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zoom RSS 「理想の高校生」文化祭10/十七歳の地図

<<   作成日時 : 2007/09/25 21:53   >>

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画像








photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

十七歳の地図
 ぶち抜かれた胸も塞(ふさ)がれないまま二イケンは酒井さんから曲名の順番を書いた小さな紙切れを受け取るとステージの中央にふらふらと進んだ。

 さっきの立ち漕ぎで髪が頭の芯からびしょ濡れだ。まだ噴き出してくる汗にYシャツは背中に張りついた。掻きむしって緩めたネクタイは、よく新橋駅前で街頭インタヴューを受ける酔っ払いのソレ。
 今の彼はまさに雨の中行き場を失って彷徨(さまよ)い心の叫びを伝え続ける傷だらけの伝道師。
 ツユダク汗ダクの額を肩で拭(ぬぐ)った。
 マイクが低い。二イケンは脚を大きく開いて立ち右手をマイクにかけた。

「なんのためにここにいるのか」

 ワッと歓声が起きた。

「わからないけど・・・歌います。」

 左手のカンニングペーパーを見る。まるで打ちひしがれた尾崎。

「『十七歳の地図』」

 おおっ!と言う声と軽快なイントロが重なる。
 何の因果でここにいるのかわからない。ある意味彼は尾崎だった。

――のしゃがれたブルースを聞きながら
夢見がちな俺はセンチな溜息をついている


 遅れた。あんど声が裏返った。
 前列のマトリョーシカなクソガキたちがガクガクとズッコケる。そう。佐藤さんの弟たち。

たいしていい事あるわけじゃないだろ
一時の笑顔を疲れも知らず探し回ってる


 なんとか立て直した。いきなりのシャウト系の曲に戸惑ったけれど音程に狂いはない。
歌が進むにつれ観客はしんとなった。ニイケンの声に耳を傾けている。

バカ騒ぎしてる街角の俺たちの
かたくなな心と黒い瞳には寂しい陰が
喧嘩にナンパ愚痴でもこぼせば皆同じさ


 彼の声は、はっきり言って尾崎豊とは似ていない。もっと低音だ。だから高音になると声が割れる。
 だがどうだろう。その以(もっ)て否成る声で力強く訴えかけてくる。彼の口にする言葉のひとつひとつがとても鮮明だ。

うずうずした気持ちで踊り続け汗まみれになれ
くわえ煙草のSeventeen's map


 間奏の合間は、観ているこちらの方が恥ずかしくなるくらい照れまくるニイケン。だって目の前には観客がいる。いくらなんでも近すぎる。
 視線のやり場に困ってそっぽを向くと酒井さんが心配そうにこちらを見ている。目が合った。額の汗が目に入る。彼は片目をつむった。彼の左眉にある傷は流れる汗を止める役割を果たさない。こうしたときに必ずでる癖だ。

 酒井さんはその場にドサリと崩れ落ちた。

 彼女は几帳面だ。こうしてクラスの文化祭実行委員を務めてしっかりやってきた。昨夜は看護士である夜勤の母親の代わりに炊事と洗濯をし妹の宿題を見てやって深夜0時、友人のメールの返事を送って1時、風呂に入って2時、ノルマにしている漢検1級の勉強をして3時、それから今日の段取りや教室のポップ書きの変更やらあれこれ考えを巡らしているうち、とうとう、ろくすっぽ横にならないまま朝になってしまった。ここで寝てしまったら起きられないと徹夜した。そこへもってきて、今日のこの夏日を思わせるような蒸し暑さ。教室の人いきれ。そして思いを寄せる人からのウィンク。
 貧血だった。

 村上君が正確なリズムを刻む。彼のスナップのきいたドラムはまるで若さが弾(はじ)けたようだ。観客も足で肩で体全体でリズムを取りだした。

(痛え!)

 腰が痛い。ニイケンにはマイクの位置が低すぎるのだ。歌い出しこそ我慢もしたものの、この姿勢でいつまでも続くもんじゃない。2番の歌詞を前に彼はマイクを外(はず)すと、『メンドクセ!』とばかりにスタンドを蹴っ飛ばした。
 わああっ!という声援。ある意味尾崎。違った意味で尾崎。ニイケンに尾崎降臨。

 歌い進むうち、少し慣れて時折り村上君とアイコンタクトも取れるようになってきた。
 ニイケンに笑顔を贈る村上君の肩は大きく上下して曲をリードする力強い音を叩きだす。
 こんな細い彼の体のどこにそんなパワーが潜んでいるのだろう。めりはりのきいたリズムを確実に刻むそれはいつしかリードギターのエリックやベースのよっちゃんも巻き込んだ。
 二人とも顔が違ってきた。マジで上手(うま)い。今まで豊作の歌がヘタクソすぎて彼らの演奏が霞んでいたのだ。それにしても、

