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zoom RSS 「理想の高校生」文化祭3/いじめ

<<   作成日時 : 2007/09/07 17:47   >>

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photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

いじめ
  二年二組の出しものはライヴ・ハウスに決まった。ニイケンのクラスだ。

 このクラスには有名人がいる。と言っても、ナンジャラホイ高校限定だ。 彼を知らなければそいつは、この高校のモグリと言っていいだろう。

 彼の名は尾崎豊作。彼はケシテ本名を名乗らない。
 そして“OZAKI.com(オザキドットコム)”という、尾崎豊ONRYのコピーバンドのボーカルなのだが、歌はともかく彼の容姿は群を抜いている。
 例えるなら、尾崎豊とガクトを足して2で割らないで、更にバージョンアップさせて、ようやくそこで2で割った感じだろうか。いるかよ。

 学校ではすきあらば女子が彼にプレゼントを渡し、街ではタレント事務所のスカウトかホストの勧誘が彼に名刺を渡した。

『天は二物を与えず』とはよく言ったものだ。
 彼も決して例外ではない。良いのは顔のみ。外見とは裏腹に歌はヘビー級音痴だし、ついでにガニマタだった。
 しかしそのハンパないビジュアルによって、豊作ファンは彼が“とんでも音痴”だとは誰も気がついていなかった。マジで

 このバンドを軸に、二年二組の教室をライヴ・ハウスとして提供するということで出演者を募集すると、他からラップやチアダンスのグループ、軽音楽部の申込みがあった。

 出しものが決まって二組の文化祭実行委員である酒井規子(のりこ)さんはホッとしていた。
 彼女はノリピーに似ている。線は細いがしっかりものだ。
 彼女から、そのとびっきりの笑顔をもってして『お願い』と言われたら、まず“普通の男子”はそれを断れないだろう。




「先生。だいたい決まりました」

 参加用紙を職員室に届けると担任の山本先生は愛妻弁当を広げるところだった。

「はい。ごくろうさん。じゃ参加用紙は実行委員会に出しておくよ」

 山本先生は世界史担当でその授業は丁寧で優しい。その優しさがそこはかとなく頼りなくそしてその頼りなさが逆に生徒のやる気を伸ばし、ついでに四十過ぎまで自身の結婚を伸ばした。
 不思議な先生だ。つい先頃、結婚した。

「それと暗幕の件なんですが、やっぱり音楽室から借りるだけじゃ足りないと思うんです」 

 どこよりも早く暗幕を入手したい酒井さんであった。
 彼女は几帳面。物事をきちんと計画的に進めるのが得意である。

「う〜ん、そうは言ってもなあ、どこのクラスも借りたい時だろう。特に八組なんて“お化け屋敷”なんだから、できたらなるべくやりくりして、あっちに回してやれないだろうか」

「はあ」

 いまひとつ不満が残る酒井さんだったが、八組には親友の佐藤ゆみこさんがいる。佐藤さんが困るならばと暗幕を二枚だけ借りることで了承した。




 二イケンは村上君とチケット係になった。
 酒井さんの指示で入場券を色模造紙で作る作業中だ。

「へえ。合コンしたんだ。夏休みに」と村上君。

「逃げられたけどな。はははは」ニイケン。知りたい方は→ココ

「あははは。でもスゲぇ」

「そうか?かっこ悪くね?」

 たわいもない会話だが、ニイケンがこうして村上君と顔を突き合わせて話すのは久しぶりのことだった。
 彼とは一年の時も同じクラスだが、ニイケンにとって初めてナンジャラホイ高校でできた友だちだった。そして彼はニイケンに尾崎豊を教えてくれた音楽の師匠でもある。
 お互い部活が忙しくなって当初の頃の付合いはできないけれど、気の合う友人に変わりはない。特に音楽のことになると話は尽きなかった。


 村上君はいじめられっ子だった。

 いや、いじめられたという意味ではニイケンも一緒だ。彼は帰国子女だった。


 始業式から間もないクラスの窓からはグラウンドのフェンスに沿った幾本もの桜の樹が見える。もうほとんどが葉桜だ。
 期待に胸を膨らませて転入したものの、入学5日目にして早くも、二イケンはナンジャラホイ高校に、というより日本の高校に失望感を覚えていた。

