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zoom RSS 「理想の高校生」文化祭13/失われた1/2

<<   作成日時 : 2007/10/02 01:04   >>

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photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

失われた1/2
ひとりぼっちの夜の闇が やがて静かに明けていくよ
色褪せそうな自由な夢に 追いたてられてしまう時も

幻の中 答えはいつも 朝の風に空しく響き
つらい思いに 愛することの色さえ 忘れてしまいそうだけれど
あきらめてしまわないでね ひとりぼっち感じても
さあ心を開く鍵で自由描いておくれ

安らかな君の愛に 真実はやがて訪れる
信じてごらん笑顔から すべてがはじまるから





「規子(のりこ)っ!」

 佐藤さんは走っていた。着物の裾がはだけたってかまいやしない。親友の酒井さんが保健室に運ばれたと聞いたからだ。

「あぁっ!また吉田君たちの仕業ねっ!だらしがない!」

 正面玄関を通り過ぎる時に、置き去られた野球部のトンボを片付けようと肩に担いだ。彼女はだらしがないのが嫌い。担いだまま親友の安否を気づかい探し回った。

 2床しかない保健室のベッドに収容しきれない救急車の到着待ちのかしましい被災者たちは、体操部が運んでくれたマットの上に寝かされている。マットは保健室前の廊下から延々と第二理科準備室の方まで延びている。

 道中はかしましい被災者もしくはかしましい被災者の付き添いもしくは連絡を受けて駆けつけたかしましい被災者たちの家族、それらでたいへんなごったがえしようだ。

 跨(また)いだり踏み越えたりと行く手を阻(はば)む障害をものともせずトンボをお供に親友のもとへ急ぐ彼女の気分はフランス国旗を掲げた戦場を突き進む人々の希望の星ジャンヌ・ダルク、されど見た目は鎌を担いだ死神。

 酒井さんは第2理科準備室のガスバーナーが10本ほど乗っている実験台の下に寝かされていた。

「規子!」

「ゆみこっ!」

 ひしと抱き合うふたり。

「大丈夫?」

「うん。来てくれたのね。ありがとう。ううう」

「気分はどう?心細かったでしょう?遅くなってごめんね。」

「ううう。」

「まだ気持ち悪いの?タオル濡らしてこようか?」

「大丈夫、もう大丈夫だよ。あのね。」

「うん?どうした?なにかあった?」

 泣き止まない酒井さんに佐藤さんは、たたみかけるように問う。女子は泣きながらでも喋る。聞いてほしいのだ。聞かれなくとも喋る。

「あのね。ライヴでね。」

「うん。」

「ライヴに出るはずの尾崎君が怒っちゃってね。」

「うん。」

「ケンカなのよ。内輪もめってやつ。それでね。それで、村上君が新妻なら歌えるって言って」

 自分がひれ伏してまでお願いをしたことははしょるらしい。

「歌ったのね?新妻くんが。」

「うん。それで、それでね。うわ〜〜〜ん。」

 そこまで説明すると何か思い出して込み上げてくるものがあったのだろう。佐藤さんにむしゃぶりついて泣きじゃくるばかりの酒井さん。

「泣いてたんじゃわからない。ちゃんと話してごらん。」

「ううう。わたし、わたし、新妻君の歌が始まった途端になにがなんだかわからなくなってしまって」

「うんうん。それで気分が悪くなっちゃったのね。よくがんばったもんね。」

「違うの、違うのよ。」

「なにが違うの?」

「違うの。それでわたし新妻君が歌うっていうのに何も何も聞くことが・・うわああん!」

 再び抱きついてきた酒井さんを受け留める佐藤さんの襟元は涙と鼻水でベトベトだ。
佐藤さんは考えていた。

 酒井さんが新妻くんのことを好きなのはもちろん知っている。
 彼女が実行委員になってからというもの毎日メールや廊下の立ち話で彼の話を聞かされた。チケット係の新妻君と今日はこんな話をしたあんな話をした、ちょっと照れくさそうに笑った、Yシャツの腕をまくった、髪をかきあげた、そんな些細なことを報告する彼女と喜びを分かち合った。