(腹減った。)

 左手で空腹の腹を押さえ吼(ほ)えるように歌詞を吐き出す彼は全身の筋力もこと切れて内股のまま膝から崩れ落ちる。会場内に悲鳴のような声があがる。

何のために生きてるのか解らなくなるよ
手を差しのべておまえを求めないさこの街
どんな生き方になるにしても
自分を捨てやしないよ wao!


wao!でました。

人波の中をかきわけ壁づたいに歩けば
すみからすみはいつくばり強く生きなきゃと思うんだ
ちっぽけな俺の心に空っ風が吹いてくる
歩道橋の上振り返り焼けつく様な夕陽が
いま心の地図の上で起こる全ての出来事を照らすよ
Seventeen's map
 (参考URL

 崩れ落ちたまま床とキス寸前に歌うニイケン。観客は大喜びだ。

 倒れたのは酒井さんだけではなかった。
 彼の目に汗が入るたび、ひとりふたりと沈んでゆく、さっきまで“かしましかった”女子中高生たち。
 ニイケンが1曲めを歌い終えぬうちにあらかたの姿が各々(おのおの)の体重に応じた轟音(ごうおん)と共に消えた。大根足の山いや死体の山。
 落ちないのは“元・女子”ばかり。綾小路きみまろの漫談にヒトゴトで笑っていられる神経の持ち主。つまり、オバサンたち。
 だが彼女たちも無反応なわけではない。このあと隣接するコンビニへと替えのパンツを買いに走る。そう、ちびった。

 死の一歩手前で、前列のクソガキつまりヒカルがおずおずとニイケンに“超聖水”アクエリを差し出した。奪うようにしてひったくると一気飲みしてペットボトルをぶん投げた。

「はじまりさえ歌えない!」

 叫ぶように曲の紹介するのが精一杯のニイケン。さっきの臭いセリフはマグレだった。ガンガレ!
 あとはもう駆け抜けるように夢中で歌った。

『路上のルール』

『ハイスクールRock'n'Roll』

『十五の夜』

 3年2組の壊れたドアからごきげんなRock'n'Roll の大音響が漏れる。曲が進むうち、何事だ何事だと次第に人々が集まって来た。
 次第に押すな押すなの観客が落ちた死体の山をふんずけて前へ前へと進み教室はいっぱいになってしまった。その大半が男子だ。さながら地下のライヴハウス、秘密クラブで行われるインディーズバンドのそれ、天井には安いミラーボウルも見えてきた。

 気持ちに余裕がでてきたニイケンの目に、担任の山本先生とキャップを被(かむ)った村上君のおとうさんの姿が映る。

 アップテンポの曲が続いたがどうしてまたこんな選曲なのだろう。
 尾崎豊作は音痴だ。“OZAKI.com(オザキドットコム)”はそれをごまかすためにシャウト系のロックンロールばかりを十八番(おはこ)としているグループだった。金きり声をあげて歌えばビジュアルがカバーしてそれなりに見えただろう。
 だがバラード系はからきしだめだった。

「傷ついた人々へ!」

 カンニングペーパーを見ると“メンバー紹介”とある。
 ああ、そうだなと、曲の出だしを歌わずに、

「大切な友人を紹介します。リードギターのエリックです。」

 わあっ!と拍手。
 エリックはイギリス生まれ。帰国子女のニイケンとイギリスのロックシーンの話ではうまが合う。リードギターがキュイ〜ンと鳴いた。

「ベースのよしひろです。」

 よっちゃんのベースもひときわ大きく鳴った。わあっ!と拍手。
 彼はサッカー部ではないけれどリフティングが上手い。昼休みのフットサル仲間だ。

「それからドラムスの村上です。」そこ苗字かい

 スッカラドンドンドン!と雷が落ちたような音がドラムからして、村上君のパフォーマンスが披露される。わああっ!という拍手とピーピーという指笛。
 Zildjian(ジルジャン)を器用にクルクルと回して見せる。慣れたもんだ。彼はニイケンを見るとニカッと笑った。

「そしてオレ尾崎」

 わああああっっーーーーーっ!!!

