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zoom RSS 「理想の高校生」文化祭9/はじまりさえ歌えない

<<   作成日時 : 2007/09/23 09:30   >>

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photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

はじまりさえ歌えない
 二イケンはありったけの力を込めてペダルを漕(こ)いでいる。
9月ももう終わるというのに雲ひとつない空から夏日のようなカンカンとした日差しが容赦なく彼に照りつける。
 何故彼は漕ぎ続けるのだろう。


♪カラカラに渇いた喉 へたばるまではしるのかい
ひとりぼっちの汗は誰の眼にもとまらない♪






「新妻君!」

 アホチャウカ高校との死闘を終えクタクタで二組の教室に戻って来たニイケンに、文化祭実行委員の酒井さんが待ってましたとばかりに声をかける。

「飴が足りないの。全然足りない。今すぐ追加で買って来て」

 飴というのは二組の出しものである無料のライヴハウスの、入場者から寄付があった時に感謝の気持ちとして渡す飴だ。寄付金は生徒会を通じてNPO団体に贈られる。
 準備した飴は200個。粗目糖(ざらめとう)のついた棒付き飴だ。ニイケンの下宿先の大家さんが駄菓子さんで安く仕入れた。その飴が足りない。例のメガネ男子騒動で入場者数が酒井さんの予想を上回った。

「足りなきゃ足りないで他のでもいいんじゃない?隣のコンビニとかでさ」

 同じチケット係でこれから一緒に昼飯を食べる村上君が助け舟を出してくれる。

「そういうわけにはいかないと思う。まだ3ステージあるし、それに同じ飴じゃないと不公平になっちゃうよ」

 酒井さんはその正当性を訴える。

「お願い」

 でた。酒井さんの<お願い>。今日のお願いはいつもの<レベル小>より少し進化した<レベル中>のお願いだ。小中大とある。次郎のラーメンかよ。
<レベル中>のそれは両手をその可愛らしい顔の前に合わせて、少し困ったようなとびっきりの笑顔だ。まあノリピーが小首を傾(かし)げて、していると思っていただければほぼ間違いない。なんとも魅力的な仕草だ。
“普通の男子”ならまず断れない。断ることのできる男子がいたらその顔を見てみたい。

 まっすぐにこちらを見つめる瞳に彼はクラクラする。いやそればかりではない。彼は空腹だった。

 あれ?確か酒井さんはニイケンを憎からず思っている筈。その相手に何故こんなに自然な振舞いができるのだろうか。
 たまにいる。ごくたまにだがいる。好意を持つ異性にその持てる武器のありったけを駆使しプレゼンできるタイプの人間。
 まさしく今の彼女がそうだった。誰もが佐藤さんのようにうまく立ちまわれず苦悩しているとは限らない。

「わかった。いくつ?」

 所詮(しょせん)ニイケンも“普通の男子”だった。

「あるだけ全部。20分以内ね!」

 20分無理!

(ぜっってーー無理っ!)

 二イケンは村上君に借りた自転車に飛び乗った。





 思えば親元を離れてバス通学の彼がこうしてペダルを漕ぐのは年賀状配達のアルバイト以来だ。『高校生ウルトラクイズ選手権に出たい!』もうその思いだけで我を張って帰国したものの下宿の一人暮らしはそれなりに金がかかった。


♪蒸し暑い倉庫の中で30分の休憩をとり
つめ込むだけのメシを詰めて届かない窓に手を伸ばしている♪



 親に金の無心はしたくなかった。長い休みには部活の合間を縫っていろんなバイトをした。日雇いの肉体労働や劣悪な環境の倉庫の仕事だってやった。
 おかげで体も心もひとまわり大きくなった。


♪なけなしの金のためのアルバイト
楽しくやるにはこの街では金だけがたよりだよ♪



 往復10キロ弱の道程(みちのり)。黄色信号に突っ込む。まるでツールドフランス。いや、すれ違ったベビーカーのママは白日の下(もと)、F1を見た。
 ナンジャラホイ高校が見えてきた。湾を臨むそれはだらだらとした長い坂道のてっぺんに建つ。

