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zoom RSS 「理想の高校生」文化祭8/落ちた白雪姫

<<   作成日時 : 2007/09/20 21:11   >>

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画像








photo by 伊豆の海と海岸に咲く花
落ちた白雪姫

 佐藤さんは死装束(しにしょうぞく)を身にまとい、ぼんやりとしていた。

 貞子の衣装だ。

 壁にもたれ、独りでたそがれている様(さま)は貞子、腰掛けても貞子、俯(うつむ)いても貞子、まさに貞子そのものだ。
 これで八組男子手作りのTVフレームから這(は)い出して来たら、例えホラー好きでもチビんだろう。小学生なら間違いなく即死だ。

(行こうか行くまいか。行くまいか行こうか)

 9月も半(なか)ばを過ぎたというのにまるで夏日のような日差し。

「光化学スモッグかよっ!」チガウ。

 息苦しくて彼女は太陽に向かって“一人突っ込み”をする。

 彼女はどんな薬も効かない病気に罹患(りかん)した。例え勘違いにせよ、面と向かって『好きだよ』と言われて、動揺しない人などいるだろうか。それが憎からず思っている相手なら、なおさらのことだ。
 苦しくて苦しくて死んでしまいそうだった。

 一組の”白雪姫”を見に行きたいのはやまやまだが、彼女の脳裏に焼きついた直毅はクソも面白くもなさそうな顔をして突っ立っている。そして言う。佐藤さんの空耳アワーの時間だ。

『来んなよ。佐藤 』

「はうううぅっっ!!!」

 彼女は漆黒のロングヘアをバサバサと振り乱し、煩悩(ぼんのう)を追いやろうとするけれど、

 恐い。

 その姿は本当に恐い。





 弔い合戦という名の死闘を終えた直毅とじゅんぺいは、屋上へ続く階段の踊り場で弁当を広げた。もうヘトヘトだった。いつもの倍は走り回った。

(やべっ)

 直毅は弁当の蓋をあけた途端、グシャグシャと箸でご飯をかき混ぜた。

「納豆かよっ!」じゅんぺいが突っこんだ。

 チガウ。納豆じゃない。母さんのいつもの虐待弁当。クリック。本日は白飯に海苔で「?(はてな)」マーク二つの間に、ピンクのでんぶでハートだ。意味は「?(モシカシテ) LOVE ?」
 このところの心此処(ここ)に在らずの直毅の様子に母さんは弁当に突っ込みを入れてきた。

 食べ終えてその場で二人が仰向けになっていると、一組の文化祭実行委員の林さんが呼びに来た。

「早くして!」

 早くして――いったい男子は一生のうち何度女子からこの言葉を投げかけられるのだろう。

「え〜? もうやんの?」

 戦士には束(つか)の間の休息も許されないようだ。さすがに80分間フルにフィールドを駆け回った後では高校生の彼らでも膝が笑っている。もう少し休みたくて、思わずぶうたれた。

「何してんの!私なんて昨日も今日もお昼食べてないよ!」

 嘘だ。林さんは大トトロに似ている。『お昼食べてない』は実行委員になってから彼女がよく口にするセリフだが、そうそう食べないでその体型を維持するのは困難だろう。




 二年一組の教室。

 机の脚を縛って連結された舞台が窓際に作られていた。そしていくつかの椅子が配置され、その間に通路が設けてある。

 舞台袖で小人6の鈴木君と鏡役の佐々木君が話していた。

小人6「へえ〜。そんなにたくさんの女子が話しかけてきたんだ」

鏡「もうすげぇよ。次から次から『この人知りませんか』『この人知りませんか』ってよォ」

小人6「ふ〜ん」

鏡「いくらオレがメガネだからって、メガネ全員と知り合いじゃねえつーの」

小人6「ははは」

鏡「何か今日一日で、一年分女子と喋ったし」

小人6「い、一年分も?」

 鈴木君は後悔した。最近バイク免許を取得したのでコンタクトに変えた。
 その免許もつい最近二ケツで白バイとバトって、隊員のお姉さんに取り上げられたばかりだ。

「メガネに戻るかなあ」なんて言ってる。



「さ、始めるよォ」

 林さんたち実行委員を中心に、てきぱきと準備が進められた。それにしても今日のナンジャラホイ高校は廊下に階段に人が溢(あふ)れている。校内が雑多なざわめきに包まれている。

「ちょ、聞いてねえし!」

 思わず直毅が大きな声を出した。

 白雪姫の衣装が女子の手作りでスカートを穿(は)くのは知っていた。

 だがこれはいったい何だ!

