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zoom RSS 「理想の高校生」 HAPPY BIRTHDAY 1/三つの噂

<<   作成日時 : 2007/10/14 11:36   >>

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photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

HAPPY BIRTHDAY 1/三つの噂
 ゆみこってさ

 佐藤ゆみこさんに空耳アワーが訪れる。

 オレのこと好き?←いや言ってない。

「あたりまえじゃないっ!」

「だよね。あたりまえだよね。ふつう」酒井さん。

「へ?」

 佐藤さんは学食の片隅で、親友の酒井規子(のりこ)さんとお弁当を開いている。

「さつま芋を貰ったら、その後何かが始まるって期待しちゃいけないかな?ふつうそうでしょ」

 どうやら目の前の弁当の脇に置かれたニ本のさつま芋の話だ。
 酒井さんは後夜祭で、思いを寄せるニイケンからさつま芋をゲットした。ナンジャラホイ高校の伝統の告白アイテム。あれからニ週間。酒井さんはいつも芋と共に行動する。芋はいくぶんくたびれてきた。切り口はカビでもはえたように緑色だった。

「ずいぶん、しなびてきたねぇ。そんなに気になるんなら規子から何か言ってみれば」

「それはできないよ」

「なんで」

「こういうことは始めが肝心なのよ。もしこの先つき合うようになったとしたら」

 女子の好きな“ればたら”だ。

「なったとしたら?」

「イニシアチブは取りたい」

「イニシアチブねえ」

 そんなこと佐藤さんは考えたこともなかった。

「どっちが先に好きになってどっちがつき合ってくれって言ったのかっていうことをはっきりさせておかないとね。それは取れないわけ」好きになったのは酒井さんが先だ

「どっちが先でもいいんじゃない?」

「ううん。だめだめ。じゃ、ゆみこはもしカレシができたらその人に振り回されたい?」

「やだ」

 佐藤さんは『とんでもない』と言うふうに頭を振った。かりにも長女。転んでも長女。相手の上に立つつもりはないけれど、お互いに尊重して尊重されて成長していきたいと考えていた。

「でしょ、でしょ。だからそのためにはそこんところをはっきりさせておかなくちゃね。あとあといろいろあるのよ」

「へえ」

 実は酒井さんにもよくわからない。昨夜来た従妹の大学生からの受け売りだ。ちょっと親友の前で大人びてみせる。
 従妹の三つ上のお姉さんは母親同士が姉妹で酒井さんとは年が近くて仲がいい。小さい頃から彼女にとってのオピニオンリーダーだ。最近ニ年ほど続いた恋愛にピリオドを打った。その際のコメントだった。

「とにかく動かない方がいいのよ。あっちの出方を待たないとね。今後のためなのよ。辛いけれどここは辛抱のしどころってわけ」

 ますます佐藤さんにとっては「へええっ!」だ。

 酒井さんはすでに芋を手中にしており、そのへんのところは多少余裕がある。まあこの後で、ニイケンにそれが通じないで苦戦するのだが、その話はまた後日。

「イニシアチブよ!」

「イニシアチブかぁ」

 二人はいつ取れるともしれないイニシアチブを想像して

「きゃーーーーーっ!!!」

 と言ってテーブル越しに抱き合った。まったく騒々しいこと。

「そうそう噂なんだけど」

 佐藤さんは噂はあまり信じないほうだ。伝言ゲームを見ればわかる。たった一人が間に入るだけで、情報が真逆になる。かまぼこを口に放りこみながら、

「ん?」と酒井さんを見た。

「ほら、一年の時に同じクラスだった松本君、いるじゃない?」

「う」

 突然の話題に、佐藤さんは目を白黒させた。かまぼこが口の中で行ったり来たりしてるようだ。
 佐藤さんは松本君を好きになったことをまだ酒井さんに言ってなかった。  夏休みの出来事。話そう話そうとしたけれど、夏休みの後半は弟たちの宿題に追われ、ついつい後回しになって今日まできた。今、言わなければ、後できっと『水臭い』と叱られそうだ。