 と、信じられないような大歓声にかき消されて『尾崎豊作の代理の新妻です』が消滅した。もうなんでもいいと思った。 <つづく>





『十七歳の地図』お時間ありましたらご覧ください。

人いきれ人が多く集まったため体から出る熱やにおいでむんむんすること/小学館新選国語辞典より

十八番(おはこ)誰でもひとつやふたつあるでしょう。わたしは音痴ですがテレサ・テンの『別れの予感』でオジサマ族のハートをわしづかみします。わしづかみウソ。『カバチタレ』の主題歌『Do you remenber me?』も好きですね。そうそう会社の新人歓迎会で歌った『いちご白書をもう一度』はどん引き伝説をつくりましたっけ(遠い目)。

超聖水ご存知『ドラゴンボール』の命の水。これでニイケンは生き返ったわけです。

アクエリアクエリアスの略/若者はなんでも省略です/何?サトエリもある?ハイハイわかりましたよ、だっくす史人さん!

インディーズ村上君のドラムてこんな感じですかね。とにかくパワフルだったということで。



説明も野暮なんですが年齢を問わず読んでもらいたくて補足します。またお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名も付けます。


↓お気の毒な酒井さんの貧血に
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コメント(13件)

内 容 ニックネーム/日時
>彼女は几帳面だ。
以降に続く長い文。

いいですねぇ。
落語の道中付けのようで(笑)
今回が一番臨場感があって
楽しめたような気がします。
尾崎のライブは、実際に
見られたことがあるのですか??
レイバック
2007/09/25 22:56
こ・光栄です。なんか褒められた?
レイバックさん 
わたしはけなされて伸びるタイプなのでもうこれ以上の進歩は望めなくなりました。このあとつまらないです。

道中付けを知らずに(←無知)今調べて参りました。
するってぇと(憑依体質/すぐ影響される)樋口一葉なんかまさに元祖ですよね。長い文章をいくつかの『、』を使って一気に読ませるんですもん。すっと頭にはいるような文章て、たぶんものすごく簡素な言葉で構成されているんでしょうね。それが一番難しい。

>尾崎のライブは、実際に見られたことがあるのですか??

いいえ。悔しいことにその時代に生きてはいたらしいのですがたぶん4人のクソガキの授乳や夜泣きに追われ社会と隔絶していた時期だと思われます。
だからこうして聴いていてもなんとなく乗り遅れた電車を見送っているような疎外感を感じます。ほんと残念。わたしたちの世代はユーミンと共にあります。

逆にレイバックさんは尾崎世代よりはぐっと若いようですがやはり共感を覚えますか?し・質問しちゃたよ。
つる
2007/09/25 23:53
質問されちゃった(笑)
乗り遅れた電車――いいですねぇ、
なんか最近ノってますよねつるさん。
僕は世代的にはほぼズバリなんですが、
冷めたガキでしたので、
みんなが聴くものは聴かない。
とか言って、洋楽を聴いているような
嫌らしいガキでした(笑)
でも後々になって尾崎ええ曲あるやん!
なんつってカラオケでは歌ってましたけど。
歌詞をほとんど聴かないタイプなので、
共感を覚える事は無かったですね。
でもつるさんの描写で昔見たライブ映像が
蘇るような気がしましたよ。
まじで楽しかったです♪
スミマセン音楽の話を始めると長くなるので、
これくらいで失礼しておきます(笑)
レイバック
2007/09/26 01:10
レイバックさん
残念だなあ、帰ってしまうなんて。音楽の話をしたかったなあ。
わたしも洋楽好きでした。それに乗り遅れていない電車ありましたよ。QUEENとかエアロスミスとかKISSとかレッド・ツェぺリンとかクリームとかあ〜うるさいですねうるさいですよね。すみませんね。QUEENとかレッド・ツェぺリンの「天国への階段」とかクリームのエリック・クラプトンの「いとしのレイラ」とかクラッシックな匂いがぷんぷんするロックがたまりません。スケールのでかさを感じます。やっぱりああいうのは背景がヨーロッパという土壌だからこそ生みだされるもんなんすかねえ。あ・ずれてたら失礼。流行の曲などあったら教えてください。最近では小屋さんのところで紹介されていた「ガールフレンド」ていうのいいなと思います。あとはわからない。でもドラムが決め手かな。リズミカルな曲ならなんでもいいです。<つづく>
つる
2007/09/26 23:50
<つづき>
>みんなが聴くものは聴かない。とか言って、洋楽を聴いているような
嫌らしいガキでした
嫌らしいガキ結構!だいたいサッカーだって教室でおとなしい子はフィールドでもおとなしいです。夢のあるようなことしでかしてくれるのはそういう子どもたちです。そしてその子たちの夢に乗っからしてもらいます。
長くなりました。それに「ツェ」が変換できなくて四苦八苦。何故できない?お返事遅くなりました。ごめんなさい。
つる
2007/09/26 23:52
今時(?)の若者は尾崎は歌わないと思うんだw(ぇ