 カチューシャに直毅の顔の三倍くらいの大きさの赤いリボンが付いている。それを頭に付けろと女子が言う。

「ミニーかよっ!」

 それを見てじゅんぺいが突っこむと、一人の女子が泣き出した。リボンを作った神田さんだ。女子も一生懸命なのだ。林さんがじゅんぺいを睨(にら)んだ。

「なんで王子だけ制服なんだ……」

 力なく呟(つぶや)く直毅。

 ブルーのTシャツに黄色のサテンのスカート。赤いリボン。女子が色付きのリップを塗ってくれた。観念する直毅。

 三人の実行委員の女子が王子役の長谷川君を囲んで溜息をついた。

「どんだけ〜?」

 傷だらけの腫れあがった赤チン顔のブサイクな王子。

 長谷川君は間違いなく勇者だ。だけど女子にそれを解(わか)れって言う方が無理。彼はニコニコして言われなき中傷に耐えている。

 そして王子より背の高い無愛想な白雪姫。

 じゅんぺいはお妃(きさき)の衣装のマントをひるがえした。

「さらば!」

 ゴッコ遊びにご満悦。悲しいことに予算と手作りの関係でバッドマンじゃなく、ただの黒いてるてる坊主にしか見えないのはご愛嬌。

「ああ〜〜〜〜」

 実行委員の三人は彼らを見て溜息をついた。

 どう見ても午前中のWキャストの大川君たちの方がそれらしかった。芸達者な彼らの舞台は大好評だったのだ。
 王子と白雪姫のキスシーンも本当にやったらしい。だけど代わろうにも彼らだって午後はバスケ部の招待試合がある。ムリだ。
 林さんは言った。

「もうなんでもいいわ」

 直毅も何でも良かった。親友のメガネ君を奪われた彼はまるでヘレン・ケラー。舞台の足元さえもアヤシイ。



 劇が始まった。客の入りはまあまあだ。


お妃「鏡よ 壁の鏡よ この世で一番美しいのは誰?」

 じゅんぺいは何をやらせても器用だ。声に抑揚をつけてオーバーにお妃を演じる。

ナレーション「すると鏡が返事をしました」

鏡「お妃さま。あなたがこの世で一番美しい」



 舞台は進んでいく。


ナレーション「日がとっぷり暮れた頃、小屋の主たちが帰って来ました。七人の小人です。小人たちは小さな灯りを七つつけて小屋の中が明るくなると、いろいろな物の様子が出かけたときとは違っていたものだから、誰かが中に入っていたことに気がつきました」

小人1「誰がわしの椅子に腰かけたんだろう?」

小人2誰がわしの皿のものを食べたんだろう?」

小人3「誰がわしのパンをとったのだろう?」

小人4「誰がわたしの野菜を食べたのだろう?」

小人5「誰が私のフォークで刺したんだろう?」

小人6「誰があたしのナイフで切ったんだろう?」

小人7「誰が僕の盃の中身を飲んだんだろう?」



 さらに進んでいく。


 ナレーション「それからお妃は、誰も来ない人里はなれた隠れ家で、毒りんごをこしらえました。一目みたら誰だって食べたくなるようなきれいなりんごだったけれど、一口でも食べたらたちまち死んでしまうものでした。そのりんごが出来上がると、百姓女のなりをして、七人の小人の所へ行きました。戸をたたくと、白雪姫が窓から顔を出して言いました」