 イギリスと違い、授業中での積極的な彼の発言にクラスの空気がドン引くこと、友人間では自分の意思はさておき終始あいまいな受け答えに徹したほうが良さそうなこと、うっかりでた高知弁を口マネされた事などだ。
 高知弁はいっさい口にするものかと心に誓ってはみたが、父親の口利(き)きで入居した賄(まかな)い付きの下宿では、頼みの綱の標準語教師はひとりで見る16インチのTVだけだった。
 『高校生ウルトラクイズ選手権に出たい』意地だけが彼を支える。

 4時限めの数学の授業中のことだ。もちろんあの石戸谷先生。まただよ。このクラスと石戸谷先生の相性は悪い。
 はじめは桜の花びらが舞い込んできたのかと思った。

 違う。

 飛んできたのは消しゴムの小片だった。パラパラとヒョウの降るような音は、ブレザーに当たるその小片の音だった。
 それらは斜め横に座る村上君の背中をめがけて投げつけられている。それも石戸谷先生が黒板に板書きしている時を狙ってだ。

 三度めに目にした時、二イケンは投げられた方へ振り向くと、力強い声でしかも静かに言った。

「やめろ!」

 石戸谷先生の板書きの手が止まった。だって止(や)めろと言われたから。

 コツン!今度は前を向いたニイケンの後頭部めがけて消しゴムの本体が飛んできた。

 ゆっくりと両手を机について立ち上がった二イケンは黒板に背を向けた。
 後方を睨みつけるように見据えると二三人がニヤついている。その中に高知弁を口マネした奴もいる。

 彼らは村上君と同じ中学校出身だった。
 きっかけは当時、村上君の気が弱いのをいいことに、アトピーでカサカサとむける肌を見て『フケだ、フケだ』と言い始めたことだった。
 彼らが『キモイキモイ』と口にすると事情のよくわからない女子までもなんとなく彼を避けた。
 だんだんエスカレートして、そのうち彼らは階段の踊り場で、廊下で、まるでふざけっこのプロレスのようにネチネチといじめ続けた。
 でも村上君は決して金銭を渡してそれを回避するようなことはなかった。彼の最後の意地だった。

 同じ高校に進学して八クラスもあるのにまた彼らと同じクラス。神様はなんて意地悪なんだろう。

 でもこのクラスにはニイケンもいた。
 イギリスでは赤毛やそばかすの子がいじめの対象になる。髪の色のことではニイケンもいじめられた。
 でもミャンマーの一つ年上の子がかばってくれた。いつか自分もそんな人間になりたいとずっと思っていた。それがきっと今だ。

「帰れ!バカ野郎!」

 それだけだった。低くてよく通る声だ。
 五月人形のようなりりしい眉に傷のある二イケンは町のヤンチャに目をつけられることもあったが、それ以上にこういう時には抜群に睨(にら)みが効(き)く。

 弁慶のように仁王立ちしたまま動かない。その風体(ふうてい)は“動かざること山の如(ごと)し”風林火山かい!
 そいつらを睨み据(す)えて微動だにしなかった。全身で彼の強い抗議の意思を示していた。

 石戸谷先生はポインターを脇に帰り仕度を始めると、とっとと教室から出て行った。だって『帰れ』と言われたから。

 先生がいなくなると教室はザワザワしだし、緩んだ空気に立ったり、出て行ったりする生徒もいて、ニイケンが睨み据えた生徒も向こうから視線を外した。
 ニイケンが向き直る時、村上君と目が合った。そこからの付き合いだ。


 直毅はびっくりした。入学間もないこの学校のこのクラスにあの尊敬してやまない坂本竜馬が姿形を変えて現れたのかと思った。

 佐藤さんも驚いた。ニイケンの見せた勇姿と気迫はまるで<弁慶>、主君の源義経を守り無数の矢を受けて立ったまま大往生したという逸話(いつわ)を彼女に彷彿(ほうふつ)とさせた。

