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zoom RSS 「理想の高校生」文化祭11/僕が僕であるために

<<   作成日時 : 2007/09/27 22:30   >>

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photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

僕が僕であるために
「最後の曲です。『僕が僕であるために』」

 ニイケンがそう言い終わらないうちに会場から『いやあん』とも『うおおお』ともとれる歓声が湧き上がった。皆の熱気で教室の空気は蜃気楼のように揺れている。

心すれ違う悲しい生き様に
ため息もらしていた
だけどこの目に映るこの街で僕はずっと
生きてゆかなければ
人を傷つけることに目を伏せるけど
優しさを口にすれば人はみな傷ついていく
僕が僕であるために勝ち続けなきゃならない
正しいものは何なのかそれがこの胸に解るまで
僕は街にのまれて少し心許しながら
この冷たい街の風に歌い続けてる



 ぶっきらぼうに吐きだされるそれは尾崎の甘い声とは正反対だ。.
 でも彼のよく伸びる中音と低音がこの曲に潤いを与えていた。得意の音域で口にする歌詞は確実に聞き手に尾崎豊のメッセージを届ける。

 今でこそ声変わりしてしまったが彼は高いボーイソプラノの持ち主だった。それはどこまでも伸びてゆく若木を思わせた。
 イギリスにいた時に合唱の好きなお母さんに連れられて年子の兄弟3人で少年合唱団に入っていた。
 兄弟の中ではニイケンが一番歌が上手かった。
 だが少し大きくなるとサッカーだのそれ以外のことに関心が移ってしまいひどくおかあさんをがっかりさせたものだ。

 皮肉なもので音楽の道に進んだのは兄と弟だった。向こうでは兄が大学で声楽を専攻し、弟はインディーズバンドでボーカルとして活躍している。

 人によって価値観が違う。二イケンは歌が彼の取り柄だとしても彼はそれに固執する気はさらさらない。

 ニイケンを見つめる山本先生は泣いていた。
彼の歌が胸にせまるせいもあったけれどそれだけはなかった。

 先生は彼らと同じ年頃に、親とソリが合わなくて、それはもう何をどうしようとも合わなくて幾度かの衝突を重ねたあと家を飛び出した。結局通っていた進学校を中退し、それからは友人のところを手当たり次第に泊まり歩いてバイトで糊口(ここう)を凌(しの)いだ。

 互いに歩み寄れぬまま大検を取り小さな町工場に就職して大学の2部に通った。そこで楽しいこともあったけれど夜間の授業を受けるため定時で帰社する彼を快く応援する者ばかりではないのは世の中の常だろう。

 そんな時尾崎豊の歌が先生を勇気づけた。先生の青春は彼の歌と一緒にあった。
彼が立ち止まる時は先生も道標を失って挫(くじ)けそうになる時だったし、彼が歩き始める時は先生もその弱い心に鞭(むち)打って前を向こうとした時だった。

 そうして人よりうんと遠回りしながら教師の免状を手に入れた。その免状を手にした時に決してお仕着せではない子どもたちの自主性を重んじれる教師になろうと誓ったのだ。
日々の暮らしに追われて頭の隅っこにしまいこんでいた先生の遠い記憶をニイケンの歌が引っぱりだした。

 先生は滂沱(ぼうだ)する涙を隠そうともしなかった。

君が君であるために勝ち続けなきゃならない
正しいものは何なのかそれが心に解るまで
君は街にのまれて少し心許しながら
この冷たい街の風に歌い続けてる

僕が僕であるために勝ち続けなきゃならない
正しいものは何なのかそれが心に解るまで
僕は街にのまれて少し心許しながら
この冷たい街の風に歌い続けてる
 参考URL

 それまで小さく心の中で歌っていた観客も次第に口ずさみやがてそれはウエーブのように広がり最後のフレーズはいつしか合唱になった。肩こそ組みはしないものの右へ左へと人影が揺れて会場は一体感に包まれた。

 歌い終わってまだ余韻が残る中、

「T LOVE YOU !」

 叫ぶようにアンコールを求める声があがった。

 どうする?というふうにメンバーの顔を見回すニイケン。エリックは無理というふうに肩をすくめてみせた。よっちゃんも首を振った。ありえないし。尾崎豊ONRYのコピーバンドだったけれど尾崎豊作にはハードルが高すぎる楽曲だった。あまり演じたことがないようだ。んなバカな!でも小説だから許して。