白雪姫「誰も家へ入れてはいけないの。七人の小人にいけないって言われたの」



 直毅のセリフは棒読みだ。
 白雪姫の女言葉に観客の中からクスクスと含み笑いが聞こえる。


百姓女のなりをしたお妃「結構ですよ。りんごをすっかり売り払ってしまいたいんだけどね。さあ一つあげよう」


 しゃがれた声でセリフを言うじゅんぺい。


 白雪姫「いいえ。何ももらってはいけないの」


 棒読みの直毅。どっと笑いが起きる。棒読み受けてるみたいだ。


百姓女「毒が怖いのかね?まあごらんよ、この通りりんごを二つに切って、お前さんは半分お食べ。あたしはもう半分を食べるから」 

ナレーション「ところがそのりんごはとてもうまくこしらえてあって、片方にだけ毒が入っていました。
 白雪姫はりんごが食べたくてたまらず、百姓女が半分食べたのを見ると、もうがまんが出来なくなって、窓から手をのばして毒のある方を取りました。ところが」
参考URL


 ところが、直毅が作りもののりんごをぱくっと食べる真似をした時、教室の後ろ出入口に体半分だけの白い幽霊が立っているのが見えた。

「うわっ!!!」

 と言って靴下の足元が二三回空(くう)をかいたかと思うと跳ね上がった足でスカートがまくれて、Stitchのトランクスが丸見えのまま通路に落下した。

「きゃあ!」

 と言う悲鳴。ごつんという鈍い音。そのあとの静寂。

 長すぎる静寂。

 きれいな直毅の寝顔。リップを塗られた口元がぷるんと愛らしく本物の白雪姫みたいだった。そしてピクリとも動かない。




 どうなることかと観客が固唾(かたず)を呑んで見守る中で、

「これはこれは美しいお姫様」

 と言って長谷川君が舞台からピョンと飛び降りた。アドリブだ。白雪姫に覆(おお)いかぶさった。

「松本、おい起きろ。松本」直毅は高校では“松本”だ。

 長谷川君が耳元でささやく様(さま)は、だけど禁断のBL(ボーイズラブ)。

「きゃああ! いやあああん。」

 いやだいやだと口にするけれどコワイもの見たさの観客は盛り上がった。
 王子は馬乗りになって白雪姫の首を抱えた。耳に口を寄せる。

「松本! 松本! しっかりしろ!」

 大胆で強引な長いキスシーンに観客はシーンとなった。
 だめだ。目を開けない。完全にオチちゃったみたいだ。

 長谷川君は直毅を担(かつ)ぎあげると、後ろの戸口に半身で佇(たたず)む佐藤さんの脇をすり抜け、保健室へ向かった。

 それを見送って舞台を振り返った観客。そこにポカンとした出演者。気を取り直したじゅんぺいが、

「良かった、良かった。めでたし、めでたし」

 と言うと、取り繕(つくろ)ったように、小人たちが諸手(もろて)を挙げて、

「万歳! 万歳!」

 と言って、劇を締めくくった。



<こんなでいいんだろか?つづく>


たそがれるなんかテンション低いっていうことだと思います。若い人はウマイこと言いますね。

煩悩(ぼんのう)〔仏〕 人間の身心の苦しみを生みだす精神のはたらき。肉体や心の欲望、他者への怒り、仮の実在への執着など。(三省堂「大辞林 第二版」より)

大トトロ『となりのトトロ』大中小いろいろいます。

二ケツ二人乗りのこと。

ミニー(ミニーマウス)ミッキーマウスの彼女。

Stitch(スティッチ)ディズニーのキャラクターのひとつ。




 説明も野暮なんですが年齢を問わず読んでもらいたくて補足します。またお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名も付けます。


