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zoom RSS 「理想の高校生」文化祭12/OH MY LITTLE GIRL

<<   作成日時 : 2007/09/29 01:41   >>

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画像







photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

OH MY LITTLE GIRL
 ニイケンのライヴに並んでいたじゅんぺいの携帯にメールが届いた。

《いますぐ屋上に来てください》 

 しおりちゃんからだ。女子は呼び出しが好きだ。なんでまたこんな時にとも思ったけれど屋上に向かうじゅんぺい。恋は人を従順にさせる。


こんなにも騒がしい街並みにたたずむ君は
とても小さくとっても寒がりで泣き虫な女の子さ
街角のLove Song口ずさんでちょっぴりぼくに微笑みながら
凍えたからだそっとすりよせて君は口づけせがむんだ
Oh My Little Girl暖めてあげよう
Oh My Little Girlこんなにも愛してる
Oh My Little Girl
二人黄昏に片寄せ歩きながら
いつまでもいつまでも離れないでいるよ



「なに?」

 手すりにもたれかかってこちらを向いているしおりちゃんはすでに臨戦態勢。じゅんぺいは無防備すぎる。

「なに?『なに?』ってなに?」

 質問に質問返しだ。

「なにってそっちが来いって言ったんだろ。」

「へえ。」

『へえ』は、ねえだろと思いながらさすがのじゅんぺいもようやくこれはヤバいことになりそうな予感に襲われる。

「で、なに。」

「なに?じゃなくて話があるのはそっちでしょうがって言ってるの。」

「は?」

「胸に手をあててみたら?」

 ああ、さっきの試合の時のことかと、ただのやきもちかと早合点したじゅんぺいは、

「なにもねえ。」

「さあどうかな。」

(うわ、違う。)

「もういいだろ。」

「あたし、知ってるんだからね!」

(な・夏休みの合コンか?)

 あれは事故だ。ナンパしたわけじゃない。向こうから勝手に言ってきて勝手に帰ったそれだけだ。話に乗ったのは悪かったけれどそれだってみんなに良かれと思ったことだった。だけど男子は口がうまくない。怒れる女子をうまく説得した男子など見たことがない。

「ごめん。ごめんな。」

「知らない!」

 わああっと堰(せき)をきったようにじゅんぺいにしがみついて泣き出す彼女。
 じゅんぺいのYシャツの上からしおりちゃんの涙が滲(し)みてくる。

 彼は黙っていた。そしてよく知っている。経験上なんでもいいから謝ってしまえばいいのだということを。そして何も言わなくていいのだということを。

 伊藤家の女性陣は強い。母しかり姉の幸恵しかり。一旦火が点(つ)いたら自然鎮火するまで放っておくしかない。へたに何か言おうものなら猛(たけ)り狂った暴れ馬みたいになって飛び火でご近所まで類焼を免れない勢いだ。
 でもそんな時じゅんぺいのおとうさんもじゅんぺいもひどく拗(こじ)れる前に鎮火させる奥の手を知っている。

 なんでもいいから謝ってしまうのだ。言い訳はしない。 それはどちらが悪いにしてもだ。それでいいと思ってる。
 女性陣も翌朝になれば自分の非も充分認める冷静さを取り戻す。ちゃんとわかっているのだ。先に謝らせたという僅かな優越感、自分ももちろんいけなかったのかもしれないが相手の方がもう少しだけ悪かったと思わせることができた勝利感、それらが優位に立った者の余裕とでもいうのだろうか、あくる日の夕食には一品おかずなども増えて何事もなかったようないつもの食卓風景となる。
 そんなふうにやってきた。それでいいと思ってる。男が家庭で女より優位に立ってもいいことなんて一つもありゃしない。もっと他にすることがある。

 一番いけないのが知らん顔してお座なりにすることだということを嫌というほど彼女たちから学んだ。ほとぼりが覚めるのを待っていても種火は燻(くすぶ)っている。余計ややこしいことになる。放っておいたり寝かせておいていいのはワインと“くさや”だけだ。そんなこたァねえだろ