「彼、今、一組の生徒会副会長の林さんとつき合ってるんだって」

「あぅ!」

 かまぼこと一緒に舌を噛んだ彼女。唇からみるみる血の気が失せた。

「順子が言ってた。びっくりだよね」

 順子とは、一組の白雪姫のカチューシャをつくった神田さんだ。酒井さんとは茶道部が一緒だった。

 親友思いの酒井さんは、もし佐藤さんが松本君を好きだと知っていたら、こんな噂を軽々しく口にしなかっただろう。だってただの噂だ。もし知っていたら真実をつきとめるまでは口を噤(つぐ)んだ。そういう聡明さは持ち合わせている。

「へ・へえ。%£@*#・・」

 うまく喋れないで彼女は泣いた。
 ふだんは噂なんて信じない。彼女も聡明な女子だ。でも何故かその噂をまともに受けとった。もはや、彼に関しては、これっぽちも冷静な判断が下せなかった。




 昼休みの教室の後ろ。直毅の上に長谷川君が覆いかぶさっている。柔道部の長谷川君が直毅に寝技の外(はず)し方を教えているのだ。そんな二人に、なぜかクラスの女子が冷たく視線を投げかけた。
 キンコンカンが鳴った。じゅんぺいが慌てた様子で教室に戻って来ると、席につく前に二人に言った。

「やばい!おまいら二人噂になってる」

「何の?」

「ホモ疑惑」

 と、言って「ぎゃはは!」とのけぞった。

「え?」と、ちょっと驚く直毅。笑っている長谷川君。

 だってありえない。クラスでは直毅と林さんがつき合っていることになっているし、長谷川君は三年生に彼女ができた。彼はたびたびその姿を目撃されているし、皆知っている。ニ年生と三年生の男女が校門を出る。それだけのことなのだがけっこうセンセーショナルなことになってる。何故ならニ年生が男子で三年生が女子だからだ。

「あれじゃね? 白雪姫のラブ・シーン。しかしありえね〜」とじゅんぺい。

「だったら大川たちも同じじゃねぇの?」

 と、直毅。Wキャストの彼らは、ほんとにキスシーンを演じたからだ。

「ところが、おまいらだけなんだな〜」

「わけわかんねぇ」

 男子の耳に、こうした根も葉もない噂が入るのは珍しい。男子は男子の、女子は女子の話題がある。こうした別々の話題に風穴を開けるのはじゅんぺいたちのように男女交際している者からの情報だ。
 そしていつの間に書かれたのだろう。黒板に“松本”と“林”の文字の上に相合傘。ダーッと黒板の前に走った林さんが憮然とした表情でそれを消している。
 古典の教師が入って来た。話はそこまでだ。事実無根なので直毅と長谷川君は、気にも留めなかった。


「今日は鎌倉時代初期に原形が成立したという軍記物語の代表作『平家物語』の忠度(ただのり)の都落ちについて――」


 直毅はニ週間前から新しいメガネだ。
 文化祭の夜にレンズにひびがはいったメガネ。『あらあら男前が台無しだ』と言って母さんがすぐ作るように言ってくれた。別になんでも良かったのだがチェーン店まで付いてきて、レンズ込みで\5000のでいいと言う直毅を差し置いて、女店員とああでもないこうでもないと盛り上がって2ランク上の\9000のメガネを奮発してくれた。“花よりメガネ男子”の5%割引券も使って購入したそれは、彼にとても良く似合っている。

 慣れないメガネが気になって授業中にレンズの曇りを拭いていると、横の林さんが直樹を見た。
『なに?』というふうに直毅がそちらを見ると『ううん』というふうに彼女は首を振った。そしてとってつけたように大きなギョロ目をクリッとさせて笑った。太った彼女の唯一無二のチャームポイントなのか、こうした表情をよくする。

 最近になって直毅は林さんと、よく話す。話すというより聞いているといったほうが正しいだろう。彼女は気がつくと、なんとなくそばに来て、なんとなく喋って、なんとなくいなくなる。直毅は母さんと話しているようで気楽だ。クラスの皆は『つき合っている』と冷やかすけれど、彼は面倒なのか否定しなかった。否定したとしても、それはそれで見苦しいと知っているようだった。

