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zoom RSS 「理想の高校生」文化祭4/はじめてのデート

<<   作成日時 : 2007/09/09 09:25   >>

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photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

はじめてのデート
 直毅は“カエル図書館”に向かった。

 なして“カエル”?と思われるだろう。建物が緑だから。それだけだ。小学校の時から皆そう呼んでいる。

 今日の部活は監督の都合で中止になった。白雪姫の練習も思ったより早く終わった。こんな日は、今はまりまくりの司馬遼太郎の本が読みたくなる。
“燃えよ剣”から始まった読書熱のおかげで、直毅は江戸末期から明治にかけての近代史が好きになった。彼はもともと本が好きだ。

 返却する本を持ってカウンターへ行くと、佐藤さんとマトリョーシカみたいなクソガキたち五人、つごう六人の団体さんが司書のオバサンにペコペコとお辞儀をしていた。

(やべっ佐藤だ)別にやばくなんてない。

「だからね。こうして二ヶ月も経っちゃうとね、困るわけ。だってそうでしょう。自由研究の本なんてみんな借りたいわけ、夏休みだったしね。それを独り占めしたんだから、公共ってものの考え方がね、できてないって言ってるのよ。そもそも」オバサン特有のエンドレストークだ。

「すいません。返却お願いします」

 直毅が割って入った。

 少し驚いたように直樹を見た佐藤さん。きっと彼女はいつもこうして叱られ慣れているのだろう。

「こんにちは」

 先程のオバサンに注意を受けたことなど忘れたかのように“ケロッ”として話しかけてきた。ここは“カエル”図書館。

「おう」

「好きなんだ」

 そう言われて直毅はドキッとしたように無表情になった。
 彼女は彼の小脇に抱えられた本をそっと指差す。司馬遼太郎のことだった。

「あ〜」

 なんだ。勘違い。ようやく彼の口から出た言葉が、

「好きだよ」

 だった。

 今度は佐藤さんが赤くなった。

「ちがっ」

 主語の『オレは』と、目的語を修飾する『司馬遼太郎の』と、目的語の『本が』が、抜けていたと直毅が慌(あわ)てた。ほとんどじゃん。

「あ! ライフセーバーの人!」

 いつかのヒカルが言った。知りたい方は→ココ

「オレら、これから調節池に行くんだ〜。ねえ、いっしょに行こうよ」

 いつでもなんでもだいたいのことはどっちでもいい直毅。団体さんに難なく吸収されて、ツアーに合流した。




 黙って歩く二人の高校生の周(まわ)りを、クソガキという名の五つの人工衛星がその軌道上を光速で周回する。




 調節池と呼ばれるそこは、カエル図書館の脇を流れる川の少し上流にある昔の舟入場(ふないりば)跡地だ。昭和の始めまで、ここで舟から荷卸(におろ)しがされ、流通の拠点となった。
 それが今では川沿いの下部が調節池に、上部が市民の憩いの場所にとって変わった。
 それでも、まだ昔の面影を見ることができる。

 憩いの場の藤棚の横にある階段を降りていくとちょっとしたレンガ敷きの広場になっていて川の様子がよく見えた。

「わあっ! トンボだ!」

 夕暮れ時はもう秋の気配を呈している。

「あっ! あそこにも!」

『トンボだ』『ちょうちょだ』『あそこだここだ』と、クソガキたちはやたらにぎやかだ。苦笑する直毅。

 舟入場の跡地はその部分だけ川幅が広く取られ、上流からの流れを緩(ゆる)やかにするために川の中ほどに置石がいくつも点在する。中洲には小山ができた草地もある。

 皆で鉄柵に寄りかかって、向こう岸の昔荷卸し場であっただろう平べったい五角形の連(つら)なった敷き石を眺めていた。ペンタゴンみたいだ。

 サーッと音がして足元から少し離れた護岸から放水が始まった。駆け出して見に行くクソガキな子どもたちたち。思いっきり二人になってしまった。

 きまずい。

 きまずいけれどきまずくない話が浮かばない。
 直毅は落ち着かなかった。佐藤さんに左に立たれたからだ。彼は左利きだった。

「あっ! カメ!」

 そう言って佐藤さんが10時の方向の置石辺(あた)りを指差した。そちらを覗き込もうと半歩寄る直毅と、「カメ! カメ!」と指を差したままこちらに振り向く佐藤さんと。
 ばったりと向かい合った二人の距離はわずか3センチ。それ以上でもなくそれ以下でもなく。