『まだ怒ってるの』と『もう泣くなよ』これは禁句だということも学んだ。相手がつけあがる。恋愛講座かよ
 彼らは学習能力に長(た)けていた。


 とにかくじゅんぺいはそこらへんのことを齢(よわい)十七にして身に付けてしまった。ここまでくるのに、ある時は飯抜きだったり、布団叩きで追いかけられたり、時にはお小遣いなしだったり、裸足で雨の中おっぽり出されたりと、さんざん体を張った。そうしてようやく自分のものにした。それはリフティングと同じ彼の財産だ。だけど女子から見ればなんて罪な奴なんだろう。 これにうっかり騙(だま)される。

 ひとしきり泣いたあとじゅんぺいを恨めしそうに見上げる彼女。

「ほんと、ごめん。」

 じゅんぺいは優しい。往々にして姉弟・兄妹の男子はそうだと言えるだろう。
 心から申し訳なさそうな彼を見てしおりちゃんはもう何も言えなくなってしまった。
 アホチャウカ高校サッカー部の女子マネと中学時代にじゅんぺいが付き合っていて交換日記までしていたこと、今日他の女子マネから聞いたばかりだ。
 だがもしこのことを彼に言ったとしても彼は何と答えたのだろう。
 じゅんぺいは中学の3年間その子に夢中だった。その子の為なら死ねると本気で思っていた。でも結局その子は先輩を選んだ。それだけだ。いまさら蒸し返されたとしても胸が痛くなるだけだっただろう。

 しおりちゃんはきゅうっと口を結んでくるりとスカートをひるがえすと校庭の方を見たきり、もう何も言うまいと思った。言ってどうなるものでもない。自分の与(あずか)り知らないところであった出来事だ。いまさらそれがなんだっていうんだろう。
 彼女は本当にじゅんぺいのことが好きだった。そして心根のいい子だ。後にも先にも彼女ほど彼にふさわしい子はいない。

「いいよ、もう。」

 つっけんどんにそう言う彼女の横顔はなんてきれいなんだろう。少し大人びて見える。少しの我慢、人を許すということ、恋の背伸びはその人を成長させる。
 臨界点を超えることなく収束した出来事にじゅぺいは安堵し、

(ほんっとこいつかわいいなあ。)

 と、呑気(のんき)にその横顔を見ている。


Oh My Little Girl暖めてあげよう
Oh My Little Girlこんなにも愛してる
Oh My Little Girl
二人黄昏に片寄せ歩きながら
いつまでもいつまでも離れないと誓うんだ
 (参考URL


 足元の中庭では搬送の救急車がピーポーを鳴らし正面玄関を出るところだ。<つづく>






OH MY LITTLE GIRLお時間ありましたらご覧ください 

臨戦(りんせん)戦争にのぞむこと。戦争状態にはいること。

堰(せき)水の流れをふさぎとめる所。

類焼よそから出た火事が燃え移って焼けること。もらい火。類火。

臨界さかい。境界。特に物質がある状態から別の状態に変化するさかいめ。(以上小学館新鮮新選国語辞典)

くさやおかずというより酒の肴?






説明も野暮なんですが年齢を問わず読んでもらいたくて補足します。またお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名も付けます。


↓しおりちゃんの涙に
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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
じゅんぺいは若いのに偉いなあ。私は見習わないといけません。私のような馬鹿ものは理屈で押し通そうとしてしまうのです。いつも失敗。この技も戴こう。
いまは携帯で女の子に呼び出されるのですか。羨ましいなあ。たくさんの女子から呼び出されたいです。ドッペルゲンガー方式や分身の術を使ってどこへでも参上いたします。呼んでください。reつるさんへ。
だっくす史人
2007/09/29 11:28
おお!ここにもだっくす史人さんが!
コメなしで気をつかわせてしまいました。ありがとうございます。
なしならなしでつまらない記事なんだと発奮するのでお気遣いなさらないでくださいね。『めざせ!思わずコメを入れずにはいられない記事!』ですんで。

