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zoom RSS 「理想の高校生」文化祭7/柔道着物語

<<   作成日時 : 2007/09/20 04:27   >>

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photo by 伊豆の海と海岸に咲く花

柔道着物語
「あっっ!汚ねっっ!」

 長谷川君は慌(あわ)てた。
 試合前に用を足そうとしたところうっかりどっぷり大事な黒帯におしっこがかかってしまった。どうしよう。



「はじめっ!」

「っす!」「っす!」

 じゅんぺいと直毅が交換寸前のダスキンモップのようになってグラウンドを駆けまわっている頃、体育館ではその半面にバドミントン部がそして半面に柔道部がそれぞれの相手校と招待試合を行っているところだった。

 柔道部は団体戦を迎えたところだ。

 トンデモナイ高校とナンジャラホイ高校の伝統ある一戦。創立当初から毎年文化祭にはこうして招待試合を行う。

「お手柔らかに。」

「ト・トンデモナイ。こちらこそお手柔らかに。」

 毎年お約束の挨拶。互いに良きライバルなのだが昨年は長谷川君の大活躍でトンデモナイ高校柔道部篠原監督の面目は丸潰(つぶ)れだった。
 今年、監督はリベンジに萌えて否燃えていた。彼は勝利を確信して意気揚々(ようよう)と乗り込んで来た。なぜならトンデモナイ高校柔道部に3年生に有力な無差別級の選手が転校してきたのだ。130キロはあろうかという朝青龍似のフテブテシイご面相の転校生はすでに某体育会系大学に推薦入学が決まっている。


 対して今年ナンジャラホイ高校柔道部には1年生が10人も入部した。全員がナンジャラホイの学校見学で昨年の長谷川君の8人抜き(→ココを見て彼に憧(あこが)れて入部してきた。

 だがナンジャラホイ柔道部には専用の柔道場がない。普段の練習場所は体育館だ。
 体育館の半面に倉庫から畳を運んで敷き詰める。整った設備で部活に専念できる高校生ばかりではないのだ。
 1年生の始めは背に1枚の畳を運ぶのもやっとだった新入部員もあっちゅうまに2枚4枚と運ぶようになって「補強」の役目も果たしている。
ただ激しい乱取りに時折畳がずれるので練習中は手のすいた者が足払いの要領で直し直し練習している。
 柔道用の畳は家庭用のそれと違い表面にコーティングされている。真夏はペタペタと足にくっつく畳。真冬の受け身は拒絶感すら漂う痛さの畳。

 コーティングされた畳は摩擦で擦(こす)れると熱い。『エビ』という補強でこちらとあちらと往復しようものなら道着を通じても熱さを感じる。人工芝でスライディングするようなものだ。


 今年は1年生に勝ち抜き戦を任せた。白帯の初心者ばかりだが3年生が引退したこの時期2年生が長谷川君を含め4人しかいないセツナイ部にとっては貴重な戦力だ。

 ところがこの日三番目のセツナイ事件が起きてしまった。試合前の打ち込みで2年生の内柴君がずれた畳の隙間に足を引っ掛けて左膝の靭帯(じんたい)を伸ばしてしまった。そして先程の個人戦では秋本くんが右肘を脱臼してしまったのだ。

 2人の負傷者をだし2年生はもう60s級の長谷川君と66s級の井上君だけだ。先鋒(せんぽう)、次鋒(じほう)、中堅(ちゅうけん)を1年生が、2年生の井上君と長谷川君が副将と大将を務める。

 大将なのに長谷川君は白帯で座っている。おしっこがかかった黒帯を部室にあった元部員の忘れ物の白帯と替えたからだ。

 彼の柔道着は薄い。皆のように生地が肉厚ではない。激しい練習に洗いがかかっていつのまにか生地が薄くなった。体によく馴染んでいるとはいえ、こうして並んでいるとなんだか借りてきたつんつるてんの作務衣(さむえ)のようだし、おまけに白帯。中肉中背の優しくて穏(おだ)やかな顔つきの彼はなんて弱っちそうなんだろう。
 柔道部員というよりまるで蕎麦(そば)打ち職人のようだ。

 団体戦が始まった。
あっけなくナンジャラホイの先鋒から中堅がトンデモナイの先鋒にやられた。
副将の井上君が引き分けに持ちこんで長谷川君の出番だ。

 次鋒を払腰で、中堅を内股で、副将を燕(つばめ)返しで、オール一本勝ちでトンデモナイの大将朝青龍を引きずりだした。

 大将戦。
 相手は岩のよう。長谷川君が仕掛けてもびくともしない。しかもいやがって長谷川君に襟を取らせない。いまどきのスタイル。

 ぼくたちも ぞうが見たい 本物のぞうが見たい
 生きているぞうがみたい 本物のぞうがみたい
 ぼくたちの思いを 伝えよう 広げよう
       
   ;(ぞうれっしゃがやってきた『本物の象が見たい』より)