 実際に彼女が話す古典の教師の奥さんが年上でその愛妻弁当がひどくまずいらしいこと、生徒会の仕組みや学校側との折衝、知らない話を聞くのは面白かったし、仲の良い女友達ができたような感じだった。それに彼女と話しているうちに、女子と話す時の構えたような気持ちが薄れていった。
 ただ夜の長々としたいつ終わるともしれないメールのやり取りには閉口した。部活の疲れで何度、返事の途中で寝てしまったことだろう。でも林さんはそんなことに文句のひとつも言わなかった。
 彼女は賢明だった。男子の足手まといにならない女子の見本みたいな女子だった。




 さて林さんだ。林さんは苦しんでいた。
 文化祭の夜に『つき合ってもいい』(彼女の誤解だ)と言われて、次の次の日からなんとなく直毅と話す機会が多くなった。だが、林さんから直毅にメールしなければメールは返ってこないし、話しかけなければ決して話しかけることはなかった。林さんからすれば映画を観たり待ちあわせて遊びに行くなんてことは夢のまた夢だった。

 そんな彼女の不安を後押しするように、今日いやな噂を耳にする。いつも仲良しグループで昼食をとるが、その全員と気が合うというわけではない。そんなちょっと薄いつき合いの女子が彼女に言ったのだ。『松本君が林さんとつき合っているのは長谷川君とのホモ疑惑を払拭(ふっしょく)するためのフェイクだ。皆がそう言っている』というものだった。

 それはやっかみから出た言葉なのだろうが、まんざら信じないわけにはいかない不安材料を抱えている林さんには、ショックな噂だった。



<つづく>






BGMはこんなですかね。


年齢を問わず読んでいただきたくてお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名を付けます。

↓なんか書いててつくづく厭になりました。噂っていやですね。わたしも嫌い!と思ったら
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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
噂というやつは本当に困ったものです。豚が木に登ったり、猿が世界を征服したり、どんなもんでもアリですから。(ぶっ壊れたショートショートの中だけにして欲しいものです)。
青春というのは大変ですねえ。なんか思い出してしまいます。あの日のことを。芋だけではダメ、イニシアチブも。イニシエの昔から恋の駆け引きは食うか食われるか(変な意味ではありません)ですから。相合傘が出てきました。俊成と忠度のホモ疑惑も出てきたし(でたっけ?)、いよいよめくるめくカンノウの、いえ、感動の世界が広がりそうです。
¥5000が2ランク上で¥9000ていう店、うちの近くにもあります。OHマイリゾンとかなんとか、そんな店です。
高校生も最近は大変ですね。メールに噂にホモ疑惑に。私なんかもっとシンプルだったなあ。便利な世の中だけど忙しくて、落ち着かないような気がするのは、私がおじさんだからでしょうか?ユトリとは程遠いような。
だっくす史人
2007/10/14 14:18
いつもありがとう、だっくす史人さん。
噂っていやですね。無責任な人ほど口にします。
以前だっくすさんがコメで「たけくらべ」の子どもたちの世界は大人の縮図って書かれていたでしょう。それで思いつきました。
わたしも高校時代に今なら笑っちゃうようなことで泣きました。地下鉄の窓から沈みましたよ。ええ。丸の内線です。え?聞いてない?
なのでこの噂にしてもいじめにしても部活の監督や教師の理不尽さにしてもそれに負けないでって気持ちで書いてます。いま直面していることが奈落の底ならそれ以上は落ちません。ちょっとだけの辛抱。あとは少しずつ浮かんでいくんです。そんなのが伝わるといいな。