 アンコールの催促するように手拍子が起こりメンバーの中にどうしようかという空気が流れた時だった。

「僕が弾こう。」

 そう言って前列の観客の間から割って出てきたのは村上君のおとうさんだった。
呆気(あっけ)にとられているメンバーを尻目に次のステージの軽音楽部が使うキーボードの前に立ち音を確認し始めた。

 やがて顔をあげると『いい?』というふうにニイケンを見ると足でトントンと合図のように拍子をとると、まるで凪(な)いだ海に舟を漕ぎ出すように静かな演奏が始まった。

T LOVE YOU 

 立て直してもらったマイクのスタンドの中央辺りを両手で握りしめ歌い出すニイケン。その声に寄り添うかの様な控えめなメロディラインと聞こえるか聞こえないかわからないくらいのささやかなドラム。そのなんとも小さなセッションは優しい旋律を奏(かな)でる。

 ニイケンの持ち味を一番引きだすのはこの歌かもしれない。かすれる高音は聞く者にせつなさを感じさせ得意の中音はよく響いて胸にせまってくる。もう誰も彼(か)も沈黙してひとことも聞き漏らさないようにと聞き入るだけだ。

 村上君のおとうさんは思い出していた。
 それこそ村上君が小学校の頃まではこうしてよく一緒に音楽を楽しんだ。ところが中学生ともなると生活時間も合わないせいか演奏することもなくなった。それでなくとも親が煩(わずら)わしい年頃だ。

 けれどもおとうさんは知っていた。自分の息子が中学校でどんな生活を送っているかということを。

 おかあさんはたびたびYシャツのボタンが取れたりポケットが裂けるのを訝(いぶか)しがって教師に相談したり家庭でも食卓の話題にしたりしたのだがおとうさんは取り合わなかった。
だが決して平気で手を拱(こまね)いていたわけではなかった。

 姉と妹に挟まれた2番めの子どもだけれど長男。優しい子であるゆえ、どうかすると他人より一歩引いたところにいるような子ども。
 でもここぞという時には立ち向かっていける子だと信じていたし、またそういうふうに育ててきたつもりだった。彼は息子のプライドを尊重しようと思った。

 思春期に親が肩代わりするということ。かっこ悪いこと、この上ないだろう。親はいつまでもいない。自分で解決するしかないのだ。

 息子のことを思うと歯噛(はが)みするほどキリキリと心が痛く眠れない夜もあった。

 そしてどうだ。村上君は友人に支えられて自らその先へと踏み出すことが出来た。
 愛用のZildjianをスポーツバッグからのぞかせ嬉々として自転車で登校する姿に安堵したのはついこの間のことのようだ。

 演奏の手は休めなかったけれど途中で顎(あご)を引いたのはキャップのひさしで不覚にも込みあげるものを隠そうとしたからだ。

 村上君のおとうさんはこの小さなセッションをきっと一生忘れない。

 村上君は神妙な顔をしていた。17才の彼に、おとうさんの気持ちを推し量ることはできない。




 演奏が終わるとしばしの沈黙が流れそして嵐のような拍手と歓声と高い指笛と飛び交う帽子・ネクタイ・上履き・入場券のヒラヒラ、えらい騒ぎだ。

 ニイケンと村上君はさっさとステージをあとにすると出入り口の机に向かった。彼らの本来の仕事はチケット係だ。

 一番に出てきたのは伊東美咲にそっくりな美人さんだった。

「相変わらず歌うまいね。」

「あ・ユキ姉。」

 とニイケン。じゅんぺいのおっそろしく恐いお姉ちゃんだ。白バイ隊員で日夜ナンジャラホイ町の安全を守っている正義感の塊のような人だ。小人6の鈴木君にキップを切ったのは彼女だった。
 ユキ姉は社会人らしく財布にあった何枚かの千円札を気前よく全部寄付してくれた。

「あざーす!」

 何人もの人が厚意を置いていってくれる。みるみるお菓子の紙箱は小銭と千円札でいっぱいになった。もちろん素通りの人もいる。でも強要はできない。

 村上君のおとうさんが出てきた。
 並んでいる村上君の方へは目もくれないでニイケンの肩をとんというふうにたたいて黙って福沢諭吉さんを置いていってくれた。

「あざぁーーーっす!!」

 山本先生が出てきた。先生の目はまっ赤だ。『打ち上げの足しにして』と樋口一葉さんを置いてくれた。新婚さんなのでなにかと物入りな先生の精一杯だ。

「あざーーっす!」

「あざーーっす!」




 なんだか窓下の中庭がいっそう騒がしい。ピストン輸送している3回目の救急車で直毅が搬送されるところだ。心配そうに見送る長谷川君と1組の実行委員の林さん。二階の廊下側の窓から恨めしそうに眉を曇らせてやはり心配そうに見下ろす佐藤さん。

