に浮かぶ。
 9月から始まった選手権(全国高等学校サッカー選手権)の一次トーナメントも勝ち抜いてきている。この時期に練習がないのは気が気ではないのだが皆自主練で対応しようということになっている。汚れ物をバッグに押し込んでいると、

「ねえ今日図書館行かない?」

 林さんが話しかけてきた。

 べつにどっちでも良かった。一人でも行こうと思っていたところだ。断る理由なんてない。

「いいよ」

 と言う直毅の右目の端に佐藤さんが映った。5時限目の授業が終わって情報教室の方から戻ってきたようだ。一組の前を通る。

 あれきり二人は廊下ですれ違っても目も合わせない。互いに互いがその存在を認めながらどちらともなく目を逸(そ)らしてしまうのだ。直毅は嫌われていると思っているし佐藤さんは謝るタイミングを逸(いっ)してしまっている。

 今日の佐藤さんは違った。じっと直樹を見つめたまま歩いてくる。息が止まった。
 そのまっすぐの瞳に少したじろぐ直毅。さっきまで宇宙の果てまでだって冒険の旅に出る筈の勇気はどうした。意気地がないったらありゃしない。

 佐藤さんは林さんの後ろを右から左へゆっくりと通過する。直毅にくれて寄こす瞳の色のなんと濃いこと。静かで冷たくて、悲しみと哀(あわ)れみを湛(たた)えている。そして直毅の瞳の真っ芯をとらえて離さない。
 彼女の視線を追いかける直毅の眼の前をスローモーションのように通り過ぎて行った。
 後姿はもう何も語らない。

 全身の力が抜けた。直毅は軽蔑されているんだと思った。嫌われるよりもっと悪い。きっと長谷川君とのホモ疑惑が彼女の耳にも入ったのだと思った。信じる信じないはどうでもいい。彼女の耳にそれが届いたことが悲しい。

 彼は今、好むと好まざるに関わらず、噂の渦中にいる。一旦流れてしまった噂の先までたどって、我が身の潔白を証明する事は不可能に近い。汚名挽回のチャンスも与えられずに人の口に上(のぼ)る自分を如何(いかん)ともしがたく、その流れに身を委(ゆだ)ねるばかりだ。

 誰だって私意に沿う人生を送るわけではない。人の意に反して時が流れていくとしたらそれに逆らうことなんてできやしないと思う。その流れに乗って歴史はつくられてきた。
 今なら都落ちする忠度の気持ちがよくわかる。

 直毅は左手を見た。彼女の瞳と、そしてこの左手で掴んだ確かな彼女の白い腕。その手の平の感触はもう遠い。遠くなった記憶を呼び起こそうとでもするようにそっと握った手を見つめている。

<つづく>




鼻白む気おくれした顔つきをする。興ざめた顔をする。

饐(す)える飲み物や食べ物が腐って酸っぱくなる。

溜飲(りゅういん)が下がる@胸がすいて気持ちがよくなる。A不満や不愉快の気持ちがなおる。(以上小学館新選国語辞典より)



すれ違う時の気持ちを忘れちゃったアナタ。こんなBGMが記憶をたぐり寄せるお手伝いをします。歌詞は→ココ

ココ面白くないですか?この年になるとけっこうハマリますねえ。あとココを参考にさせていただきました。あ〜久しぶりに勉強してしまい賢くなった気がします。

年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。




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コメント(9件)