わたしたちは柔道が見たい。本物の柔道が見たい。
生きている柔道が見たい、本物の柔道がみたい。
わたしたちの思いを伝えよう、広げよう。

 組まない組ませない柔道に変化している。加納治五郎先生も姿三四郎もさぞ草葉の陰で嘆(なげ)いていることだろう。

 でかい朝青龍は上から長谷川君の奥襟をとろうと拳骨で故意に顔面パンチをくらわせてくる。長谷川君の顔がゆがむ。何度も何度も顔面パンチ、そして何度も何度もゆがむ顔。

 僅かな隙をついて襟を掴んだ長谷川君が背負いに持ち込むたびドオオ〜ンと相手は前体重を預けて潰しにくる。腹這(ば)いでこらえる長谷川君。背負いに持ち込みドオオ〜ン。持ち込みドオオ〜ン。ドオオ〜ン、ドオオ〜ン、ドオオ〜ン。お隣の半面で床に落ちたシャトルが振動に飛び跳ねる。

「古賀っ!」

「長谷川先輩!ファイっ!」ファイトでました

 長谷川君の再三の仕掛けに「注意」を奪われた朝青龍はあせったのだろう。時間終了間際に押し込んできた。
 長谷川君、沈み込んで背負い投げ。一本勝ち。

 この日二番目のセツナイ事件が起きた。

「したっ!」

「したっ!」

 礼をした長谷川君の真上から朝青龍が覆(おお)いかぶさってきた。
畳の隙間に足を取られた朝青龍はそのメタボな体の全体重で長谷川君の顔を叩き潰した。
 畳とメタボの間で摩擦という理科の実験が証明された。

 そしてこの日一番のセツナイ事件はどの柔道部員のクラスの女子も応援に駆けつけなかったことだ。事件かい!柔道は地味だ。


 トンデモナイの篠原監督は意気消沈して帰って行った。(対義語ココ試験でます/意気揚々←→意気消沈)


 長谷川君が1年生に用意してもらったバケツに頭を突っ込んでいる頃、ナンジャラホイ高校の正面玄関前にサイレンもけたたましくその日一台目の救急車と、朝からの騒音に近所の人が通報したパトカーが到着した。

 冷やしたはずの長谷川君の顔は内出血にみるみる腫(は)れてきた。優しくて穏やかな藤木直人似の長谷川君の顔は見る影もない。
 まるでホセ・メンドーサと戦ったあとの矢吹ジョーのようだ。<長谷川君のファンごめんなさい。つづく>





面相(めんそう)顔つき

補強補強運動のこと/体力をつけるための運動

2枚4枚2枚3枚ではなく畳同士の表を合わせて運ぶので偶数枚になる

作務衣(さむえ)作務衣は「寒っ!え?」

加納治五郎「柔能(よ)く剛を制し、剛能く柔を断つ」の人です/日本柔道の父

姿三四郎架空の人物です

草葉の陰(くさばのかげ)墓の下/死んでから行く世/あの世(小学館新鮮新選国語辞典より)

シャトルバドミントンの羽根

メタボメタボリックシンドロームの略/ウェストの基準値が二転三転してますね




説明も野暮なんですが年齢を問わず読んでもらいたくて補足します。またお目障(めざわり)かもしれませんが読み仮名も付けます。


↓途中ミュージカルに脱線するところなんとか持ち直しました。頑張ったわたしにポチ!
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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
熱がこもってますねぇ^^
柔道は面白いですよね!
特に古賀や野村のように、
技がキレるタイプが大好きです。
キレイな一本が見れるという点では、
国内の試合の方が見応えあるかもなぁ(笑)
最近の国際大会は・・・ねぇ?^^;
レイバック
2007/09/20 21:09
ねぇ。
レイバックさん、昨日はヒントをありがとう。
TUTAYA行ってみましたよ。柔道部物語【3】しかなくてとりあえずそれだけ立ち読みしてきマスタ。TUTAYAでも本屋でも案内してくれたお兄さんが「ああ、あれね」みたいな男子の常識みたいな扱いでしたよ。本を通じてこんなおばちゃんに好意的でしたね。
そんなわけで「柔道部物語」ではなく「柔道着物語」です。
サッカーに比べて柔道はその魅力をうまく伝えられませんでした。
レイバックさんはスポーツお好きのようですね。なんか嬉しい。

>技がキレるタイプが大好きです。
“キレ”それ使うの忘れてマスタ。凹みました。
つる
2007/09/20 21:40
↑間違えました。TUTAYA→Book off
つる
2007/09/21 21:25

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