(近っ! 近えよ、佐藤 )

 佐藤さんの髪からすごくいい匂いがした。

「すげっ!」

 『すげぇいい匂いがする』もしも彼が最後まできちんとそう言えてたら、彼女は嬉しかっただろうか。それともキモワルがっただろうか。

 ところが、佐藤さんには空耳(そらみみ)アワーが訪れる。招かざる客。

『すげぇ積極的な女だな 』

 パッと武蔵と小次郎のように飛びのく二人。

 距離を取ったことで二人はお互いに少し傷ついたけれど、そこは長男と長女だ。互いに意地でも手の内は見せられない。

「松本君のところは何をするの?」

 平常心を装うように、佐藤さんが言った。ペンタゴンを見ている。彼女は文化祭の話で切り抜けた。直毅より一枚上手(うわて)だ。
 
「え〜と、劇かな? 白雪姫みたいなやつ」

 直毅も在(あ)らぬほうを見ながら言った。

“みたい”じゃなくて“白雪姫”だろう。そして彼は主役だ。

 佐藤さんは又少し傷ついた。彼女は彼が白雪姫であることを知っていた。女子の情報はネット並みに速い。
 自分に知られたくないんだと、そう思ったんだろうね、きっと。彼女は悲しそうに睫毛を伏せた。

(じゃ行かねえし)

 二人はもう、視線を合わせることもない。その視線は平行したまま向こう岸へ向けられている。

「佐藤のとこは?」

 平行した視線はまるでふたりの気持ちのようだ。

「ん。お化け屋敷、かな?」

「ふ〜ん。何やんの?」

「ふ、ふつうのお化けだよ」

「へ〜」

 佐藤さんも佐藤さんだ。本当のことなんて言えるわけがなかった。

 自分が、



 “貞子”だなんて。



 すました顔の佐藤さんと、無表情の直毅。いつのまにか周りで盛り上がってるクソガキたち。



<つづく>


マトリョーシカ佐藤さんには五人の小学生の弟がいます。

空耳(そらみみ)アワー深夜のタモリの番組内で「聞き間違いコーナー」のことをこう言います。

貞子恐怖映画「リング」の…ブルブルッ…ロン毛の人です。今、思いだしただけでも背筋が凍りそうです。

ロン毛(ろんげ)長い髪。

ペンタゴン実際の調節池は六角形の敷石でした。ペンタゴンという単語を使いたくて嘘つきました。ごめんなさいです。

説明も野暮なんですが年齢を問わず読んでもらいたくて補足します。またお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名も付けます。



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コメント(11件)

内 容 ニックネーム/日時
うんうん、今日のは高校生らしく(?)ちょっと距離が近寄りましたね
でも二人の微妙な心理描写・・うまいですね、さすがです(^^
つる先生ご自信の体験だからですか?
それとも溢れる知性?(なんて追求する事もないんですが・・)


司馬遼太郎さんのファンって方は私のブログへコメント書いてくださる方にもいますよ・・まさかつるさんがその方ってことはないですよね・・?
(なんだか疑い癖が付いて@_@)
mimi
2007/09/09 15:21
↑途中で書き換えてまた2個になりました・・上のほうを削除してくださいね(笑)
mimi
2007/09/09 15:23
mimiさん
さっそく見てくださってありがとう。
↑はすべて妄想です。さらさらっと無理なく書けました。
逆にいちばん書きたいところは力が入りすぎて油汗がでます。
そういう時はえてして読みにくいです。