この記事はね、書きすぎました。
本当は趣向を変えて全部セリフでいきたかったんです。でもね、やっぱり行間を読みきれるかという点でこうなっちゃいました。たぶん、つるおばチャンの希望も入っちゃってます。だめです、だめです。ほんとなっちゃいません。あと2回で連載も終わりなのでアップを急ぎすぎました。
まあ愚痴は置いといて、
ドッペルゲンガーでなんかショートショートできそうな気がするのはわたしだけ?しゅ・宿題ぢゃないですよ!小説にも使えそうだなあと思っただけです。単発で佐藤さんになんか妄想させてもいいなあ。
みなさんのコメントが励ましやヒントになりありがたく思っています。感謝です。
つる
2007/09/29 19:46
いいなぁ。僕も呼び出されたい!(笑)
キュンキュンきますよね。
一緒に自転車で二人乗りしたりして
登下校したかったなぁ(遠い目でw)

井上夢人氏の「もつれっぱなし」
という本がありまして、
それが全編会話文のみなんですよ。
会話文のみで物語を成立させる
テクニックにシビれました。

ドッベルゲンガー・・・
お題が出ましたねぇ。
まったく思いつきませんが・・・(汗)
レイバック
2007/09/29 23:13
レイバックさん
わたし昨日からコメ返しに悩んでいました。へんな話記事一本アップするほど考え込みましたよ。だって、だっくすさんもレイバックさんも女子から呼び出されたい様子なんですもん。うそでしょ?
相手に振り回されるんですよ?いいんですか?マジで?それ嬉しいですか?
相手を振り回している人を見るとどれだけ相手が思うとおりになるかそれを見てほくそ笑んでいる気がします。それでもいいの?そっか、いいんだ。
う〜ん。わたしは女です。なにしろ男子の生態系を赤裸々に綴ることはできても心の内まではなかなか描写できないのです。子どももそこまでは話さないですからわからないんですよ。ですから最近は描写だけに徹して読み手に想像してもらう方向でいこうかなと思っていたんです。
こういう話を聞くとものすごく参考になります。このあとの展開がまた変わってきそうだなあ。

井上夢人読んでみます。ありがとう。
つる
2007/09/30 12:40
うーん。なるほど(笑)
小中高。ワタクシもたまーには
呼び出される事がありまして、
(※お前生意気やのぉ:ではありません)
放課後の教室であったり、校舎の裏であったり、
はたまた学校の最寄の駅であったり。
その当時は、「おいおい早く帰りてーのに」
なんて思っていたかもしれませんが、
今となるとなかなか出来ない経験な訳で。
結構いい思い出になってるんですよね。
「あの頃が懐かしい」→「呼び出されたい!」
という発言に繋がったのだと思われます。
実際に今、気のない子に呼び出されたら――
「やだ」って言うかもしれません(笑)
レイバック
URL
2007/10/01 20:22
ですよね!いざ現実となるとまたちょっと変わりますよね?
子どもを見ているとまんざらでもないようなめんどくさいようなでもここはひとつ行っとく?みたいなかんじですかね。行くことに迷いはないらしいんでそのへんは男子共通項みたいですね。
うんうん。なんかわかってきましたよ。
井戸端会議に付き合わせたみたいでごめんなさいね。おかげでものすごくイメージ湧いてきました。本当にいつもありがとう。

井上夢人読みましたよ。ミステリー作家なんですね。骨太なものを書きますね。だらだらと会話が続いているようで決して軸がぶれていません。
「もつれっぱなし」の他に流し読みしたもので面白いのがありましたよ。主人公に大怪我を負ったと思いこませた監禁ものなのかと思ったら・・おっとネタバレになりそうなのでやめますが読み手の思考を二転三転させながら本筋にぐいぐいもっていく技には脱帽です。
つる
2007/10/02 02:41
「あくむ」かな??
あれも面白いですよねー。
あの人はホント上手い!
岡嶋二人時代の作品も
今後読んでいく予定です^^
レイバック
URL
2007/10/05 20:01
すごい!レイバックさん!
そのとおりです。
「あくむ」の中の「ブラックライト」です。読んでいて気が抜けませんでした。まんまとコチラが騙されちゃいますからね。油断もすきもありゃしない。
だけどこの人の文体ってなんか力強くないですか。強引に読み手を自分ワールドに引き込んでいきますよね。

>岡嶋二人時代の作品も今後読んでいく予定です^^

また面白いのあったら教えてください。すこしジャンルを広げたい。どうしても視野が狭くなるんです。
つる
2007/10/06 14:31

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