↓直毅のタンコブに
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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
笑った笑った。いやあ、マイリマシタ。
『早くして』なんて、つるさんも凄い台詞を軽々と使われますね。若い頃はもっとたくさん言って欲しかったけどなあ。
弁当に突っ込みをいれるのは、つるさんの特許ですか。
ピンクのでんぷ(なつかしい)で「?」マークを書いて、その間に海苔でハートだとどうなるかなあ。おなじか?もうちょっとでネタになりそうだけど。つるさん、参考にさせていただきます。
だっくす史人
2007/09/21 01:03
これ書くのすげぇエネルギー要りますよね、
キャラが多くて描き分けが大変そうだー^^;
>芸達者な彼らたちの→芸達者な彼らの
方が良いかも知れませんね。
僕高三の文化祭、祖母の葬式で
出れなかったんですよねぇ。
あー文化祭やりたい!(笑)
レイバック
2007/09/21 01:39
だっくす史人さん
台詞については未成年を考慮してシィー!
海苔の黒で切り抜いたハ〜トはなんか腹黒い感じがしますね。
>ピンクでんぶの「?」マーク
無理!(突っ込み)

皆さんに虐待弁当をご紹介したかったものですから弁当ネタを入れてみました。
弁当箱が空っぽだと小さくガッツポーズをします。
つる
2007/09/21 21:22
レイバックさん
ありがとう!「彼らたち→彼ら」早速訂正です。複数形に複数付けてどうする!
キャラについては少しとっちらかってしまって読み手を混乱させますよね。もう少し絞ったほうがよかったのかもしれません。
まあとにかく数をこなして上達を期待するだけです。
>あー文化祭やりたい!(笑)
「学校へ行こう」という番組ありますよね。あれ見ると学校行きたくなりませんか?
何よりの誉め言葉に感謝です。

ちょっと脱線しますが
「柔道部物語3」の感想です。
“技をかけはじめてから7秒で決まる払越”サンザワラカシテモライマシタ
実はわたし柔道部の女子マネだったんです。
つる
2007/09/21 21:24
学校へ行こうの青臭い感じ、大好きです^^
剛くん&坂本くんのヘタレっぷりも(笑)
愛すべきバカ達満載で楽しいですよね。
払い腰ありましたねぇw
それならぜひぜひ1巻から
読んでみてくださいね☆
つるさんはきっと好きだと思うなぁ、
マジ&笑いの匙加減が抜群なのです。
レイバック
2007/09/21 22:52
レイバックさん
読みます。読みます。漫画大好きなんです。
小林まことの絵柄について賛否両論あるそうですが柔道のところはさすがにウマイですね。立ち姿とか技をかける態勢とかさすがです。

>マジ&笑いの匙加減が抜群なのです。
うんうん。『SLUM DUNK』しかり『MAJOR』しかり『犬夜叉』しかりです。
つる
2007/09/22 01:19
虐待弁当、笑えますね。怖いもの見たさ
で見てみたい。
直毅が転げ落ちた理由を佐藤がまったく
気付いてないのがいい(笑)

柔道部のマネージャーだったんですか。
朝青龍の最後は事故ですか、故意ですか?
畳のせいのようでもあり、パトカー来たことから
故意にも思え、いまひとつすっきりしてません。
銀河系一朗
URL
2007/11/12 21:54
銀河系一朗さん
来てくださってありがとう。虐待弁当のサイトの主婦は本を出されたようですよ。そんなお弁当一度食べてみたい。作るばっかりですもん。

朝青龍のコケたのは事故ですよ。ほんとに畳の隙間で足の指引っ掛けるんです。
パトカーはね。かしましい娘っ子たちの出す騒音に近隣住民が通報したんですよ。わたしの住むこの辺ではすぐ通報されます。直接言うということはしないで行政を使うんですね。騒音はもちろん、夜の空き地でボール遊びと花火で通報されたことありました。ソッコーでパトカー来ましたねえ。そんなにウチって常識はずれなのかなと思いました。若い人が楽しんでるのをまあよしとしないみたいです。でも保護者がついていたので許してもらえました。PTAの副会長といったら即ですよ。
このへんは学校とPTAと警察と地域の連絡が密接で連絡会とかで繋がってるんです。笑いました。
つる
2007/11/13 01:52

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