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zoom RSS 「理想の高校生」BELIEVE〜後編

<<   作成日時 : 2007/08/21 12:23   >>

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photo by SQUALL


BELIEVE〜後編
 長谷川くんがトイレから戻って、カラオケルームに通じる狭い通路を歩いている時だった。
 向こうからやってきた数人組のトップの子がすれ違いざまに、

「痛えな」と言った。

 肩が触れるか触れないかぐらいだったので長谷川君は、

「悪い」と言って脇をすり抜けようとした。

「ちょ待てよ」キムタク?

 キムタクとはおよそ似ても似つかないキムキム兄やんみたいな最後尾の男が長谷川君の靴を踏んで言った。

 長谷川君が転びそうになって振り返ると、そいつは“バナナパンチ”の出入口に向かって顎(あご)をしゃくった。どうやら『ついて来い』と、言ってるようだ。
 しばらく相手を睨(にら)み付けていた長谷川君だったが、もう一度相手が顎をしゃくってみせたので、ついて行くと店の前のエレベーターホールに出た。そいつらが止まった。
 古いビルの硬い(かたい)床はツルツルと磨きあげられている。

「いてえなあ。いてかったよなあ」

 と、キムキム兄やんは仲間に相槌(あいづち)を求めるように言った。その大柄な体を折るようにして長谷川君を下から覗き込む。長谷川君は黙って相手の襟元を見ている。

 長谷川くんが大人しいのでキムキム兄やんはさらにつけあがって言った。

「骨が折れちゃったかもしんないよ」

 とんだ言いがかりだが黙っていた。

「ちょっとお財布見してくれるかなあ」

 キムキム兄やんは、腰パンのポケットに手を入れて笑った。袖を捲くったジャケットの下はタンクトップ。

 いまどきのカツアゲ。チョット見はヒジョーに友好的なそれ。先輩が後輩に声を掛けているようにしか見えない。もしここに防犯パトロールの警官が来たとしても、財布の見せっこをしてましたと、言う。性質(たち)が悪い。

「見してくれるかなあ」

「いやだ」

 はっきりした声で長谷川君は言った。







「行こう!」

 ニイケンは自分のデイバックを背負うと立ち上がった。

 彼は海外帰国子女だ。海外の暮らしを経験した彼は、平和ボケしたそのへんの日本人よりずっと危機感が強い。自分の身は自分で守る。鍵を掛け忘れた自転車が獲られなかったり、落とした財布が戻ってくる、なんて今だに信じられないことばかりだ。
 それに彼は一つ年上だった。向こうとは学年の始まりが半年ずれている。転入を半年待って結局一年遅れた。だが彼もこの三人も、そんなことは気にも留めない。

 どうかした拍子に思い出されることがある。それはこんな時だ。

 ニイケンのただならぬ気迫に、直毅も自分の荷物を背負い、長谷川君のスポーツバックをその上から斜め掛けした。じゅんぺいも同じく斜め掛けすると、一番に部屋の外へ飛び出した。







 キムキム兄やんの不幸は襟付きのジャケットを着ていたことだろう。
「おい!」と言って彼が一・ニ歩前に出た時だった。長谷川君は彼の右足に体重が乗ったのを見逃さなかった。

 目にも止まらぬ早さで相手の左襟首と右袖を掴み、相手を下方に崩そうとした。相手は大きい。今度は上体を起こそうとする相手の懐(ふところ)に飛び込んだ。半身で右手を肘ごと相手の右襟首に巻き込むように持ち替えると、左手は握った袖を強く引いた。

 長谷川君が相手の体の下になった。相手の体が浮いたと同時に、彼の右足は相手の向う脛(むこうずね)を払った。一瞬の出来事。


 山嵐だ。


 明治時代に講道館四天王のひとりとうたわれた西郷四郎六段の得意技だ。「西郷の前に山嵐なし、西郷の後に山嵐なし」と言われた。オリジナルは釣り手と引き手の持ち方が正式ルールに沿わないので滅多なことではお目にかかれない技だ。

 小さな者が大きな相手にかける。

 長谷川君の腰を支点に、相手のVになった足が大きな弧を描いた。







 じゅんぺいとニイケンと直毅の三人が通路に出た時、その通路の正面できれいな大車輪が咲いた。

 顔を見合す三人。

「古賀!」

 じゅんぺいがホールの人の輪に突進した。
 
 長谷川君が相手の袖を持ったままゆっくり上体を起こした。じゅんぺいは彼のGパンの後ろを掴(つか)むとエレベーター横の階段へ走った。

「あゥ! あゥ!」
 投げられたキムキム兄やんは痛がって転げまわった。床に叩きつけられて、後ポケットの二台の携帯が彼の左骨盤を砕いた。


 直毅とニイケンも横をすり抜けると、階段なんてもう二段三段飛ばしで駆け下りた。
 二人が表に出ると、じゅんぺいと長谷川君が少し先を人を避(よ)けながら走って行く。直毅はDF(ディフェンス)らしくありったけの声を飛ばした。

「ひらけーっ!」

 じゅんぺいと長谷川君はパッと右と左に分かれた。

「あそこでっ!」

 ニイケンも続けて叫んだ。じゅんぺいが後ろも見ずに片手を挙げた。長谷川君もちらと後ろを振り返り頷(うなづ)いた。

 直毅とニイケンを追ってバラバラっと二・三人がビルの階段から飛び出してきた。 二人とも俊足ではないが40分ハーフの試合時間80分間を駆け回るDFだ。持久力ではタバコを吸う不良には負けない。