・・・学園祭で I LOVE YOU から始まり最後に シェリーで締めた人が言えませんがw

その頃だって尾崎を聞いてる人は数える程度だったのですが、意外に盛り上がった記憶がありますw

「歌は唇から放つことが出来る魂の塊だ」と友人に話していた若かりし頃を思い出します(いや、今だって若いですよ?w)

個人的に歌詞の部分をヴィブラート等を表現して欲しかったところですがw(無茶言うなw)

歌詞の部分をキリの歌声で録音して渡したくなる衝動を抑えながら帰りますwでわでわw
キリ
2007/09/27 03:31
あ、追記。

ラストの曲名の歌は・・・バラードな気がしてならないのは気のせいだろうか・・・。いや、ある意味シャウト必要ですがw

どれだ〜け言葉つぃ〜やし〜君〜にはぁなしぃ〜たろー どぉ〜んなっ言葉でも〜言い尽くせなかった事の答えも〜 一つしか〜ないはずとぉ〜♪

・・・失礼しました;

キリ
2007/09/27 03:36
うわぁキリさん、ありがとう。
今日のコメ返しは長くなりますがよろしくお付合いください。
>学園祭で I LOVE YOU から始まり最後に シェリーで締めた人が言えませんが
まさか本当に学園祭で歌われる方がいたとは。おかげでリアル感でました。
フレンドのキリさんが尾崎豊を好きなのを知っていたのでこの記事を書く時に選曲の相談に乗ってもらおうかとけっこう悩んだんですよ。まあ結局ああいう構成になってしまったのですがやはりはじめは「I LOVE YOU」のほうがよかったでしたかねえ。

いまどきの子はおとなしいです。学園祭も模擬店やら喫茶店が多いですね。奇抜なことはあまりしません。ある意味“恥の文化”てやつが行き渡っているというか全然面白くありません。
それこそ学生のうちにやっておかないとできないことをしないんですよね。失敗もしどき、恥もかきどき、だっていうのに。まわりもそれを寛容に受け止めるのに、実にもったいないことです。<つづく>
つる
2007/09/27 14:02
<つづき>
>ラストの曲名の歌は・・・バラードな気がしてならないのは気のせいだろうか・・・。いや、ある意味シャウト必要ですがw

シェリーは不思議な曲ですね。わたしもそう思います。
もしかしたら歌うのが一番難しいかもです。
シェリーも使いたかったけれど小説はマニアチックになりすぎてもとオーソドックスな曲しか選びませんでした。すごく心残り。

>個人的に歌詞の部分をヴィブラート等を表現して欲しかったところですがw(無茶言うなw)

こ・これもやりたかったんだけどそうするとそこだけおふざけになってしまうんです。そうそうそんなわけでキリさんがコメで口ずさんでいた続きで次記事をアップしてみます。見てくださいな。
どうもありがとう。
つる
2007/09/27 14:13
QUEEN、エアロ、キッス、ZEP・・・
みんな大好きです、見事に全部ipodに
入ってます(笑)70's前後のロックは
最高ですね^^僕も最近のモノは
あまり聴いてませんが・・・・w
レッチリやフーファイターズはいいですね。
レイバック
2007/09/28 00:44
レイバックさん
レッチリ?フーファイ?ハイスタ?
ポカ〜〜〜〜ン。
もう死んだほうがいいかもしんないです。
つる
2007/09/28 02:00
筆がノッてますね。
偶然が重なって尾崎豊になりきって
ゆくニイケンが最高です(笑)
古いロックがお好きみたいですね。
QUEENとかエアロスミスとかKISSいいですね。

しかし、一番すごいのは日本のデーモン小暮の逆立ち歌唱では?
一曲逆立ちしてるだけでも真似できませんが、
それで歌うのだからやはり人間超えてます。
これが欧米人ならすごい受けただろうに。

銀河系一朗
URL
2007/11/16 13:18
銀河系一朗さんも
音楽お好きですか?
>QUEENとかエアロスミスとかKISSいいですね。
わかってらっしゃる方とお見受けしました。
>デーモン小暮の逆立ち歌唱では?
閣下ですね。逆立ち見てないです。残念。
でもほんと日本にいたらもったいないですよ。大道芸や町の似顔絵書きだってヨーロッパでは芸術家と言われますからね。彼なら受け入れられること間違いないです。向こうは文化が成熟しているからなあ。
来てくださってありがとう。
つる
2007/11/17 02:08

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