 好きな人のことならなんでも知りたい。

 本当は午前中のサッカー部の応援に駆けつけたかったけれど実行委員の仕事で教室を離れることができなかった。それは佐藤さんも同じだ。

 酒井さんはどんなにか同じクラスの一員として一緒にライヴ会場をつくりあげたかったことだろう。そしてどんなにかそれを最後まで見届けたかったことだろう。
 彼女の無念さを思うと胸が痛んだ。

 そして自分はどうだ。来いとも言われない白雪姫をお忍びで見に行ったはいいが、目の前で倒れた彼を指を銜(くわ)えて見送るだけだった。せつなさでいったら彼女に負けていないではないか。

「うわあああん。」

 佐藤さんは酒井さんを抱き留めたまま酒井さんより大きな声で泣いた。

「うわあああああん。」

 酒井さんも負けじと泣いた。

「うわあああん。」

「うわあああああん。」

 輪唱だ。

「聞きたかったよお、聞きたかったよおっ!新妻君の歌、うわ〜ん、うわあ〜ん。」

「わかった、わかったよ。だってあたしだってあたしだって・・・うわーんわんわんわん。」



 騒がしいセミの季節もようよう終わったというのにまたなんと騒がしい娘たち。



 今あることが全て。その全てが自分は今世界で一番不幸な女の子だと思わせる。
酒井さんと自分の胸の痛さを抱きしめて佐藤さんの長い睫毛はしばし渇くことがなかった。



ついてない時には 何もかもから目をそらすけれど
僕は壊れそうな愛の姿を 君の心に確かめたいだけ

いつまでも見つからぬもの 捜すことも必要だけれど
ひとつひとつを暖めながら 解ってゆくことが大切さ
あきらめてしまわないでね ひとりぼっち感じても
誰もがみな愛求めて 世界はほら回るよ

安らかな君の愛に 真実はやがて訪れる
信じてごらん笑顔から すべてがはじまるから

あきらめてしまわないでね ひとりぼっち感じても
さあ心を開く鍵で自由描いておくれ

安らかな君の愛に 真実はやがて訪れる
信じてごらん笑顔から すべてがはじまるから

あきらめてしまわないで
 真実はやがて訪れる

信じてごらん笑顔から
 すべてがはじまるから
 (参考URL下記に同じ) 





 廊下では到着した救急隊員に酸素ボンベで吸入措置を受けている者もいる。
大惨事のあとのERみたいだ。
 殿中(保健の三上先生)も警察から事情を聞かれている。毒ガス疑惑浮上。<つづく>









失われた1/2 今日はBGMでお楽しみください

トンボ グラウンドを均(なら)す道具です

ジャンヌ・ダルク 君のひとみは10000ボルト

はしょる 省略する

ER 正式名はER緊急救命室



説明も野暮なんですが年齢を問わず読んでもらいたくて補足します。またお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名も付けます。



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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
つるさん、こんばんは。
病みつきになる面白さです。ジャンヌ・ダルクと鎌を担いだ死神、大ヒット。ほんと、ノックアウトされました。
>女子は泣きながらでも喋る。
 これも普段は見過ごしていますが、すごいテクですね。どうしてあの芸当が出来るのでしょう。泣くときだけ、えら呼吸してるのかしら。(パシッ!)いたっ! ご、ごめんなさい。
女子のかしましさは、セミと共に去りぬ、とはいかないようですねえ。
BGM、良かったです。39.サンキュウ。
だっくす史人
2007/10/02 21:57
だっくす史人さん
いつもほんとうにありがとう。女子はほんとによく泣きますね。泣くことでストレスを回避してるんだそうですよ。自衛本能です。なあに本題が片付かなくたって泣きゃさっぱりしたもんです。気が済むまで泣かしたってください。

ところで本日のお薦めは
>はしょる
だったんです。いつか本栖子さんが綾小路きみまろのことを言ってましたがそんなギャグに使われそうなオバサンのしたたかさを登場する女子に重ね合わせてほくそ笑んでいます。つまり自分にもある部分を笑ってるということです。自虐性強いです。

BGMについてはそんなの引っぱってこないで文章だけで勝負しろよと自分に叱咤激励です。
つる
2007/10/03 01:16

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