「校長先生、校長先生。いらっしゃいましたら校長室にお戻り下さい。」

「校長先生、校長先生。いらっしゃいましたら事務室前までお越し下さい。」

「校長先生、校長先生。職員室にお電話がはいっています。」

「校長先生、校長先生・・・」

校内放送もけたたましく校長先生大忙しだ。

 やがて失神者続出の通報を受けた保健の三上先生が2年2組目指して“殿中走り”で走ってくる。スリッパが脱げないように走るとそうなる。彼女はいつも走っているのであだ名は“殿中(デンチュウ)”だ。白衣の裾が乱れるほど慌てている。

 ナンジャラホイ高校は空前の喧騒の中にある。
そしてナンジャラホイ消防署はアホチャウカ消防署とトンデモナイ消防署に救急車応援要請の連絡を入れた。<つづく>







僕が僕であるために お時間あったらご覧ください

訝(いぶかし)しがるあやしむ(怪しむ) /プログレッシブ和英中辞典

拱(こまね)く1 腕組みをする。 「手ヲ―・イテ立ツ」2 (「腕をこまぬく」などの形で)何もしないで傍観する。「手を―・いて待つ」/大辞泉

歯噛(はが)み「歯ぎしり」に同じ。/大辞泉

嬉々(きき)笑い楽しむさま。喜びうれしがるさま。「―として戯れる」[類語]嬉しい/大辞泉

ギブギブアップ

糊口(ここう)凌(しの)ぐどうにか生計を立てて暮らす。(三省堂「大辞林 第二版」より)

滂沱(ぼうだ)(1)雨が激しく降るさま。 (2)涙がとめどなく流れるさま。 (3)水・汗などが激しく流れ落ちるさま。 (三省堂「大辞林 第二版」より)





説明も野暮なんですが年齢を問わず読んでもらいたくて補足します。またお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名も付けます。


↓忙しい校長先・・いや村上君とそのおとうさんに、
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9/28追記します。→1組の実行委員の林さん

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
上履きまで飛び交ったのか!(笑)
僕もハイスタのライブで暴れすぎ、
時計と靴を片方失くしましたが・・・
伊藤→伊東美咲、ピンポン→ピストン輸送
ですかね??間違ってたらスミマセン^^;
レイバック
2007/09/28 00:32
レイバックさん
か・か・かたじけない!
さっそく訂正です。

>僕もハイスタのライブで暴れすぎ、時計と靴を片方失くしましたが・・・

よほど楽しいライヴなんでしょうね。靴はわかるような気もするんですが時計を失くすって、う〜んおばちゃん熱出そう。
ちょっと一句詠んでみました。
「ハイスタの熱き血潮を知りもせで寂しからずや音を説く我」パクリかい!
最近の音楽事情に疎すぎました。早速仕入れた情報を入力、入力。
ついていけるんだろうか。
いつもありがとう。
つる
2007/09/28 07:59
「あざーーっす」。
とても国語の勉強になりました。
アザーズは、怖かったなあ。
>嬉嬉、猿がバナナを食って喜んでるのかと思っていたなあ。
明日から、朝も晩も4本ずつにしてくださいね。
だっくす史人
2007/09/29 10:57
だっくす史人さん
「あざーす!」使いませんか?お笑いの方がよく上手に使っていますよね。↓
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%A2%A4%B6%A1%BC%A4%B9
アザーズのほうは知らなかった。ホラー系だめです。あ・いけない、なんでもチャレンジで食わず嫌いなくそうとしていたのでした。そっち系はもう少々お待ち下さい。
バナナに関してはだっくすさんには朝三暮四ではないけれど朝6本晩2本がよろしいかと思われます。
つる
2007/09/29 19:21
村上君のお父さんが出てきて演奏する
ところがいいですね。
しかし、I LOVE YOU の演奏があまり
前に出せないところがもどかしい。
注釈 訝しがる の辞書が英和ってところがおされ。

銀河系一朗
URL
2007/11/17 22:45
銀河系一朗さん。来てくださってありがとう。
それから村上君のおとうさんに触れてくださってありがとう。
一人称の語り口にしていないので、やはり親の事も書きたいと思いました。そしてもちろん先生の事もです。いい先生もいるってことで。
>注釈 訝しがる の辞書が英和ってところがおされ。
びっくりしました。大人は注釈を見てないと思ってました。
こりゃ気が抜けないわ。
つる
2007/11/17 23:49

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