内 容 ニックネーム/日時
おおお、古典の授業懐かしい〜。
かろかつくいいけれ。
だろだつでにだななら。
何の暗号やねん!って(笑)
でも、古典で習った文法って、
現代文にも応用が効いたから、
意味はあったのかも。
カーペンターズ勿論大好きっす!
レイバック
URL
2007/10/16 23:42
あ。言い忘れてました。
つるさんブログを当方で
リンクさせて頂きました。
もしマズければ仰ってくださいね^^
レイバック
2007/10/16 23:43
あっ嬉しい!リンクいいの?以前断られたことあってこのずうずうしいわたしでもショックでそれからあまり自分からは言えなくなってしまってました。レイバックさんはbiglobeではないのでフレンドになれないからわたしもリンク貼らせていただきます。
あと聞きたいことがあるんです。やっぱ直毅はネチっこ過ぎたかな?わたし「セカチュー」にはちょっと引き気味のところがある天邪鬼です。その少し手前のところで止めときたいのだけど自分の文章がなかなか客観的に見ることができません。横っちょのメールでもいいので暇な時にアドバイスください。お願いします。
つる
2007/10/16 23:58
カーペンターズを聴いたのは1年ぶりくらいでしょうか。
最初に聴いたのはもちろんレコードです。カレンの可憐な声に圧倒されました。(こんなおじんギャグには圧倒されん、でしょ? )。B面に裏返すのもモドカシク、でも両面を繰り返し聴いたものです。
有難う御座いました。
だっくす史人
2007/10/17 22:28
だっくす史人さん
いつもありがとう。カーペンターズ好きで良かったです。
以前お好きだと言っていたメンデルスゾーンの「協奏曲ホ短調・作品64」が何回も聴いて飽きないようにわたしもカーペンターズが飽きないんです。可憐いやカレンの声かなあ。皆同じ耳なのにどうして心地良い曲が違うのでしょう。脳か?

レコード裏表もどかしく操作したものです。つきっきりでした。今はほっといてもリフレインしてくれますもんね。逆に聴いてない時ありますよ。便利になるとありがたみが薄れます。
レコードの話をしたらリンスを薄めて使っていたことまで思い出しちゃった。ふるっ。
つる
2007/10/17 22:54
いえいえ、ずっとリンクしようと思いながら、
ズルズルと今まで・・・・・・(汗)
そして早速のリンクあざっす!
直毅の心情いいと思いますよ。
男子ってそんなもんだと思います。
もっとアッサリとした子もいるでしょうが、
僕は直毅のように、好きな子の事を
色々想像するタイプでした。
(Hな想像じゃないすよw)
説明文が繋がって長くなりがちなので、
もう少し絞った方が伝わりやすいかも。
あと長い文にはある程度、
読点を入れた方が親切かな?
どちらも個人的な好みがありますので、
あくまで僕目線の感想ですが^^
レイバック
URL
2007/10/17 23:27
うんうん。わかりました。本当にありがとう、レイバックさん。
直毅は実はモデルがいるんです。サッカーではすごいプレイするんだけどメルアドは彼女にちなんだものなので振られちゃったときには変えるんですよ。そのギャップがおもしろいんですけどまさか心の内まではそう聞かせてもらえるものではありません。またそれを伝えるツールも完備してないんですね。セカチューだってあれ大人目線で書いてますから。
というわけでレイバックさんにいただいたアドバイスで直毅の気持ちはあらかたこんな感じでいこうと思います。ただし部活がはじまったらこうはいきません。なにしろジュニア恋愛小説じゃないもので。これ終わったらあと部活物語です。

長い文は見直してみます。ずっと睨んでいても埒があかないのでパソが不調で良かったです。少し離れてみればアラが見えてきそうな気がします。
いただいたコメントにこころから感謝しています。どうもありがとう。
つる
2007/10/18 00:21
お久しぶりですm(_ _)m
文化祭8で、鈴木君の変態ぶりが垣間見えたので大変喜んでおります。
連載を拝見していたらふと眼鏡に戻りたくなりましたが、自分の場合みんなに取り上げてもらえるどころか、むしろ憐みの目を向けられそうなので自重しておきます。
小屋
2007/10/22 02:58
小屋たん、来てくれて嬉しいです。
やっぱメガネ君メガネ男子いいですよ。目が離せません。
マ・オバちゃんが言っても心に響かないと思うけど若い女の子の中にだって絶対いる筈なんだよね。メガネ君大好きっ娘がさ。比率?そうねえ。20人に1人くらい?いや15人に1人か?まあとにかくいるのさ。それをGETするんだよ。頼むよ、もお。
そう、それから免許取得楽しみにしています。中免か大型持ってると嬉しいんだけど。何故かって?ひとつお話が浮かんだんです。
つる
2007/10/27 01:18

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