司馬遼太郎ファンはわたしではありません。
彼のファンて男性のほうが多くないですか?
つる
2007/09/09 20:21
心理描写がなかなかお上手ですねぇ。
クソガキはそのまま銀河に消えていきましたかそうですか・・。
小屋
2007/09/10 01:01
つるさん、こんばんわ。つるさんの文章は時折、作者の年齢を忘れさせますねえ。私より少しお姉さんの筈ですが、実に歓声が、いや、感性が豊かで若々しい。うらやましいです。やはり文章の力なんでしょうね。感心ばかりしています。今回もまた技にビックリしました。
 「じゃ行かねえし。」棒線引き。これすごいなあ。自分が何にも知らないでブログを創ってるんだなあ、と思い知りました。まだ、まだ、ヒヨッコですねえ、恥ずかしい限りです。
 また、勉強にきます。宿題を貰わないように、ずーと後ろの席に座っています。誰か,代返しといてね。
だっくす史人
2007/09/10 01:03
つるさん!はじめまして。突然ですが,隠れ愛読者です。ちょっとショックなことがありましたのでコメさせていただきました。あまりダイレクトには言えませんが・・・パクリに気を付けて下さい!!!おばさんの井戸端ブログには絶対にならないで・・・。
桔梗
2007/09/10 18:14
小屋たん
それイタイ!イタすぎ!
都合よくクソガキ消えてマスタ。

若いひとのこういうつっこみ大好き。
また見てください。
つる
2007/09/10 23:50
だっくす史人さん
箇条書きでお答えします。

その1 お姉さんじゃなくてオバサンなんですが一番好きな言われようは「おばちゃん」なんです。「おばちゃん」の「ちゃん」(←ココ重要)がたまらないです。こどもの友人がコレを連発するとおやつがエスカレートします。
その2 棒引きは↑の小屋さんのように若い人のブログから仕入れました。いけませんねえ。パクリです。
その3 もう宿題はだしませんのでずずっと前のほうの席にいらしてください。 
その4 「歓声」と「感性」負けました。
こんなシャレたコメいただくと気軽にコメ付けられないです。

また来てください。
つる
2007/09/11 00:02
桔梗さん
はじめまして。桔梗って季節を感じるいいHNですね。
「パクリ」とありましたが“読書感想文 パクリ”からいらしたのですか?そこからのアクセス多いです。
>井戸端
はい。口調に気をつけますね。

どうもありがとう。また、いらしてください。
つる
2007/09/11 00:08
「パッと武蔵と小次郎のように飛びのく二人。」てところが秀逸ですね。
会話も自然だな〜と感心しました。つるさん素晴らしい!

貞子って、てっきり仲間由紀絵のデビュー作かと思ってました。今、検索して氷解。芸能ネタ完璧無知です。
銀河系一朗
2007/11/08 19:08
銀河系一朗さん
来てくださってありがとう。へたくそな文章でさぞ読みにくいでしょう。
会話はね。リアル中高生って実際そんなに話さないですよ。(え?ウチだけ?)一度にだいたい20文字くらいでしょうかね。自分の気持ちなんて「しゃべり場」みたいに話さないですよ。見てると、そんな薄い会話でも、その中に何か嗅ぎわけているようなところあるんです。そうなるとほとんどテレパシーな友人関係ですね。そのうち伝えられるようなスキルも身につくんでしょうが、まだまだ経験が不足してます。そんなわけで、会話はすごく短くしてます。だけど来てくださる皆さんが行間を読んでくださるので助かってます。
でも、そんな中高生でも、起きた出来事なんかはヒトゴトですから、良く喋るんです。そんなもんです。

頭の軽い家族なんで芸能・スポーツ・バラエティそんなTVからネタを仕入れます。そうか。苦手な方にもう少し親切な説明を心がけようと思いました。
つる
2007/11/08 22:47

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