 しばらく走ると、二人を追いかけてくるのは一人になった。どうやら足自慢のようだ。
 路地を曲がったり広い道路に出たりしながら直毅とニイケンはほぼ平行して走る。お互いを見なくても目の端(はし)でわかった。

 直毅の背負ったスポーツバックに追っ手の指がかかりそうになった時直毅は横を見た。ニイケンも見た。

 その途端ふたりはフェイントをかけるようにストップしそして今来た道へ向かって思いきり走り出した。

 突然の切り返しに、追っ手はもう遥か彼方(かなた)に置いてきぼりだ。

 いつも二人で仕掛けるオフサイドトラップのタイミング。

 すぐに左右に分かれて、ビルとビルの谷間の路地に飛び込んだ。あとはもうそれぞれ後ろも見ない。ありったけのスピードで約束の場所へ向かった。







“あそこ”とはナンジャラホイ高校の近くにある運河沿いの倉庫裏だ。蔦のからまる北側のそこは、夏はひんやりと気持ちがいい。夕方になると運河の上を風が渡ってくる。直毅たちの溜まり場だ。

 直毅が着くと、もう三人は来ていた。彼はもちろん、三人の息はまだあがっている。四人の目が合うと、息も整わないうち可笑しくて笑った。

 長谷川君の頬から血が滲んでいる。投げた時に、相手の時計か何かの金物(かなもの)で引っ掻いたんだろう。

 とにかくみんな無事で良かった。

 倉庫の壁に寄りかかって座ると、対岸のビルとビルの間に花火が上がった。

 今日は東京湾の大華火大会だった。

 ポポン! ポポン! と打ち上げられる花火。それはさっきエレベーターホールで見た長谷川君の大車輪のようだった。

 誰も何も喋らない。

 次から次へと打ち上げられる花火に四人の目は釘付けになった。

 パン! と破裂した火の粉が消えると、その周りに二重三重に現れる黄色やオレンジの輪に、「おおっ!」なんて歓声を上げた。

 高く打ち上げられてクラッカーのように飛び散った花火が、ターっとしだれ柳のように落ちてゆく様子に指笛を鳴らした。

 しばらくそうしているうち、花火が終わった。

 じゅんぺいが「あっ。そうだ」と言ってスポーツバックから花火の包みを取りだした。

 逃げる最中にちゃっかりコンビニに寄ったようだ。

 大きいのや小さい花火の最後に、中くらいの棒についたやつに火をつけて、四人は運河の淵に立った。

 ぼうっと燃える花火を対岸に向けると、意味もなくグルグルと回した。





 いつか恋人と一緒に、または家族と一緒に、それなりの思い出が残る花火を見るだろう。






 だが、今夜四人で見た花火も、決して忘れない。 

 皆の心に静かに<BELIEVE>の曲が流れている。






 新学期になって、隣の高校の“古賀君”が袋叩きにあったという噂を聞いた。





 
<おわり>





40分ハーフ試合時間80分国際ルールでは45分ハーフですが高校生の試合時間は5分短いのです

オフサイドトラップう〜んむずかしそうですねえ試合観戦中は動体視力のないわたしにはなかなかわかんないです



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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
おもしろくってなんかしんみり・・
ここでBELIEVEが出てくるんですね(^^
青春のなんかとってもありそうなお話で・・こんな体験って誰でも一度はあるんじゃ〜ないかな・・悪い事したな〜ってこと・・・(^^)
で、今日もまた”キムタク有り”、”キムニイ有り”でなんとも言えずよかったですよ(^0^)ワーイ
mimi
2007/08/22 18:46
mimiさんがコメントくださってアップできた話です。
でもね。男の世界はもっと厳しいです。やっぱり女が書くとキレイ事になっちゃいます。
スピード感とか勢いを止めずに書くのはムズイです。
とにかくうまくなりたいなあってつくづく思いましたよ。
いつもいつも嬉しいことを言ってくださって本当にありがとう。
つる
2007/08/22 19:47
こんにちは。見に来るのが遅くなってしまいました。
1で長谷川君がどうなるのかちょっとやな予感がしたけど、そうだ柔道部なんだから大丈夫かも?と2を読みました。
良かった……。いつのまにか長谷川君に親近感を持ってます。

つるさんは高校生の会話を書くのが上手ですね。しかも長い間連載をされててすごいです。
私は飽きっぽいので短編ばっかり書いてるんです。
七花
URL
2007/11/29 23:56
七花さん。来てくださってありがとう。
なんかね。長谷川君てせつないよね。苦労してるからでしょうか。この年になってわかるけど子どもって多少苦労した方がいいんじゃないかなって思いますよ。はじめはサッカー部の3人を軸に理想の高校生を書こうと決めていたのだけど実際の高校生を見ると決して同じような集まりの中で友だちしてるんじゃないなと急遽増員したのが長谷川君なんです。
実はわたしもあきっぽいんですよ。だけど書いてるうちに連載の味しめました。だって人物設定がいちいちいらないんですもん。楽ですよ。
ただ連載って途中からはいるのが面倒なんですよ。だから人気ありません。でも自分の経験上面白ければさかのぼって見たくなるんです。だから一回一回を面白く書けるようにがんばっています。ええもう半分意地で連載してます。

一番難しいのは短編です。一行だって無駄な文章ありませんものね。その中で起承転結でしょう。すごいなあと思いますよ。その長さで泣かせるとこまでもっていかれる方もいらっしゃるんだから舌を巻きます。
七花さんの新作を楽しみにしています。
つる
2007/11/30 10:08

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