 じゅんぺいもたまげた。立ちあがった月の輪熊みたいな奴だなと思った。

 そして、酒井さんはニイケンがいっぺんで好きになった。





 それから嘘のように二人にちょっかいを出す者はいなくなった。

 部活が忙しくなる前は互いの家に行き来してよく音楽を聴いた。村上家には彼のお父さんの趣味で、その広い居間の一角にドラムセットといろんなギター、キーボード、アンプが置いてある。

 一人暮らしのニイケンを村上家の人々は歓迎してくれた。
 音楽好きのその家族は、帰国子女で日本の音楽シーンに疎(うと)いニイケンに、新旧交(まじ)えていろいろな曲を聴かせてくれた。
 なかでもニイケンがはまったのは、村上君のお父さんたち世代のカリスマ“尾崎豊”の曲だった。
 ニイケンはもちろん村上君も尾崎の曲はすべてソラで歌える。71曲全てだ。

 ニイケンが歌う時はいつも村上君がドラムでリズムをとってくれた。彼のリズム感の良さはお父さん譲りだ。

 それから二イケンはサッカー部が忙しく、また村上君は軽音楽部で水を得た魚のように生き生きと忙しく、互いに行き来することも稀(まれ)になった。

 最近の村上君は、少し腕前を上げたようで、お父さんの友人の経営するジャズ・クラブでスティックを握ることもあるそうだ。

 彼のバッグの目印は無造作に突っ込まれた愛用のZildjian(ジルジャン)。




 職員室から戻った酒井さんが色模造紙を切りはじめた二人に声をかけた。

「入場券といっしょに渡す飴を買って来て欲しいんだ」

「なんで?」と村上君。

「入場料を取らない替わりに飴の代金を寄付という形で募(つの)るつもりなの」

 酒井さんは売り上げの一部を、まだまだ教育が行き渡らない国々の子どもたちを支援するNPO団体に寄付するつもりだった。

「へえ」とニイケン。

「いくつくらいいるのさ」村上君。

「200個くらいで足りると思うんだ。お願い」微笑む酒井さん。

「わかった」と二人。

 だって、二人とも“普通の男子”

 ニイケンの下宿の一階は大家さんが駄菓子屋をやっている。

(たぶん安く仕入れられるだろう)

 そんな訳でニイケンが引き受けた。


<つづく>







モグリ古い言い回しです。

尾崎豊もう何も言いますまい。

ガクト エステのCMもそうですがNHKの「風林火山」の上杉謙信役も美しいです。上杉謙信“女性説”もありますね。現存する鎧兜(よろいかぶと)から身長は156センチくらいだったと推測されています。生涯独身でしたしね。あっ脱線しました。

ラップ”を踏むという意味では漢文と同じじゃん。

ノリピー『ひとつ屋根の下』の小雪は彼女のはまり役でした。

賄(まかな)い付きの主婦になりたい。

彷彿(ほうふつ)髣髴(ほうふつ)も同じ意。

Zildjian(ジルジャン)スティックと言えばここでしょ、なんちゃって。店員さんの受け売りです。

ソラそらんずる”から転じて、ここでは“歌詞を見ないで”と言う意味。



説明も野暮なんですが年齢を問わず読んでもらいたくて補足します。
お目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名もつけます。



ちょこっと手直ししました。2007/09/07 22:15

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コメント(9件)

内 容 ニックネーム/日時
内容が一度に若返ってますね(○○才以上を抜けただけあって)
いい傾向で〜す・・

ニイケンの気持ちってどこと無くわかる私です(なんて)
昔の(ごめんなさい・・他の読者に誤解を・・)私たちの高校の頃なんて
発言しないのが美徳みたいな風潮あったんですよ
あの当時の四国の片田舎でしたので(^-^)トホホ
いじめって・・そんな些細な事から出発したりするんですよね・・・
mimi
2007/09/08 14:14
ご無沙汰をしておりまして申し訳ないことです。
今回は、まず内容と別のところで感動してしまいました。
知りたい方は→ココ。この部分を見て、こういう技をまったく身につけていない私は舌を巻いてしまいました。巻いたまま戻りません。
 こういう方に近くにいて欲しいと心から思いました。
 尾崎豊とガクトのバージョンアップはスゴイ。今度、なんかマネしようかなあ。実は、バージョンアップして2で割ったあとに0をかけると私にそっくりなのです。はい。ノッペラボウカヨ。うん、この辺のツッコミの妙も少しずつ学ばねばなりません。いつか、つるさんに恩返しします。たぶん、誰かが使ったフレーズだとは思いますが。
 では、また。(ちょっと的外れのコメントでした)
だっくす史人
2007/09/08 16:30
mimiさん
そうだったのですか。
あからさまないじめの現場に遭遇したことがないので、自身のいやな思いとか、あとは想像で書いています。
いま現在の教室のリアリティがわからないですよね。現役の子が見たら「なんだコレ」にならないよう気ィつかいます。
昔と違ってクーラーの利いた教室ってどんなだろ。