『お願い』

 額から背中から脇から太腿から滝のような汗が流れる。手の平にかいた汗で握るハンドルはベタベタ。でもスピードは緩(ゆる)めない。

 気持ちは“走れ!メロス!”。遅れるわけにはいかない。酒井さんが待っているのだ。

 彼女のとびっきりの笑顔がその先に見える。

「うぉおおおおおおっっ!」

 二イケンは渾身の力を込めて立ち漕ぎをはじめた。


♪きみのためなら死ねるさきっと
愛こそすべてだと俺は信じてる♪(参考
URL







「酒井っ!」

 はずむ息で勢いよく二組のドアを開けようとした二イケンの手が、空(くう)を掴んだ。
 ドアがない。廊下を横切って向かいの窓まで吹っ飛んでいるソレ。

「わああっっ!」

 と泣きながら酒井さんがニイケンの懐(ふところ)に飛び込んできた。ナ〜ゼ〜

 抱き留めるわけにもいかず飴を持ったままギブアップの態勢のニイケン。

 泣いている酒井さんの横でもう二人の実行委員が説明する。女子の話は長い。要約するとこうだ。

 ニイケンがいない間に次のステージで歌う筈の“OZAKI.com”に内紛が勃発し、ボーカルの尾崎豊作とドラムの山岸君はドアをカッ飛ばして出て行った。豊作のステージがないと知るや否(いな)や数十人はいただろう彼の熱烈なファンも出て行った。
 そして誰もいなくなった。

 教室の奥を見るとやる気のなさそうなリードギターのエリックとベースギターのよっちゃんがチューニングをしている。エリックは日本とイギリスのミックスだ。遠い遠い親戚にエリック・クラプトンがいる。ホントかよ。 
 もともとはこの二人が始めたバンドだった。寄せ集めの彼らは結束力の強いバンドではなかった。豊作の人気でなんとか続いてはいたが彼の音程と独裁者ぶりにみんなもう辟易(へきえき)していたところだった。

「あれ?村上?」

 村上君はチケット係の机の前ではなくドラムの前に座り愛用のZildjianで小さくリズムを確認するように音を刻んでいる。ニイケンを見るとニカッと笑った。

「ねえ!新妻君、歌えるんでしょう?」

「代わりに歌って!」

 二人の実行委員がかわるがわるに言う。

(なに言ってんの?こいつら)

 ようよう顔を上げた酒井さんが、こぼれんばかりの涙を湛(たた)え、

「村上君が新妻なら歌えるって、俺もドラムやるって。だから、だから」

「無理」

「お願い!」

 いくらなんでも無茶だ。聞けるお願いと聞けないお願いがある。例えそれが酒井さんでもだ。

 その途端、やれやれというふうに首を振ったキューピッドが<一途>という矢を番(つが)え、ニイケンの胸をめがけて放った。
 矢は幾本もある。<優しさ>だったり<天邪鬼(あまのじゃく)>だったり<弱さ>だったり。人により効果が違うのでチョイスは経験と感が必要とされる。

「お願い!お願いしますっ!」

 ニイケンの足元にペタンと崩れる酒井さん。二人の実行委員も援護射撃。

「新妻君っ!」

「にいずまくんっっ!?」

 酒井さんは彼女の生涯で三回しか使わなかった<レベル大>のお願いをここで一回使った。あとの二回は『結婚してください』と『お義母さんと別居させてください』だ。しかも、三回とも全て同じ相手に向けらた。え?



 観客が入ってきた。豊作ファンがいなくなって敷居が低くなったのだろう。かしましい女子中高生たちに混じっているのは、ナンジャラホイに通う生徒の家族だ。クソガキだの保護者だのがドンドン入ってくる。いまさら中止はできないだろう。
 ザワザワとした喧騒の中、飴を持ったニイケンの腕が力なく下ろされていく。


 どうやら矢は命中したらしい。<効果も大>だ。


<つづく>





はじまりさえ歌えないお時間ありましたらご覧下さい。

チュッパチャプスなんか子どもって好きですよねえコレ。

粗目糖(ざらめとう)文明堂のカステラにポツポツとはいってるアレですアレ。

プレゼンプレゼンテーションの略。

白日の下(はくじつのもと)(1)明るく輝く太陽。(2)昼間。白昼。(3)やましいところのないたとえ。(三省堂「大辞林 第二版」より)