>OHマイリゾンとかなんとか、そんな店です。

こちらではZoffですかね。原宿店の店員さんはみな俳優の卵なんじゃないかと思うほどかっこいいです。全員黒のニットベストに黒のpantsです。
黒が決め手かとオモテ帰りにユニクロでベスト買ってさあ着てみろと言いました。誰もかっこよくならなかったです。
つる
2007/10/14 22:42
つるさん、丁寧なコメントありがとうございます。
まずは言いわけから。つるさんのブログが面白くて、色んな音楽に乗りまくり、コメントを書くことに意識がとられて、まあ、色んな事情で、これまでポチッとするのを忘れておりました。2度位しただけです。このブログは多くの人に読んでもらいたい。そう思います。昨日からまずはポチッとしてから記事を読むように順序を変えました。
>少しは味方になりたい。と思います。
また、楽しみにしています。
だっくす史人
2007/10/15 00:23
噂ってやですねぇ、ったく。
流された方も聞く方も気分が悪い。
(高校時代ホモの噂を囁かれた男ですから!
こんなに女好きなのに!(ノ`A´)ノ ⌒┫)
いやいや興奮して失礼しました・・・・・・
レイバック
URL
2007/10/15 00:52
びっくりしましたよ、だっくす史人さん。
さっきのコメレスに書き忘れたことがあってちょうど追加しようと思っていた文があったのです。
ポチのことは気になさらないでね。わたしもけっこう忘れます。
そして<味方>ってやっぱりいいですねぇ。勇気が湧いてきます。
これ子どもから言われたりしても案外泣きます。

え?書き忘れた文て何?う〜ん、長女だから(長女関係ねえし)あんまり言いたくないけど仕方がない。

「だっくす史人さん。今日はなんだか男前に見えます。」です。
つる
2007/10/15 01:14
レイバックさん、絵文字の使い方ウマスギ!メモメモ。

ところでなんちゅうことなんでしょうか。ここにもうひとりのホモ疑惑の容疑者が現れるとは。
う〜ん。お悔やみ(?)の言葉もないのですがなんか詳しく聞いたら一本書けそうなわたしは知りたがり屋のノンフィクションライター?

でも言葉って行動が伴ったり、その裏付けがとれたりしなければ信じるに値しないのに、聞いただけでものすごく腹がたつことありますよね。
完全に相手の土俵に乗っかっちゃってます。
そんなときはあれです。プロジェリアという難病に冒されているアシュリーちゃんの「もうそこからさきは相手の問題」という言葉を思いだすようにします。
そんなことを口にする相手のくだらなさを笑ってやるんです。
それがなかなか難しい。
しかも自分も人のこと口にしたりしてます。
日々反省。自分がなりたい自分に向かって進むだけです。
独り言です。コメレスになってません。

つる
2007/10/15 01:51
そうなのか、芋が告白アイテムなんだ(笑)

心臓が飛び出るかとオモタ。かまぼこと一緒に舌を噛んだ、ってところが
素晴らしいでした。

最近のメガネって安いんだな。
テレビでCMしてる○萬円堂とか眼鏡○場のイメージが先行してた。
私が持ってるダサダサ眼鏡は1万○千円。
でも普段はコンタクトです。
銀河系一朗
URL
2007/11/20 17:09
銀河系一朗さん。おお、ここにも!
だんだん申し訳ない気持ちになってきた。拙文を読まされるって苦痛以外のなにものでもないですよね。
このへんは行き当たりばったりで書いてましたねえ。芋・・苦し紛れでした。
>心臓が・・・
へえ。そうですか。びっくりしました。何も考えてなかったです。女子側から書いた方がなんか好評みたいです。それはわたしが元女子だから〜(シネ)
一朗さんはメガネ男子なんだ。ここにいらしてくれる方でメガネ君多いです。このお話はメガネ君応援歌と言ってもいいかもしれない。冴えないおにいちゃんもだんだんかっこよくなっていきますよ。でも、さと子の妄想が生みだした高校生だから基本は親孝行でマザコンで男女交際も暴走しないんです。
>テレビでCMしてる○萬円堂とか眼鏡○場の
どこだーっそれどこーーっ!
>普段はコンタクト
かけましょうよ。メガネ。
ジョニー・ディップとかwonbinとか伊達メガネかけるくらいですからね。表情にニュアンスがでて絶対かっこいい筈なんです。
来てくださってありがとう。
つる
2007/11/20 22:14

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