本日「読書感想文」2つUPします。
mimiさんのお名前がはいっていることをここで、おことわりしておきます。
つる
2007/09/08 20:48
だっくす史人さん
来てくださってありがとう。コメントすごく嬉しいです。
小説のジャンルの方からいろいろアドバイスや刺激をもらってウマクなりたいです。

だいたいわたしの書くものは個人名詞使いまくりで、こうしてささやかにマイブログで遊ぶしか能がありません。
だっくす史人さんのようにどこでも通用するようなスパイスのきいたものを目指してやっていくだけです。

そうそう、
>知りたい方は→ココ
というのは、アクセスを増やす為の苦肉の策です。ははは
>つるの恩返し
それ言っちゃダメ。もお、いつかどこかで使おうと思ってたのに、だからショートショートの方は油断できない。
つる
2007/09/08 21:00
いじめかぁ。彼のようにビシッと一言。相手も内心ビクッと。それでパリッと消えたらどんなり楽だろうか。
もちろん、そうなるケースも現実にありうるでしょうが。
いやはや奥が深い。
小屋
2007/09/09 00:57
小屋たん
来てくれてありがとう。
>それでパリッと消えたらどんなり楽だろうか。
うん、たぶん消えないと思う。
ここは石戸谷先生がからんでいてニイケンにこれ以上セリフを喋らせる訳にいかなかったんです。でも、そんな簡単に事が運ぶと小説とはいえ、リアリティがなさ過ぎて読む気が失せるんですね。
マジこの記事UPまで苦しみました。
現在進行形で学生生活を送る小屋たんのコメとても参考になります。

そうそうこの文化祭シリーズの全体のプロットを組み立ててみました。
小屋たんの登場は「文化祭7/白雪姫」です。まだ先だね。

つる
2007/09/09 02:15
<訂正>
やっちまいました。変換には気をつけていたのに。クソッ!
だっくす史人さんへのコメ返しの文中で
「個人名詞」とあるところを
「固有名詞」もしくは「個人名称」と読み替えてください。失礼しました。え?どうでもいい?
つる
2007/09/09 02:48
村上君へのいじめを一喝したニイケン君カッコイイ
ですね。いじめとして序の口ぐらいでビシッと言う
やつがいないとなくなりませんね。

小沢一郎さんも、風林火山のガクトを見て、出奔の
マネしてみたぐらいのことを言うと受けるのに。
あれで上杉家は一枚岩になったと言われてますから
銀河系一朗
URL
2007/11/06 22:35
銀河系一朗さん
わぁ。歴史もよくご存知で。わたしのは付け焼刃です。出奔かぁ。・・・あっ!ご・ごめんなさい。また何か考えてました。すぐ現実からワープして妄想モードにはいります。
いじめについても嘘についても早い対応が肝心なんです。小学校のベテランの教師も言ってました。小さな事件のうちにそれは絶対に許されないことなんだと刷り込まないとダメだということを。
嘘は見逃すとエスカレートします。その場しのぎの小さな嘘が通用すると海馬に記憶するんです。子どもって奴は味しめます。そのうち自分がしたことも「やってない」なんて平気な顔して言うようになるんです。飛躍するけど、それがエスカレートして、人を殺しても否定するようだったら最悪です。ちらりと書いたこのいじめについてのお話はいじめがなくなってほしいと願いもありますが、大なり小なり、なくなることはないでしょう。負けないでと言う気持ちだけで書いてます。こんなところからヒント貰いました。
→http://www.youtube.com/watch?v=oPSwIiZ_h6c

つる
2007/11/07 00:08

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