辟易(へきえき)閉口すること。うんざりすること。(三省堂「大辞林 第二版」より)

ミックスいまはハーフと言わなくなってきてるそうですね。

エリック・クラプトンギターの神様です。



説明も野暮なんですが年齢を問わず読んでもらいたくて補足します。またお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名も付けます。



↓ニイケンの汗に
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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
色んなドラマや小説や音楽が矢継ぎ早に出てくるので、ツッコミを入れるタイミングが見つからない、困りました。ペースにはまりっぱなしです。
クリックして尾崎の詩を久し振りに聴けたのは収穫でした。
『お願い』の中、大のバージョンをいっぺんに体験できたのはすっきり。
そう、過ぎし日のあの頃、『お願い』の言葉に私の青春の全てが……(シーッ)。あ、はい、口にチャック、ジッパーをしましょう。嵐のようなおもろさに頭がクラクラしております。ヒエぴた、貼っとこ。
だっくす史人
2007/09/23 13:28
だっくす史人さん
いつも来てくださって恐縮です。
ちょっと文章がとっちらかってますかね?ラストに向かってあれもこれも盛り込まなきゃいけないので読みにくいかもしれません。読まされる方は拷問ですよね。

>クリックして尾崎の詩を久し振りに聴けたのは収穫でした。

今更尾崎豊ってどうなのかなとも思ったのですがそうでもないですよね。
彼のファンは隠れキリシタンのように市井に潜り込んでいるようです。あの時代にリアルタイムで彼と同じ空間を共有できた人たちが羨ましく思います。(なんか皇室発言みたいだぞ)私は早く生まれすぎました。残念。

だっくすさんは楽しい青春をおくられたのですね。台詞にいい思い出があるんですもん。
わたしはどちらかというとこの台詞にほろ苦感を覚えるような男子を書いています。現実はなかなかどうしてきびしいもの。みんながだっくすさんのように青春を過ごせたらいいのにね。
つる
2007/09/23 21:38
「お義母さんと別居させて」プププ
こいつはキラーなセリフですねぇ、
ヤラれました・・・(笑)
書きながらつるさんが楽しんでる感じ、
筆が走ってる勢いが感じられますね^^
レイバック
2007/09/24 02:05
まあレイバックさんたらひとごとではありませんよ。
でもこういうのを書くと若い人は引くかもね。いいんです。
レイバックさんが言ってくださってるように本人楽しんじゃってますから。
それにしても何故わかったんだろう。文章を書かれる方は鋭いです。
つる
2007/09/25 07:48
三本の矢の話(ちと違うけど)驚きですね(笑)
酒井さんから「結婚してください」とはびっくり。
「生涯で3回しか使わなかった」ですが
「3回しか使えない」とした方が好きかな。
ただの思いつきですが。
銀河系一朗
URL
2007/11/14 21:27
銀河系一朗さん。
なんかだんだん申し訳なくなってきました。読者が10人にも満たないだろうショボイブログにようこそ。たぶんどっかつまらないんでしょうね。そう思います。でも丁寧に読んでくださってありがとう。嬉しいです。
4人の男子に彼女がいるわけなんですが、このカップルだけは結婚しますね。たぶん高校生の恋愛なんてそんなものです。長続きするのはほんの一組か二組。うまくいく理由は三男と長女だからかな。
>「生涯で3回しか使わなかった」ですが
「3回しか使えない」とした方が好きかな。
なるほどなるほど。言葉を大事にされる銀河系一朗さんらしいコメント。今のシリーズが終わったら全体を見直してみようと思いました。
このへんは行き当たりばったりで書いてました。その日の気分で書いてたので文章のトーンも統一してませんね。そこのところリア友にも指摘されました。そもそもニイケンライヴで2回のつもりが15回の連載になっちゃったんです。こんなふうに言い訳ばかりしています。だめね。
つる
2007/11/14 22:57

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